愛着障害の指導者に国を任せる危険性

 幼児期において、養育者から豊かな愛情を受けられずに育てられると、やがて深刻な愛着障害になりやすい。特に、無条件の愛である母性愛を十分に注がれないと、愛着障害で苦しむことになる。大人になっても強烈な自己否定感を抱えて生きるのであるが、自分に自信を無くしてしまい、強烈な不安感の故に社会不適応を起こして、不登校やひきこもりに陥ってしまう。ところが、中にはこの愛着障害による二次的症状として、強烈な自己愛のパーソナリティ障害を起こしてしまい、超攻撃的人格を持つ人間が生まれてしまうことがある。

 同じ愛着障害でも、この超攻撃的な自己愛性のパーソナリティ障害を持つ人間は、権力欲が非常に強いうえに、能力もある程度高いので、組織の中で頭角を現して昇り詰めることが多い。競争相手を巧妙に蹴落とすスキルも高いし、上に媚びへつらい忠誠を誓うので、上司から引き立てられるので出世が早い。職場においては、巧妙なパワハラやモラハラで、部下を潰してしまうことが多い。政治の世界では、忠誠心が強いのでトップから可愛がられ、競争相手を蹴落とす権謀術策に長けているから、トップに昇り詰めるケースが多い。

 愛着障害からの自己愛性のパーソナリティ障害を持つ政治家として一番有名なのは、かのアドルフ・ヒットラーである。彼は強烈な攻撃的な性格の持ち主で、競争相手を粛清して独裁者となった。とても強い性格であったと思われているが、実は小心者であったのではないかと言われている。本当は、不安感と恐怖感がいつも自分を支配していて、強い自己否定感を抱えていたと思われる。不安感と恐怖感が強くて、妄想性の障害をも抱えていたのではないかと見られている。強い愛着障害があったからこその症状であろう。

 アドルフ・ヒットラーは独裁者となってからも、自分の地位や名誉が奪われてしまうのではないかと常時恐れていた。だからこそ、自分に対する批判や非難を怖れ、極端な情報統制をしたのであろう。自己否定感が強くて不安・恐怖感が強いからこそ、その反動で自分が特別で万能であると思ってしまうのであろう。だから、マスコミが自分を非難・批判するのを許せないのだ。マスコミを統制する政策を実施する指導者は、おしなべて自己否定感が強い愛着障害と自己愛性のパーソナリティ障害を抱えていると言っても過言ではないだろう。

 過去の著名な為政者でも、同じような情報統制の政策を実施した人物が多数存在した。そして、現代の国のリーダーの中にも、同じ障害を抱えている人物は枚挙に暇がない。アジアにおいては、K氏やS氏も同様であるし、米国で圧倒的な支持者がいるT氏も同じだ。T氏は極端なマスコミ嫌いで、大きな圧力をかけていた。そして、今世界中で困惑している指導者P氏もまた、愛着障害と自己愛性パーソナリティ障害を抱えているのは間違いない。彼は、妄想性のパーソナリティ障害も抱えているので、非常に危険な人物だと言えよう。

 K氏やS氏は、普通選挙によって投票された訳ではないので、国民(選挙民)に選んだ責任はない。しかし、T氏やP氏を選んだのは国民である。強いリーダーシップを発揮して、強い自国を造ってくれる人物を選びたくなるのは仕方ないかもしれない。アドルフ・ヒットラーは演説の名手であったという。短い解りやすい言葉で、国民を熱狂させた。強くて大きなドイツを造ろうと演説して、多くの熱狂的支持者を得た。米国のT氏も、かつての強大な米国に戻すという演説で、熱狂的な支持者を得ている。P氏もまた同様である。

 日本でも、つい最近までマスコミに圧力をかけて、自分を批判する経営幹部やキャスターを追い落としたリーダーがいた。その彼もまた、強い愛着障害を持っていた。こんな指導者を選ぶ危うさを認識すべきであろう。P氏、T氏は、確かに優秀な政治家に見えなくもない。しかし、上手く行っている時は問題ないが、自分が人々から見離されられてしまったら、とんでもない行動をしかねない。実際に見捨てられてしまったら、自虐的・破滅的行動を取るだろう。自分だけが破滅するならいいが、こういう人間は善良な人々までも巻き込み国を滅ぼすこともする。そんなP氏が核のスイッチを握っているというのは、恐ろしいことである。

双極性障害とPTSDを乗り越える

 リトルグリーモンスターの芹那さんが、双極性障害とPTSDにより長期休暇をすると報道されたこともあり、双極性障害とPTSDという精神疾患に注目が集まっている。どんな疾病かと言うのは、ネットを調べれば解ると思うが、治療が非常に難しい難治性の疾患であるのは間違いない。投薬治療やカウンセリング・各種セラピーにより、症状は幾分か和らぐケースもあるが、完治するのは難しい。原因はストレスによるものではないかというのは解っているが、はっきりした発症メカニズムは解明されていない。

 リトグリの芹那さんは、ご自分でADHDであるともカミングアウトされているが、ASD(自閉症スペクトラム障害)と双極性障害が併発することも少なくない。ASDが根底にあると、双極性障害を発症しやすいということかもしれない。また、ASDと双極性障害があると、PTSDになりやすいと言うこともあり得るだろう。芸能界、特に人気があることを常に要求され、多大なプレッシャーに押しつぶされそうになる場所に長くいると、メンタルがやられてしまうのも当然かもしれない。

