登山によってメンタルが癒される訳

 メンタル疾患を治そうとすると、その治療には時間を要するし極めて治りにくいということで、一筋縄ではいかないということを当事者も治療者も認識している。投薬治療も劇的に効果が出るケースもあれば、まったく効かないという症例もある。ましてや、確定診断する事さえ難しいこともあれば、誤診だってある。最新医学を活用したとしても、その治療は難しいというのが共通認識である。そんな状況の中、自然体験などによって、メンタル疾患や難治性の精神障害が癒されることが少なくない。そして、本格的な登山経験によってメンタル疾患が治ったという経験を持つ人も少なくない。

 登山によって、癌が寛解した人も多い。癌患者が登山グループを作ってその病気を完治させているケースもある。登山をすることで、精神疾患が寛解するとか症状が軽くなるというのは、自分でも何度も経験しているのであるが、どうしてなのかその理由について考察してみたい。登山というとハイキングやトレッキングのレベルを超えた、2,000~3,000メートルの山登りであるから、メンタル疾患を抱えている人が単独で登るというのは不可能である。当然、誰かのサポートがなければ登れない。厳寒期の冬山登山やクライミング技術を要求されるような岸壁登山は無理だが、夏山であるならサポートにより殆どの山登りが可能だ。

 また、メンタルを病んでいる人が山を登るなんて絶対に無理だと思っている人が多いであろう。勿論、自室に引きこもり寝たきりになり、起き上がることさえ出来ない人が登山をするのは無理である。外の散歩程度なら可能な体力があれば、簡単なトレッキングから始めれば可能だ。適切できめ細かなサポートがあればという条件付きながら、メンタルを病んだ人が登山をするのは可能である。実際に、メンタルを病んでいる方々を登山に連れて行った経験を持っている自分には、自信を持って登山することを薦めている。

 登山によってメンタル疾患や精神障害が癒されるのは何故かと言うと、まずは自然との触れ合いによる癒し効果が挙げられる。人間は自然が豊かで人工物がない空間に置かれると、自然のままの自分でいられる。他人や親族との関係性において、いい人でありたい嫌われたくないと無理したり我慢したりして本来の自分じゃない自分を演じなくても良い。これは非常に楽な気持ちになる。自分らしくありのままの自分でいられるというのは、気持ちが穏やかになる。そして、大きな自然の中に抱かれると素直で謙虚な気持ちにもなれるのだ。

 自然が豊かで樹木が豊富にある場所には、フィトンチッドと呼ばれるストレス軽減効果がある物質がたくさん漂っている。小川や渓流が流れる水辺には、マイナスイオンが多く存在して、自律神経のバランスが保たれるし酸化され過ぎた人体の細胞が生き返る。標高が少しでも高い山に登ると下界より気圧が低くなる。空気中の酸素量が減ると、自律神経の副交感神経が活性化して、ストレスが軽減されて自己免疫力が向上する。美しい眺望に感動して登山道わきに咲き誇る花々を愛でることで、心が癒されるし生きる勇気が湧いてくる。

 山岳修験者たちは、厳し過ぎるような体力の限界に挑むような登山を何度も繰り返すことで、自分の心に住んでいる邪気や弱気、穢れを振り払う事ができた。禊(みそぎ)と呼ばれる修行によって、自分の心身を磨いて清浄なる心を得たのである。我々も、体力の限界とは言えなくても、ちょっとだけ厳しい登山を継続すれば、穢れを払うことが出来るに違いない。まさしく禊のような効果で、清浄な心を持つことができる。そして、厳しくて長い登山道を重い荷物を背負って歩いて頂上に立てたなら、頑張った自分を誉めてあげられる。

 自分自身を心から誉めてあげる、そんな自分の事を心から愛せることが出来たなら、自尊感情が湧き上がってくる。そんな登山経験を何度も積み重ねることで、自分を受容し寛容の心を持って、自分に接することが出来よう。登山による大きな癒し効果だと言える。さらに、登山がメンタルを癒す一番の効果は、なんと言ってもマインドフルネスによるものだと言えよう。三昧(ざんまい)という仏教用語がある。何もかも忘れて目の前のことに没頭することである。まさに『登山三昧』という心境になることで、マインドフルネス効果が生まれる。登山によってメンタルが癒されるのは、以上のような理由からである。

※イスキアの郷しらかわでは、長い期間に渡り登山体験のサポートを通して、多くの悩み苦しむ方々を癒してきました。登りながらのカウンセリングは、自然の雄大さに心も解放されるので、大きな効果を生みます。中には、本格的な山登りである百名山の登山も支援してきました。岩手山、鳥海山、月山、燧ケ岳、会津駒ケ岳、磐梯山、安達太良山、男体山などの名山にもお連れしました。身近な低山のトレッキングから本格的登山まで、クライアントの力量に合わせて登山ガイドをいたします。是非、ご検討のうえ、お問い合わせください。

背外側前頭前野脳DLPFCがクラッシュ!

 DLPFC(背外側前頭前野脳)という医学専門用語が、最近注目されるようになった。最新医学における脳科学研究によって、うつ病はDLPFCの機能低下によって起きているということが判明したのである。以前から前頭前野脳の機能低下が影響しているのではないかと言われてきたが、その中の特定の前頭前野脳であるDLPFCの機能低下がうつ病の原因だと特定されたのである。そのうえで、直接DLPFCにピンポイントで電磁的刺激を与えることで、うつ病が劇的に改善するという治療効果を上げている症例が増えている。

 うつ病を患っている人にとっては朗報なのであるが、このγTMS療法がどこの医療機関でもこの治療が出来るかと言うと、残念ながらまだ普及していない。まだ保健診療で認められるには、二カ月の入院治療や様々制限があり、なかなか認められにくい。自由診療であれば通院治療でも可能だが、すべての医療機関でも簡単に治療を受けられるまでには至っていない。しかし、今まではうつ病の原因は解らないことが多くて、セロトニン神経が影響しているのではないかとの推測(仮説)しかなかったから、すごい発見である。

 以前から、長い期間うつ病などの気分障害を起こしている人の脳をCT画像で確認すると、偏桃体が肥大化して、海馬や前頭前野脳が萎縮していることが解っていた。その前頭前野脳のうちDLPFCに萎縮が起きてしまい、機能が低下しているものと思われる。DLPFCは、コンピュータにおけるフラッシュメモリーのような働きをしていると言われている。一時的に記憶をする機能と、演算機能のように様々な情報を複合的に処理しながら、合理的な判断をする機能を持つらしい。また、倫理的な判断機能も持つとも言われている。

 したがって、DLPFCが機能低下や停止に陥ると、一時的記憶というか最新の記憶が飛んでしまうということが起きやすい。まさにフラッシュメモリーがクラッシュしたかのような状況に陥るのである。正しく合理的な判断能力も失うし、倫理的な判断も苦手になるのである。まさに、うつ病患者が判断能力や記憶能力を失い、休職に追い込まれてしまうのは、このせいであろう。頭では分かっていても、心身がフリーズしてしまったかのように、身体も動かなくなり、脳も機能停止に陥るのである。まるでPCがフリーズしたかのように。

 何故、DLPFCが萎縮して機能が低下してしまうのかというと、そのメカニズムは完全に解明している訳ではないが、こんな推測がされている。強烈な悲しみや寂しさ、怒りや憎しみ、強大な不安や恐怖が次から次へと襲ってくると、ノルアドレナリンが大量に偏桃体に分泌されるし、コルチゾールというステロイドホルモンが大量に放出される。本来であれば、不安や怖れがあり異常興奮を起こしそうになれば、DLPFCが抑え込んでくれるのに、何度も何度も不安や怖れが積み重ねられると、限度を超えてしまい偏桃体が興奮してしまうのである。