 双極性障害が何故起きてしまうのかということだが、過度のストレスやプレッシャーによる影響であろうとは思うが、同じような過度のストレスやプレッシャーにさらされても発症しない人もいる。つまり、個人差があるということになる。それでは、どういう人が発症するのかということが解ると、予防することも可能になるし、症状を和らげる方法だって解るかもしれない。ASD、双極性障害、PTSDがあるようなクライアントを今まで多数サポートした経験から判断すると、愛着障害が根底にあるような気がしてならない。

 愛着障害と言っても、重症の人もいれば軽度の人もいる。虐待やネグレクトをされた子どもだけでなく、一見するとごく普通に育てられたように見える家庭の子どもだって愛着障害になることもある。今まで多くの不登校やひきこもりの方々を支援させてもらって見えてきたのは、日本人の大多数の人が愛着障害であるという事実である。その愛着障害ゆえに強烈な生きづらさを抱え、メンタルを病んでいる人が多いのである。そして、愛着障害が根底にあって、二次的症状としてASDが現われ、メンタル疾患を発症しているのだ。

 日本人の半数以上が愛着障害であると言っても過言ではない。おそらく日本人の中で、生きづらさを感じている人は、半数以上を数えることであろう。そして、その生きづらさは愛着障害によるものだと言っても間違いない。気分障害のメンタル疾患を発症した方々をいくら治療しても治りにくいのは、根底に愛着障害があるからだと言える。愛着障害が癒されない限り、どんな治療を施しても完治することはないと断言できる。そして、双極性障害とPTSDも愛着障害を癒してあげなければ、完治することはないであろう。

 ということは、難治性の疾患である双極性障害やPTSDだって、愛着障害を癒してあげれば、その辛い症状が和らぐし社会復帰だって可能になるということである。とは言いながら、愛着障害だって癒すのは容易でない。なにしろ、愛着障害が起きてしまうのは、親からの三歳頃までの養育の偏りによるものだ。絶対的な自尊感情は、幼少期に育まれる。一度確立されてしまった自己否定感は、容易には払拭できず、不安感や恐怖感はぬぐい切れないのである。ましてや、愛着障害によって大変な経験を積み重ねて、ポリヴェーガル理論における迷走神経の遮断が起きているから、愛着障害を癒すのは難しい。

 親が劇的に変われば、愛着障害が癒されることもある。しかし、親が変わるのはあり得ないから期待できない。親に代わって、いかなる時でもありのままにまるごと愛してくれて守ってくれる存在があれば、愛着障害は癒される。しかし、パートナーにその役割を果たしてもらうことは期待できそうもない。とすれば、臨時の安全基地としての機能を果たしてくれる支援者がいれば、愛着障害が癒されるかもしれない。そして、精神面のケアーだけでなく、身体的なケアーであるボディーワークもしてくれるセラピストであれば、さらに癒される確率は高くなるに違いない。迷走神経の遮断も止められる。そうすれば、双極性障害やPTSDも寛解すると思われる。

PMDDやPMSを癒すには

 月経がある女性の約7割から8割にPMS(月経前症候群)の症状があるという。また、PMSの症状により仕事や家事に何らかの影響を及ぼしていると答えた女性は、5割にも上ることが解った。そんなにも深刻な症状を起こすPMSであるが、PMSという病気があることを知らない女性が多いらしい。そして、PMSという病気があるということを知っている男性は、専門医など医療職を除外すると、殆どいないと言う。結婚した女性のうち、PMSの症状が強い人ほど、夫婦喧嘩をしやすいというから深刻である。

 PMSの症状があるのは、月経がある女性の約8割にもなるというのは衝撃的であるが、そのうちの何割かの女性は、より重症のPMDD(月経前不快気分障害)で苦しんでいるという。イライラ、気分の落ち込み、不安、怒りっぽくなる等の深刻な症状が起きるのがPMDDである。これらの精神的な症状によって、仕事が手につかなくなったり、子育てや家事が出なくなったりする。さらには、人間関係を損なったり、仕事を辞めざるを得なくなったりもする。なにしろ、あまりにも不安感が強いからひきこもりたくなってしまうのである。

 こんなにも深刻な影響を与えるPMSとPMDDを何とかしないと、人生が破綻しかねなくなってしまう。それぐらいPMDDというのは、当人にとって深刻なのだ。医療機関で受診して、PMDDを治療しようと思ったとしても、快癒することはあまり期待できない。なにしろ、PMDDという疾病を理解しているドクターが少ないし、ましてやPMSとPMDDの専門医がごく僅かしかいないのである。せめてうつ症状に対する抗うつ剤の投与かピル剤を処方するしか方法がない。そもそも、本当の原因さえ知らないのである。

 PMSやPMDDは、概ね月経の14日前から症状が起き始めて、生理開始後3日目くらいまで続くことが多い。ということは、半月くらい症状が続くと言うことである。つまり、月経が始まって閉経するまでの約40年以上、人生の約半分という長い期間を憂鬱な気分で過ごすということになる。そういう辛さを知っている男性は皆無であろう。最新の医学研究によると、単なるホルモンによる心身の異常ではなくて、脳や神経系統の異常があるということも解ってきている。そして、どうやら迷走神経も関係しているらしいのである。

 PMDDの症状であるうつ気分や希死念慮、そして強烈な不安と自己否定感ということを考慮すると、女性ホルモンの影響によるものだけとは考えにくい。脳の機能異常や神経系統の異常もあるということは、根底に愛着障害があって、その影響で背側迷走神経が活性化してしまい、自律神経の破綻が起きているとしか思えない。つまり、背側迷走神経が暴走を起こしてしまい、シャットダウン化が起きていると見るべきであろう。したがって、治療が難しいし、完治することが期待できないと思われる。

 という発症プロセスだということが解れば、PMSやPMDDの症状を癒すことも可能だということになる。愛着障害を和らげて、背側迷走神経の活性化であるシャットダウンを解いてあげれば、PMSやPMDDの症状も和らぐであろう。そして、月経前の不快気分もなくなるに違いないし、身体症状も和らいで行くに違いない。そうすれば、ライフスタイルも大きく変化するだろうし、今まではできなかったことにもチャレンジできるだろう。今までの白黒フィルムのような世界から、総天然色のような世界に飛び込む気分になるだろう。

 愛着障害は、優秀なカウンセラーやセラピストに適切な愛着アプローチを受けることが出来たなら、徐々に愛着障害を癒すことが可能だ。そして、背側迷走神経の活性化によるシャットダウンを停止させて、腹側迷走神経活性化させるには、適切なエクササイズが有効である。基本エクササイズとサラマンダーエクササイズを組み合わせて実施すると、自律神経の誤作動が正常になり、シャットダウンが解けてくる。さらには、緊張した筋肉に対する神経筋膜リリースも組み合わせると、もっと効果が高くなる。この三つを組み合わせて根気よく実施することで、PMSやPMDDが治るに違いない。

PTSDは心身のシャットダウン化

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)というメンタルの病気は、非常に治療が難しいし予後が良くないと言われている。その中でもとりわけ完全治癒が難しいのが、複雑性のPTSDであるというのが、精神科医の共通した見解であろう。眞子内親王殿下が、マスコミやネットからの度重なる批判的な言動を受けて、複雑性PTSDの症状になっておられるという宮内庁からの発表があった。戦争や大震災、大事故などの強烈な体験によって起こすのが単純性PTSDと定義されている。それよりも予後が悪いのが複雑性PTSDだと言われる。

 このPTSDというメンタル疾患は、心的外傷(トラウマ)によって起きるのであるが、どうしてこんな症状が出てしまうのかは、あまり解明されていない。特に、心が麻痺をしてしまったり解離症状を起こしたりするケースでは、どうしてそんな症状を呈してしまうのか不思議だと思われている。ましてや、複雑性PTSDのように何度も同じようなストレスを受け続けることで、どうして心の解離や遮断、または凍り付きが起きるのか、その機序が不明であることから、治療が困難なのだと思われる。精神科医泣かせの症状であろう。

 そして、PTSDによる症状は精神面だけでなく、身体症状も起きるから深刻である。例えば、聴覚や視覚、嗅覚、さらには味覚の異常も起きることもある。特定の強い光を見ると恐怖感が起きたり、地響きのような重低音を聞くと身体が硬直を起こしたりする。また、顔面神経麻痺や顎関節症を併発することもあるし、PMDDやPMSの症状が起きることもある。深刻な肩こりや片頭痛が起きることも少なくないし、線維筋痛症を発症することも多い。何故にそんな心身の症状が起きるのかというと、迷走神経の暴走によるものだからだ。

 自律神経は、交感神経と副交感神経の二つのバランスで成り立っていると考えられていた。ところが最新の医学理論であるポリヴェーガル理論が、自律神経の常識を変えたのである。副交感神経の殆どが迷走神経であるが、迷走神経には二種類あることが判明したのである。ひとつは、従来の副交感神経である休息や社会交流を生み出す腹側迷走神経と、もうひとつは闘争も出来ず逃走も不能な状態に追い込まれた時に働く背側迷走神経である。だから、闘争や逃走時に働く交感神経と、二つの迷走神経と、全部で三つの自律神経が存在するのだ。

 腹側迷走神経と背側迷走神経の働きは、同じ迷走神経でありながら、真逆の働きをする。腹側迷走神経は、休息、安定、安心、社会交流をサポートしてくれている。一方、背側迷走神経とは、逃げることも出来ず闘うことも適わない状況に追い込まれてしまった時に、スイッチが入ってしまう自律神経である。この背側迷走神経が働いてしまうと、心身のシャットダウン化が起きるのである。自分が意図していないのに、身体が勝手に反応するのだから厄介である。何故、そんな迷惑な働きをしてしまうのかというと、自分自身の心身を守る為に、やむを得ず心身のシャットダウン化が起きるのだ。