 情動反応(逃避や闘争状況)が起きて偏桃体の異常興奮が長期間続いてしまうと、偏桃体が肥大化すると共に、海馬や前頭前野脳が萎縮してしまうのだ。DLPFCが機能低下を起こす。何故、そんな反応を人間の脳はしてしまうのであろうか。おそらく、人間の防衛反応が働くせいではなかろうか。闘う事もできず逃げる事もできなくなると、緊急避難的に心身がフリーズするのである。ポリヴェーガル理論における、背側迷走神経の過剰反応が起きて、自殺や精神の破綻を起こさないように、DLPFCの機能低下が起きて、自分の命を防衛するのである。

 このポリヴェーガル理論における背側迷走神経の過剰反応による心身のフリーズ・シャットダウン化は、トラウマの積み重ねによっても起きることもある。何度も何度も心的外傷を受けることで、徐々に背側迷走神経の過剰反応が溜まりに溜まって、限度を超えた際にフリーズが起きるのであろう。このフリーズをγTMS療法によるDLPFCの機能を復活させて中途半端に緩めてしまうと、自殺してしまう怖れがある。うつ病の回復期に自殺が起きるのは、背側迷走神経のせいである。故に、重症のうつ病にはγTMS療法は適応除外となっている。

※フリーズした心身を完全にしかもゆっくりと緩める為には、心理的安全性を確保してソマティックケアを併用しながら、カウンセリングやセラピーを実施する必要があります。しかし、その際に気を付けなければならないのは、DLPFCの機能低下が起きていると、認知行動療法においては合理的判断能力が出来ないし一時記憶が働かないので、極めて難しいということです。どちらかというと、ナラティブアプローチ療法やオープンダイアローグ療法の方が適用しやすいかもしれません。勿論、その際に簡単な絵や表を使ったりして、視覚にも訴える必要があると思います。

源氏物語は愛着障害のものがたり

 源氏物語というと、あまりにも有名な平安時代の本格長編小説であり、しかも紫式部という女性作家の最初で最後の作品だということで知られている。紫式部という女性がどのような生涯を送ったのか、その小説を書こうと思い立ったモチベーションは何かということが気になる。それ以上に興味が湧くのは、源氏物語に描かれた世界観はどのようにして彼女の心に生まれたのかという点である。主人公である光源氏のあの強烈過ぎるキャラクターとは、どこから着想したのか、何を描きたかったのかが注目されるところである。

 NHKの大河ドラマ「光る君へ」を鑑賞させてもらったが、史実とフィクションを適当に織り交ぜながら、紫式部という女性をとても魅力的に描いていたように思える。勿論、もう一人の主人公である藤原道長も、栄華を極めた権力者という描き方ではなく、悩み多きひとりの男性として描かれていて、好感が持てる描き方だった。ドラマでは、光源氏という主人公と権力の中枢まで上り詰めた藤原道長を、重ね合わせて描いていて、それはそれで面白いアイデアだと感心したが、あまりにも違う境遇なので、あり得ないだろうとも考える。

 とは言いながら、藤原道長たちのように権力を求める飽くなき野望を持つ貴族と、権力や地位を求めながらも果たすことの出来ない苛立ちが異性へと向かう光源氏の根っこは同じではないのかとも思える。何か満たされない思いを政治の中枢に立ち権力を振るうことで満たそうとする藤原貴族、そして満たされない思いを性愛によって昇華させようとする光源氏は、根源とするものは一緒なのではと思えるのである。それはうがち過ぎだと言われそうであるが、権力欲や支配欲と性欲は同じ根源にあるような気がする。

 それにしても、源氏物語に描かれた主人公の光源氏は、稀代の女たらしである。こんなキャラクターを持つ主人公を、どういう心理状態から描こうとしたのであろうか。この源氏物語は、夫を亡くした紫式部が寂しさや悲しみを紛らわせようとして書かれたと伝わっている。その源氏物語が評判を得て、左大臣藤原道長の耳に入り、一条天皇の后である娘の彰子付きの女房として招かれる。一条天皇の寵愛を彰子が得る為に、この源氏物語が利用されたらしい。この源氏物語が、一条天皇と彰子中宮の仲を取り持ったと伝わっている。

 確かに、光源氏が様々な女性との恋物語を展開していくストーリーは、読む人の心をときめかせたに違いない。男女の仲が、魅惑的な恋物語を共通話題にして深まるというのはあり得ることである。それも、不義密通や呪縛による殺人というセンセーショナルなストーリーである。一条天皇と彰子中宮との夜話は盛り上がったに違いない。藤原道長は自身の出世と権力掌握の為に、紫式部と源氏物語を利用したとも言える。とは言いながら、この源氏物語が多くの人々の共感を呼び、大きな感動を与えたのは間違いない。

 という事は、光源氏の気持ちが当時の人々にも共感できたので、フィクションとは言いながら現実にもあり得ると当時の読者が思えたのであろう。つまり、光源氏が母親の愛情に飢えていて、その満たされない思いや生きづらさをエネルギーにして、異性を虜にする原動力になったと読者も感じたのである。権力への飽くなき追求も、母親から愛されなかった思いを政治に反映させたのだと読む人を共感させたのだ。愛着障害による影響が強く出て、あまりにも激しい生き方や行動をさせた人物を紫式部が描き、それが世の中に支持されたのだ。

 愛着障害は、大人になってからも生きづらさや辛くて苦しい人生を強いてしまう。平安時代においても、既に愛着障害によって人生を狂わされた人々が貴族にもいたのだ。愛着障害を抱えた人々の中で、現代の日本においても光源氏のような生き方をしている人物も少なくない。愛着障害が根底にあり、政界での権力闘争でしか自分を表現できないからと、政界でトップに上り詰めた人物もいる。愛着障害を抱えるが故に、性被害の加害者になる人もいるし、リスクある行動をして被害者になってしまうケースもある。源氏物語は愛着障害のものがたりだと言えるし、現代人の生きづらさにも通じる名作だと言えよう。

HSCとHSPが増えた訳と癒し方

 SNS上の投稿やコメントを見ていると、自称HSPだという人が極めて多い。あまりにも生きづらい人生だからと自己診断をすると、HSPの項目に該当しているから、自分はやはりHSPだと気付いて、何故か安心する人が多い。勿論、うつや双極性障害などの気分障害と診断された方々が、HSPの傾向があると正式に診断されるケースも増えてきている。確定診断や自己診断も含めると、HSPやHSCという方たちは異常に増加しているのは間違いない。勿論、近年になりHSPが認知されたという影響もあるが、この増え方は異常だ。

 どうして、こんなにもHSPやHSCが増えたのであろうか。元々、HSPだったのにも関わらず、知らなかったから見逃していたという理由だけでもなさそうだ。明らかにHSPの人は増えているように感じる。そして、HSPの影響により生きづらさを抱えている人も増加しているし、その為に二次的に深刻な症状を起こす人も少なくない。このHSPになってしまう原因とそれを防ぐ手立てを考えないと、メンタルを病んだり深刻な精神障害を起こしたりする人が増えてしまい、不登校やひきこもりが益々増えそうである。

 HSPになってしまう原因は、必要以上の不安や恐怖感を抱いてしまう乳幼児期を過ごしてしまうからである。絶対的な安心感を持ちながら育てられないと、HSCになってしまうのである。乳児や幼児というのは、親からの庇護を受けて育つ。つまり、絶対的な守護神がいざという時は自分を守ってくれるのだという安心感が必要なのである。まるごとありのままに愛され続けて、どんなことがあっても自分の味方になってくれるという安心感が、子どもの健全育成には必要なのである。そうすれば、絶対的な自己肯定感も確立される。