 どういうことなのかというと、闘争も逃走も出来ない状況に追い込まれた人間は、心身の破綻や倒壊を起こしたり、または自分の命を自分で絶ってしまったりしかねない。それを防ぐ為に、自己防衛反応として遮断や凍り付きを起こすのである。嫌な記憶を思い出したり考えたりしたくない為に、感情を塞いでしまうこともある。つまり、心も身体も完全に閉じてしまい、人形さんのように不動の状態になってしまうことも少なくない。不登校やひきこもりは、まさしく心身のシャットダウン化を起こしているから起きると言えよう。

 やっかいなことに、一旦背側迷走神経が活性化してしまうと、シャットダウン化からは容易に抜け出せなくなる。投薬治療を続けても、そしてどんなにカウンセリングやセラピーを受けたとしても、なかなか背側迷走神経の暴走は止めにくい。何故なら、メンタルだけの問題だけでなく、迷走神経は身体の変化をもたらしているので、ソマティツク(身体的)ケアーも必要だからだ。最新のポリヴェーガル理論の研究により、自分で出来る身体エクササイズと神経筋膜リリースを併用することで、背側迷走神経の活性化から腹側迷走神経の活性化に戻ることが可能になることが判明した。この方法を駆使すると、パニック障害や自己免疫疾患などの難病さえも、症状も軽くなると言われている。難病に苦しんでいる人には朗報だ。

パニック障害の本当の原因

 何ならかのきっかけによってパニック発作が起きてしまい、その発作が何度か繰り返すことにより、また起きてしまうのではないかという不安からそのきっかけがなくてもパニック発作が容易に起きてしまう症状をパニック障害という。動悸や心拍数の増加、発汗、息切れや息苦しさ、吐き気、めまい、しびれやうずきなどの知覚異常、コントロールを失う恐怖、死ぬことへの恐怖などの深刻で苦しい症状が起きる。不安から起きる一過性の病気として過換気症候群があるが、この症状からパニック障害に移行する例も少なくない。

 パニック障害は珍しい病気ではない。100人に1人はパニック障害になると言われている。そして、女性は男性の2倍もの確率でパニック障害になると言われている。ましてや、この不安だらけの現代では、益々パニック障害になる人が増えつつある。したがって、女性では50人に1人か30人に1人程度の割合で、パニック障害になっているのではなかろうか。由々しき大問題である。治療は薬物療法と認知行動療法を併用して行なうことが多いが、治療効果はあまり上がらない。難治性のパニック障害であることが多い。

 パニック障害の原因はまだ完全には解明されておらず、少しずつ解明されつつあるものの、まだまだ不明なことが多いらしい。危険な状態に追い込まれた際に、自分の命を守る体の防衛反応であり、自律神経の異常か暴走によるものではないかと考えている専門家が多い。とは言いながら、それがどんなメカニズムやシステム異常によって起きるのかは解明されていない。しかし、これはポリヴェーガル理論によって説明できるのである。ポリヴェーガル理論とは、最新の自律神経に関する学説であり、多重迷走神経理論と訳される。

 今までは、自律神経は交感神経と副交感神経の2つによって調整されていると考えられていた。ところが、副交感神経の殆どは迷走神経であるが、複数の迷走神経系統が存在することが解ったのである。通常リラックスした時や休息時に働く腹側迷走神経(従来考えられていた副交感神経)と、命の危険にさらされた時に働く背側迷走神経があることが判明したのである。命が危険だと感じた緊急事態に、自分の身体と精神を守る防衛反応として背側迷走神経が働くのである。これがパニック発作の起きる主原因であると考えられる。

 それでは何故そんな迷惑な症状を起こしてしまう背側迷走神経が働いてしまうのかというと、命を守るにはそれしか方法がないのであろう。肉食動物に襲われて命が危険な状態に追い込まれた小動物は、背側迷走神経が働いて『死んだように動かなくなる』のだ。死んだ動物を食べない肉食動物から自分の身を守る最終手段だ。『狸寝入り』というのも、この背側迷走神経によるものであり、狸は本当に失神状態になるのである。人間も同じように、自分の身体や精神が破綻することを防ぐ為に、背側迷走神経が働き、パニック発作が起きると考えられる。

 小動物は背側迷走神経が一旦働いて失神したとしても、危険が去ると何事もなかったように復活することが出来る。ところが、人間は一度発作が起きるとなかなか完全な復活ができないし、何度も発作を繰り返すことが多い。何故かと言うと、人間は不安や恐怖心が多いからではないかと思われる。特に女性の方が、不安感が大きいことから、パニック障害が起きやすいのではなかろうか。それでは、誰にでもパニック障害が起きるのかと言うとそうではなく、特定の心理的傾向を持った人がパニック障害になりやすいと言われている。

 それはどういう心理的傾向かというと、不安や恐怖感が普段から大きい人であり、神経が過敏な人であろう。それは、絶対的な自己肯定感が確立していない人であり、いわゆる自己否定感情が大きい人である。さらには、神経学的過敏症と心理社会学的過敏症である、HSPの症状がある人である。つまりは、こういう人というのは傷ついた愛着や不安定な愛着を抱えている人であり、愛着障害と言っても過言ではないだろう。愛着障害を抱えていることで、パニック障害を起こすと考えられる。パニック障害を乗り越えるには、愛着障害を癒すしかないということも言える。

ストレスからトラウマの時代へ

 ストレスを感じながらも、それでも何とか生きている人は少なくない。ストレスはどうしたって誰にもあるから、仕方ないと思っているだろうし、ストレスに負けては生きて行けないと必要以上に頑張っている人も多いだろう。確かに、ある程度のストレスは自己成長に欠かせないものだし、ストレスを乗り越えることで自信を深めていけるという効果もある。しかし、自分ではストレスだから何とかなると思って居たら、それが深刻なトラウマだったというケースがある。トラウマは、簡単には乗り越えられないし、より深刻化しやすい。

 

 複雑化した現代社会は、とても生きづらいと思っている人が多い。それはストレス社会だからというが、実はそれはストレスだけではなくて、より深刻なトラウマを抱えているからではないだろうか。つまり、我々が生きるこの時代は、ストレスからトラウマの時代になっているということではないかと思えるのである。だから、こんなにもメンタルを病んでいる人が多いし、なかなか回復できない人が多いのであろう。不登校やひきこもりで苦しんでいる方々も、実はストレスによるものではなく、トラウマの影響だと考えられる。

 

 どうしてこんなにもトラウマを抱えた人が多くなったのであろうか。ひとつは、現代人のメンタルが非常に傷つきやすくなっているという要因が挙げられよう。現代の青少年たちは、精神的にひ弱で打たれ弱いと言われている。新入社員が厳しく指導されると、すぐに辞めてしまうと嘆いている先輩社員も多そうだ。そして、職場で厳しくされて離職した体験を何度か繰り返すと、社会に出ていけなくなりひきこもりになるケースも少なくない。現代の若者たちは、おしなべて深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えていると言えよう。

 

 現代の若者たちが何故に深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えているかと言うと、それは絶対的な自己肯定感が育っていないからである。自分のことが嫌いな若者が多いのだ。絶対的な自己肯定感があれば、いじめやパワハラ・モラハラに遭ったとしても、不登校やひきこもりまで追い込まれることは少ない。失敗や挫折の体験をしたとしても、乗り越えることが出来るのだ。勿論、自己肯定感だけで乗り越えられる訳ではなく、誰かが支えてくれたり深い絆を実感したりする必要がある。自己肯定感がないうえに、絆がないからトラウマを抱えるのだ。

 

 若者たちの自己否定感があまりにも強いのは、育てられ方に問題があるのだと思われる。 1歳から3歳の幼児期において、ありのままの自分を丸ごと愛されることにより、絶対的な自己肯定感が育まれる。つまり、豊かな無条件の愛(母性愛)に包まれて育てられた子どもだけが絶対的な自己肯定感を持つことが可能になる。ところが、無条件の愛が不足しているところに、こういう行動をしなければ愛さないよという条件付きの愛で縛られるのだから、自己肯定感が生まれる訳はない。さらには、ダブルバインドのコミュニケーションでがんじがらめにされて、傷ついた愛着を抱えてしまう。

 

 こうして傷ついた愛着や不安定な愛着を抱えていると、深刻なトラウマを起こしやすい。しかも、愛着障害であるとHSP(ハイリーセンシティブパーソン)になりやすいから、普通の人よりも敏感な感覚によって、余計に傷つきやすいのである。それでなくてもトラウマを抱えやすいのに、身体的な不調までも起こしやすい。女性は、PMSやPMDDになりやすいし、線維筋痛症や神経性疼痛を発症しやすい。こうして、トラウマは深刻化するし固定化してしまうことが多いのだ。トラウマが長期化するし、ひきこもりが長く続くことになる。

 

 ストレスからトラウマの時代になっているというのは、明治維新以降から近代教育を取り入れ、さらには戦後の子育ての誤謬により、自己肯定感を育てることが出来なかったせいであろう。これからの時代は、トラウマを抱えて生きる人が益々増えるだろう。最近になり「誉める教育」というものが注目されているが、付け焼刃のような誉め方では、あまり効果が得られないだろう。もっと根本的な育て方、あるがままにまるごと愛するという幼児教育がなされないと、自己肯定感は育まれずトラウマを抱えて生きる人が増えるに違いない。由々しき大問題である。

愛着障害という病名はないが

 精神科の医師に、「私は愛着障害なのではありませんか?」と聞いてみてほしい。精神科の医師はこう言うことだろう。「愛着障害という病名はありません」ときっぱりと言い切るに違いない。そして、愛着障害という精神疾患はないのだから、愛着障害を治す薬もないし、治療法もありませんと続けることだろう。確かに、医学界では愛着障害を精神疾患として取り扱っていないし、治療する医師は殆どいない。しかし、実際に愛着障害で苦しんでいる人は非常に多いし、愛着障害による二次的症状で辛い思いをしている人は想像以上に多い。

 

 ひきこもりの状態にいる人は、日本の中で少なくても115万人いると言われている。このひきこもりになっている本当の原因は、単なるメンタル疾患や精神障害ではなくて、愛着障害だと言っても過言ではないだろう。また、発達障害と診断されている中の多くは、愛着障害の二次的症状として現れているだけであろう。発達障害があることで虐めに遭いひきこもりになっているケースでは、元々愛着障害があると思われる。双極性障害やうつ病などの気分障害においては、愛着障害が根底にあることが少なくないのではないかとみられる。

 