 HSCになる脳のシステム異常は、安心ホルモンと呼ばれるオキシトシンホルモンの欠乏によって起きると考えられている。正確に言うと、オキシトシンレセプター(受容体)の欠乏が起きているのである。乳幼児期に十分なスキンシップや抱っこをされないと、十分なオキシトシンレセプターが増えない。また、どんなことがあっても自分を愛し続けてくれるという安心感を持てないと、オキシトシンレセプターは欠乏してしまうのである。オキシトシンレセプターが欠乏する状況になってしまうと、HSCになってしまうのである。

 また、それだけではなくて不適切な養育によってもオキシトシンレセプターが作成されないという事象が起きる可能性がある。例えば、虐待、ネグレクト、不機嫌な態度、無感情無表情での養育などを続けると、オキシトシンレセプターは作成されにくい。さらに、過干渉や過介入、恐怖感を利用した支配やコントロールを繰り返すことも悪影響を与える。ダブルバインドのコミュニケーションもオキシトシンレセプターの形成を阻害する。母親が養育途中から仕事に熱中して子育てを離脱したり、養育者が変更されても同様である。

 このように、十分なオキシトシンホルモンの取り込みが阻害されてしまうと、いつも不安や恐怖感に苛まれてしまい、HSCになってしまう。オキシトシン不足によりHSCやHSPになってしまうと、良好なアタッチメントが形成されず、不安型のアタッチメントを抱えてしまう。あまりにも酷いケースだと、愛着障害にもなってしまう。HSPによってASDの症状が出てしまうケースもあるし、気分障害、パニック障害、PTSD、双極性障害にもなるリスクが高くなる。つまり、HSPが根底にあっての二次的メンタル症状は深刻だ。

 さて、このように増えてしまったHSCやHSPをどのようにすれば癒せるかというと、非常に難しいと言わざるを得ない。一番確実で効果がすぐに出るのは、このように育ててしまった親が心から悔いて劇的に変われば子どもは癒される。しかし、親は自分がそのようにしてしまったとは認めたがらないし、自分自身のメンタルや価値観も歪んでいるから、自ら変わろうとはしない。したがって、自分自身で自分を癒すしか方法がないのである。とは言っても、第三者の誰かが心理的安全性を担保して、傾聴し共感して寄り添ってくれたら、自己革新のチャンスが出てくる。つまり、自分自身で安全基地を作るまで、誰かが臨時の安全基地になってくれたら、安定的なアタッチメントが形成できてHSPが癒されよう。

陰謀論に依存して不登校ひきこもりに

 不登校やひきこもりの青少年たちをずっとサポートしてきた経験から実感しているのであるが、そうなってしまった要因のひとつに陰謀論による洗脳がある。勿論、陰謀論にはまってしまう根底の原因は他にあるのだが、不登校やひきこもりになってしまう青少年が陰謀論に洗脳されて依存してしまうケースは想像以上に多いのである。ここでは、陰謀論が正しいのか誤っているのかの議論をするつもりはないが、現実に不登校やひきこもりになってしまう要因のひとつになっているし、抜け出せない要因にもなっているのは間違いない。

 不登校やひきこもりになっている青少年は、スマホに依存しやすい。日がな一日何もすることもなく自室に閉じこもるから、スマホやタブレットを眺めて過ごすのだから当然だ。ネットゲームに依存することも少なくない。それ以上にリスクを持つのがSNSやYouTubeなどの情報に、あまりにも盲目的に信じ込んでしまい、依存してしまい抜け出せないことである。最初は、メンタルを低下させたり病んでしまったりした原因や癒すための方策を検索する。そのような情報を検索しているうちに、次第に陰謀論にはまって洗脳されてしまう。