 不登校やひきこもり、そして発達障害や気分障害を起こしている根底に愛着障害があるのではないかと思われる。勿論、すべての対象者が愛着障害だとは言い切れないが、かなりの割合で愛着障害を抱えているのは確かであろう。愛着障害とは精神疾患(病気)ではないが、多くの精神疾患の元になっている可能性は非常に高い。そして、精神疾患だけでなくて生活習慣病を始めとする多くの身体疾患に罹患する要因にもなっている気がする。さらには、パーソナリティ障害(人格障害)を抱えている人にも、不安定な愛着を持つケースが多い。

 

 こんなにも深刻な二次的な症状を起こす愛着障害であるが、どういう訳か精神医学界ではあまり注目しない。愛着障害が根底にあっての二次的症状だとすれば、投薬治療では完治させられないし、いくら優秀なカウンセラーやセラピストであっても根本治療は不可能である。現代の精神医療において、医学の発達がこれだけ進んでいるのに治療効果が上がらないのは、根本的な疾病の原因を探り当ててないからと言えないだろうか。愛着障害を克服しなければ、精神疾患を完治させられないし、これからも様々な疾患が増え続けるだろう。

 

 殆どの精神疾患と身体疾患の根本原因が愛着障害にあるのではないかと唯一提唱している精神科医が存在する。それは、岡田尊司先生である。岡田先生は、元々はパーソナリティ障害を専門に研究されていた。パーソナリティ障害を抱えて苦しんでいる青少年を、献身的に治療されていらしたのである。パーソナリティ障害に関する著書や研究論文も多数ある。青少年犯罪を起こすパーソナリティ障害の子どもたちを診療していたら、強烈な愛着障害を抱えていることに気付かれたのであろう。それから愛着障害を癒す治療に専念されてきた。

 

 岡田先生の著書に、『死に至る病~あなたを蝕む愛着障害の教委』(光文社新書)というものがある。現代人は何故幸福になれないのか?どうして生きづらさを抱えているのか?何故、こんなにも精神疾患や精神障害を抱えている人々がいるのか?と問われ、それは根底に愛着障害があるからだとこの著書の中で岡田先生は主張されている。そして、驚くことに自分はごく普通の家庭で育ち、両親からたっぷりの愛情を注がれてきたと思っている人でも、愛着障害を抱えているケースが結構多いことにも着目している。こういう人は、原因が解らない強烈な生きづらさを抱えていて、社会への不適応を起こしている。

 

 愛着障害を抱えている人たちは、殆ど漏れなくHSP(ハイリーセンシティブパーソン)を抱えている。神経学的過敏症、並びに心理社会学的過敏症を起こしてしまっている。故に、強烈な生きづらさと適応障害を抱えているのである。また、愛着障害の女性はPMSやPMDDを抱えているケースが非常に多い。そして、過緊張を抱えているが故に、身体のあらゆる場所に疼痛を起こしていることが多い。線維筋痛症を発症することも少なくない。原因の解らない身体の不調やメンタル疾患を抱えていたら、愛着障害があるのではないかと疑ってみたらどうだろうか。愛着障害を癒せたら、心身の不調は見事に解決できるだろう。

自傷行為(リストカット)をする子どもたち

 日本の中高生のうち、10%の子どもたちが自傷行為を経験しているという。この数字を少ないと思う人はいないに違いない。こんなにも多くの子どもたちが自傷行為をしているということに驚く人が殆どであろう。そして、さらに驚くのは10%の子どもたちのうち、約半数は自傷行為を繰り返していると言うのだ。つまりは、常習的な自傷行為者なのである。子どもたちは、どうして自らの身体を傷つけてしまうのであろうか。そして、その自傷行為を何故繰り返すのであろうか。繰り返すということは、誰も気付いていないということだ。

 

 自傷行為(リストカット)をする子どもたちは、孤独感を抱えているのだという。自分の辛い気持ちを解ってくれる人は誰もいないというか、誰にも話せないらしい。そして、強烈な生きづらさを抱えているし、満たされない思いを抱いているという。孤独だというのなら、自分の傷ついた心を話せる家族や親族もいないのだろうし、友達もいないということだろう。友達が居たとしても、悩みを打ち明けられるような親友はいないということだ。つまりは、家族がいたとしても、天涯孤独という気持ちなんだろうと思われる。

 

 自傷行為をする子どもたちは、親との良好な関係性を築けていないと思われる。つまりは、親との愛着が不安定というのか、傷ついた愛着なんだろうと思われる。そういう意味では、attachment disorder(愛着障害)と言える。愛着障害というと、親から虐待やネグレクトを受けて育った子どもがなるのだと思われているが、けっしてそんな子どもだけがなる訳ではない。ごく普通に愛情たっぷりに育てられた子どもだって愛着障害になるのである。ただし、その愛情のかけ方に問題があるから、愛着障害になってしまうのだ。

 

 勿論、虐待やネグレクトを受けて育った殆どの子どもは愛着障害になる。それだけでなくて、親から過干渉や過介入をされて育った子どもも愛着障害の症状を呈する。または、いろんな事情によって、子育ての途中で養育者が変更になってしまった時にも愛着障害になりやすい。例えば、母親が病気になったり他界してしまったりしたケースである。または離婚や両親夫婦の不仲で、母親が家を出て行ったり、家庭崩壊したりするケースも同様である。両親が四六時中に渡り喧嘩していても、子どもは愛着障害になる。