 元々、不登校やひきこもりになってしまう青少年は、不安型のアタッチメントを根底に持つが故に、誰も頼る人が居ないし相談する相手もなくて、ひとりぼっちである。孤立感や孤独感をもってしまう。自分の苦しさや深い悲しみを理解してくれる人は、周りには誰もいない。当然、ネットの世界につながりを求める。そうすると、同じような境遇の人々と結びついて、情報交換をすることになる。自分が不遇の状況に置かれていると感じる人は、その原因は社会の制度や間違った政治・経済にあるとする情報に共感しやすい。

 自分が不遇な境遇に置かれてしまっているのは、自分自身に原因や責任があるとは思いたくないのは当然である。不登校やひきこもりになってしまったのは、いじめを放任した学校や教育委員会に責任があるし、こんな問題ある教育制度を創って運営している行政や政治に問題があると思いたがるのは当然である。社会に対する恨みつらみが積み重なる。もしかすると、裏の社会で悪意のある誰かがこんなにも問題ある社会を作るように支配制御しているのではないかと思うかもしれない。そんな疑いの目で見ると、益々怪しくなる。

 つまり、陰謀論を信じる人は不遇で孤立していて満たされていない人が圧倒的に多い。皆から慕われて信頼されていて、経済的にも成功していて多くの人々とリアルな繋がりを持つ人は、陰謀論に絶対はまらないのである。何故なら、陰謀論者は不安を煽り立てて信じ込ませているのである。愛で満たされていて不安や怖れを持たない人には、陰謀論はもはや荒唐無稽なフェイクニュースにしか思えないのである。不登校やひきこもりの青少年たちは、不安や恐怖で一杯だから、陰謀論を信じ込ませられて社会に出て行けなくなったのだ。

 陰謀論は真実なのかもしれないし、デマなのかもしれない。ただし、これだけは真実だという点がある。陰謀論の情報を発信している人は、人々の恐怖心を巧妙に利用しているという点である。不安を煽り立て、恐怖の淵に追いやって、社会に対する不信感を持たせて、自分の情報を信じ込ませているというのは確実である。その手口は巧妙で、これでもかこれでもかと過激な情報を発信続けるし、その情報を取り入れ続けないと取り残されてしまうという恐怖感を植え付ける。その情報を拡散するようにと訴えるのである。

 陰謀論を熟知していても認識ていなくても、生活に違いはまったくないのだが、陰謀情報を見ないと不安になるように、巧妙に仕組まれている。不安型のアタッチメントを根底に持つ青少年たちは、陰謀論に嵌まってしまい依存するのである。元々、持っている不安や怖れは益々増幅されてしまう。陰謀論を四六時中確認していないと、居られなくなってしまい、抜け出せなくなる。まさに、陰謀論はカルト宗教のように洗脳させてしまうのである。そして、不安が増強してしまい社会に出て行くのが恐くなりひきこもってしまうのである。

※ひきこもっている青少年は、もしかすると陰謀論に洗脳されているかもしれません。ご子息やパートナーがひきこもりの状態にあるのなら、もしかすると陰謀論にはまっているのかもしれません。どうすれば陰謀論から抜け出せるのかは非常に難しいのですが、1ケ月程度に渡り携帯電波の届かない宿泊施設に宿泊するのもひとつの選択肢です。勿論、当人と相談して納得すれば取れる方法です。

精神科医療で誤診が多い訳

 精神科や心療内科を受診して、確定診断をされてカウンセリングや投薬治療を受けているメンタル疾患の患者さんは多い。職場や学校で精神的に悩んでいる人に対して、関わる人々は精神科の受診を勧めるし、当人自ら精神科や心療内科の診断を望む例もある。かくして、近くにある精神科クリニックを頼ることになる。ところが、精神科医の診療レベルは、他の診療科医師とは違い、かなりばらつきがあると言える。精神科医を最初から希望する研修医が少ないし、どちらかというと優秀な研修医は他科に行く傾向がある。