 

 最近多いのは、父親が発達障害であり、母親がそのせいでカサンドラ症候群になってしまったケースである。こういう母親に育てられたら、殆どの子どもは愛着障害を起こしてしまう。さらには、母親が愛着障害であれば、子どもは同じように愛着障害を抱えることが極めて多い。このように自傷行為をしてしまう子どもは、根底に愛着障害を抱えていることが多いのである。愛着障害はメンタルの不調だけでなく、身体の不調も起こすし、学習意欲も低下することが多いから、不登校やひきこもりになることが少なくない。

 

 愛着障害が根底にあって自傷行為を繰り返す子どもは、どのようにして救えば良いのだろうか。自分の悩みを誰にも話せないのだから、誰も気付かない。学校の先生も気付かないし、養護教員でも気付けないことが多い。例え生徒が自傷行為をしていると気付いても、学校カウンセラーであっても、救うことが極めて難しいだろう。愛着障害は、専門家であっても傷ついた愛着を癒すことは困難だ。何故なら、愛着障害は子どもだけの問題ではなくて、親と子の関係にこそ問題があるのだから、親を癒せないと愛着障害を乗り越えることが難しい。

 

 自傷行為を起こす本当の原因が愛着障害にあるとすれば、愛着障害を癒すことが出来る専門家はいないのかというと、けっしてそうではない。児童精神科医の岡田尊司先生は、愛着障害に精通されていて、治療効果を上げていらっしゃる。岡田尊司先生の研究成果を取り入れて、愛着障害の治療をする専門家も増えつつある。勿論、我が子が自傷行為をしていることを認識できなければ、治療はできない。まずは、自分の子どもが自傷行為をしていないかどうかを発見できる感受性が親に必要だ。もしかすると我が子が愛着障害ではないかと心当たりがある親は、子どもの話を傾聴し共感することから始めよう。

ネバーランドから出ておいで

 ネバーランドという国をご存知だろうか。勿論、実際に存在する島国ではなくて、架空の世界にある島国のことである。ピーターパンの戯曲に出てくる国のことだ。ピーターパンと同じように、ネバーランドに住む子どもたちは年をとらない。永遠の子どもなのである。と言うか、大人になりたくない子どもたちである。ピーターパン症候群というパーソナリティ障害があるが、ネバーランドに住む子どもたちは、ある意味ピーターパン症候群だとも言えよう。日本でも、ネバーランドから抜け出せない大人が沢山いることに驚く。

 

 ピーターパン症候群は、男性に多いと言われてきた。しかし、女性にも同じように大人になり切れず、子どものままの精神状態に置かれたままになっている人がいる。アダルトチルドレンと同じようなパーソナリティ症状を呈する傾向がある。ひきこもりの状態に追い込まれてしまっている人も、ネバーランドの住人だと言えなくもない。ネバーランドの住人達は、その精神が極めて強い幼児性を示す。回避性、または逃避性のパーソナリティを持つ。さらには、強い依存性のパーソナリティも示す。そして、ネバーランドから出て来ようとしない。

 

 ネバーランドの住人たちは、子どものようにプラモデルが大好きだったり、アニメやゲームに引き込まれていたりする。中には、大人になってもキティちゃんが大好きだったり、アニメに登場するフィギュアの収集癖もあったりする。心が子どものままだから、純粋なあまり潔癖症でもあり、完璧主義にも陥りやすい。付き合う相手にも純潔や母性・父性を求める傾向が強いから、恋愛が成就することはあまりない。どうして、ピーターシンドロームになってしまうのかというと、乳幼児期の育てられ方に問題があったせいではないかと思われる。

 

 今でもネバーランドに住んで、大人の社会に出て来られない人は、愛着障害だと思われる。つまり、乳幼児期に何らかの問題があって、十分な母性愛を与えられなかったのであろうと思われる。または、愛情が与えられたとしても条件付きの愛だったし、あまりにも介入や干渉をされ過ぎた愛だったのだと思われる。それ故に親との良好な愛着が構築されなかったので、甘え体質と依存体質を卒業できなかったのだと思われる。あるがままでまるごと無条件の愛をたっぷりと注がれないと、自己肯定感や自尊心が育たず愛着障害になるのだ。

 

 ネバーランドの住人たちは、自分がピーターシンドロームだという自覚がないし、愛着障害だとは思ってもいない。あまりにもネバーランドの居心地が良いものだから、ピーターパンのようにそこから抜け出ようとしない。当事者の自覚がなければ、いくらネバーランドから支援者が彼らを救い出そうとしても、徒労に終わってしまう。なにしろ、ネバーランドの住人は頑固であり拘りが強い。素直に聞き入れることが出来ない。中には、謙虚な気持ちで受け入れてくれる女性はいるが、殆どの男性は頑固であり、聞く耳を持たない。

 