 精神科医を目指す研修医が少ないのは、一昔前までだった。現在は、精神科医を医学部入学前から希望していた学生も増えてきたし、優秀な研修医も多くなりつつある。しかし、以前は優秀な精神科医が少なかったのは、医療関係者なら誰でも知っている。勿論、優秀な精神科医も存在していたが一握りであり、大学の研究室に残った医師か著名な大学病院に在籍した医師たちである。精神科単独の病院の勤務医や精神科医院の医師に、レベルのばらつきがあったのは当然であろう。そんな精神科医だから、誤診があったのかもしれない。

 精神科は、とても難しい診療科であると言える。他の科であれば、診断技術が年々著しく向上しているし、検査機械や診断機器の開発がものすごい速度で進んでいる。ましてや、最近はAI診断技術も進んでいるし、薬品の開発も著しい。ところが、精神科だけは医療技術の進歩から取り残されているのである。検査機械や診断機器の開発もまったく進んでいないのである。血液検査や尿検査などで、確定診断ができる訳ではない。X線検査やCT検査で異常を発見できる訳ではない。問診や心理検査、脳波検査などで診断するしかない。

 一応、ICDやDMSという国際診断基準やガイドラインは存在しているが、最新のICD10やDMS5の診断基準を用いているのは先進的な医師だけで、依然として使い慣れたICD9やDMSⅣに頼っている精神科医が多い。ましてや、問診やカウンセリングにはそんなに時間をかけていないし、簡単な問診と質問だけで確定診断をしてしまい、安易に精神薬を処方する医師が多いのも事実である。最新の医学理論に疎い開業医はあまりにも多い。ましてや、精神薬は殆どがモノアミン仮説によって開発されていて、科学的根拠が極めて怪しい。

 こんな精神医学の状況なのだから、誤診が起きるのは仕方ない事であろう。気の毒なのは患者さんである。患者さんは藁にもすがる思いで精神科医を訪ねたのに、まさかエリートである医師が誤診をしようとも思わないであろう。食べログのように、医院の評判が詳しくネット上に掲載されている訳ではない。知人に精神科医の評判を聞けないのだから、殆どの人が行き当たりばったりでクリニックを訪ねることになる。どちらかというと、外れを引いてしまう割合が多いのも事実である。そんな患者さんは実に気の毒である。

 精神医学界は、古い医学理論に固執するケースが多い。昔の精神医学理論なんか、現代の複雑な児童心理や発達心理においては使い物にならない。昔ながらのカウンセリング学や精神分析学だって、現代の病理に対しては、歯が立たないケースが多い。それなのに、旧来の精神分析手法を使ってしまい、訳の分からない分析結果を患者さん当人や家族に宣告してしまう。それが間違っている診断だとしたら、大変なことになる。故に精神の患者さんは激増しているし、治療により完治することも少ない。寛解して医療から離脱できるケースも殆どない。

 確かに、病状や育成歴、家族との問診から導き出された診断と病因だとしても、安易に当人とその親に告げるのはあまりにも残酷ではなかろうか。ましてや、その診断が間違っていたとしたら、患者さんとそのご家族の人生を台無しにしてしまう危険だってある。その間違った診断のせいで、学業を諦めたり仕事を失ってしまう患者さんだっているのだ。誤診のおかげで人生を狂わされてしまったり、人生を無駄に過ごさせられたりした患者さんを多く眼にしてきたのも事実である。精神科医の確定診断をそのまま鵜呑みにするのは危険がある。出来れば、大学病院などの専門医のセカンドオピニオンの受診をお勧めしたい。

HSPを癒せばひきこもりから回復

 HSPで苦しんでいる人は多い。ハイリーセンシティブパーソンというのは、精神疾患ではないから医学的な治療対象とはならない。ましてや、HSPによって多少の生きづらさがあったとしても、社会生活が大きな影響を受ける訳ではないと、軽視される傾向がある。HSPを治してくれたり軽減させてくれたりする処もないので、我慢している人が多い。日本人のうち、どれくらいの割合でHSPを抱えているのかというと、おそらく男性で3割、女性だと5割以上の人がHSPを抱えている筈である。