 ネバーランドの住人がそこから抜け出すことは難しいが、ひとつだけネバーランドから出られる可能性がある。男性であるならば、母性愛豊かなウェンディのような女性に出会うことである。ネバーランドに住むのが女性ならば、ウェンディのような母性愛を注げる包容力の豊かな男性に出会うことである。まるごとあるがままに愛してくれる異性に出会い、支えてもらえたならネバーランドから抜け出せるかもしれない。しかし、残念なことにそういう人は稀有な存在であるし、ネバーランドの住人は恋愛下手なのである。

 

 ネバーランドの住人は、精神的に幼稚であるから気ままな性格だし、気分が不安定なので突然怒りを爆発させたり落ち込んだりする。自尊心や自己肯定感が低いから、自分に自信が持てない。対人恐怖症や対面恐怖症があるし、醜形恐怖症が伴いやすい。異性とコンタクトを取るのがそもそも苦手なのである。これでは、恋愛に発展しにくいのは当然である。そんな気難しいネバーランドの住人であっても、そっと支えてくれる異性が現われてくれたなら、勇気を振り絞って甘えてほしいのである。ネバーランドから抜け出せるのは、これしかないのである。さあ、ネバーランドから出ておいで、ピーターパンさん。

一歩を踏み出す勇気が出ない

メンタルが傷ついたり弱まったりしてしまい、一旦不登校やひきこもりの状態になってしまうと、社会復帰が非常に難しくなる。そして、よしんば不登校やひきこもり状態を上手く乗り越えたとしても、再度ひきこもりに陥ってしまうことになりやすい。自分では何とか社会に出たいと思い、勇気を振り絞って一歩を踏み出したいと思うのであるが、なんとも言えない不安が心一杯に広がり立ち止まってしまう。一歩踏み出す勇気がどうしても湧き出ないのである。どうして勇気がないのだろうかと悩みの日々を過ごすことになる。

 

不登校になったり休職・退職をしたりしてしまうのは、心に不安や恐怖を抱えているからである。その不安も特定の何かではなくて、得体の知れない不安であることが多い。何となく将来に対する不安を覚えてしまうことが多い。今まで、いじめや不適切指導を受けた経験を重ねたこともあるし、失敗や挫折を味わったことも影響しているかもしれない。ストレスがトラウマ化している影響もあろう。周りからいくら安心だよと言われたとしても、どんなにサポート体制を取ると言われたとしても、一歩が踏み出せないのである。

 

どうして、不安や恐怖を払拭できないのかというと、HSP(ハイリィセンシティブパーソン)という気質があるからだ。このHSPというのが、非常に厄介な症状を引き起こす。HSPは疾患名ではない。神経学的な過敏症に始まり、それが社会心理学的過敏も引き起こす。神経学的過敏は、聴覚過敏、嗅覚過敏、視覚過敏、味覚過敏、触覚過敏を引き起こす。強い光、大きな音や声、特定の臭い、強い味、触れられることなどに強い嫌悪感を示す。全部の過敏もあれば、一部の感覚だけに過敏を示すケースもある。非常に複雑である。

 

これらの神経学的過敏の症状が、やがて社会心理学的過敏をも引き起こすことになる。例えば大きい声や怒鳴り声に過敏を示す場合、騒々しい場所や多くの人の話し声が聞こえるような場所が苦手になる。騒々しい学校や職場が苦手な場所になるし、電車や飛行機など騒音を発する場所にも行けなくなる。スピーカーから聞こえる音に拒否反応を示すこともある。やがて、あまりにも神経が過敏であるが故に、相手の気持ちが手に取るように分ってしまうことがある。それも、相手の批判的気持ちや悪意に反応するのである。

 

HSPは対面恐怖症や対人恐怖症に発展しやすい傾向がある。なにしろ、人と会うことが怖いのである。しかも不思議なことに、親しくなればなるほど恐怖になるケースもある。相手との距離感が縮まってしまうと、自分の内面を覗かれてしまうような気がするのである。自分の心の裡にある、醜い心や汚い心が知られてしまう恐怖なのかもしれない。このような神経学的過敏と社会心理学的過敏が相まって、一歩を踏み出せなくなるのではないかと思われる。怖いと思う心だけでなく、身体が恐怖で動かなくなってしまうのである。

 

それでは、どうしてこのようなHSPという症状を引き起こして、不安や恐怖を感じてしまうのだろうか。それは、根底に愛着障害(傷ついた愛着・不安定な愛着)があるからだ。そして、何故に愛着障害になるのかというと、安全と絆を保証してくれる『安全基地』がないからである。人は安全と絆が保証されていないと、いつも不安や恐怖を抱えて生きることになる。乳幼児期からいつも不安や恐怖を感じさせられながら育てられると、大人になってからも安心できなくなる。得体の知れない不安にいつも押し流されそうになるのだ。

 

いつも不安になる愛着障害があるうえに、さらにHSPがあるから、一歩が踏み出せず臆病になってしまうのである。それでは、愛着障害を抱えるといつまでも一歩が踏み出せなくなってしまうのかというと、けっしてそうではない。愛着障害を癒すことができてしまえばHSPも和らげることが可能になる。愛着障害を乗り越えてしまえば、一歩を踏み出す勇気が出てくるに違いない。愛着障害を乗り越えるには、臨時的なものであったとしても安全基地が必要不可欠である。安全と絆さえ保証され続けたら、不安や恐怖を乗り越えることができるし、一歩を踏み出す勇気が出てくる。