 HSPの影響を社会では過小評価している傾向がある。ところが、HSPの影響は想像以上に多大であり、深刻なメンタル疾患や精神障害の根源なっているということを知らない人が多い。うつ病などの気分障害は勿論のこと、パーソナリティ障害、パニック障害、PTSD、適応障害、ASDなどを発症する人は殆どがHSPである。メンタル面の影響だけではない。身体疾患を起こす根本原因にもなっている。原因不明の各所の身体的痛みやしびれ、線維筋痛症、膠原病、PMSやPMDDなどで苦しむ人々もHSPを抱えているケースが多い。

 社会生活にも多大な影響を与えている。不登校の子どもたちはHSCであるし、ひきこもりをしている若者たちはHSPを抱えている。休職に追い込まれている人や、職場でパワハラやモラハラで苦しんでいる人たちも殆どがHSPを抱えている。HSPというのは、聴覚過敏を初めとして様々な感覚過敏を起こしてしまう。様々な場面で不安感や恐怖感を持ちやすい。それ故に、人と関わり合うことに怖れを感じてしまい、コミュニケーション障害を起こしやすい。なにしろ、得体の知れない不安を常に持ってしまうから厄介である。

 何か特定の事に対する不安なら、対応することも可能であるが、何だか分からないけど不安だと言うのはどうしようもない。ましてや、これから起きるであろう不安は、前に進めない。だから、HSPから不登校やひきこもりになりやすいのである。HSPは神経伝達回路(システム)の異常によって起きると考えられている。HSPは脳内ホルモンのうち、オキシトシンホルモンとセロトニンホルモンの分泌が極めて少ない。そして、交感神経活性化でいつも緊張しているので、コルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰に分泌され続けてしまう。

 コルチゾールが過剰分泌され続けると、大脳辺縁系の偏桃体が肥大化すると共に、海馬と前頭前野が萎縮する。記憶力や判断力が正常に働かなくなり、妄想や幻想が起きやすいし、実際には起きていない怖い記憶が作られてしまうこともある。現実とバーチャルの境目がなくなるのである。作られた偽の記憶に苦しめられるのである。妄想性の障害や妄想性のパーソナリティ障害は、こうやって発症してしまうのである。HSPというものが、いかに深刻な症状をもたらすかということが解るであろう。

 不登校やひきこもりが、根底にHSPがあって起きるのだから、HSPを癒すことが出来ればひきこもりも解決できると言える。それでは、どうすればHSPを癒すことが出来るのだろうか。HSPが神経伝達回路(システム)の異常によって起きて、オキシトシンH.とセロトニンH.の不足が原因であるのだから、これらのホルモンが正常に分泌されるようにすればよい。オキシトシンH.の不足は、アタッチメントの未形成によって起きている。また、セロトニンH.の不足も同じ理由である。それ故に、アタッチメントの再形成が重要なポイントとなる。

 アタッチメントを再形成すればひきこもり・不登校は解決する。以前は、アタッチメントは『愛着』と訳されていて、親からの愛情不足によって起きるとされていた。親との愛着を再形成しないと愛着障害は改善しないとされていた。しかし、最新の発達心理では、親じゃなくてもアタッチメントを再形成できることが判明した。第三者からの支援により、アタッチメントが再形成できるのである。その支援者とは、誰でもいい訳ではない。試し行動にも動じず、安定した精神状態と正しく高邁な思想・価値観を持ち、完全な自己マスタリーを実現した人物でないと、アタッチメントの再形成を手助けできない。利害・損得を考えず、どんな苦難・困難にも挫けず、慈悲深くて溢れる愛情を注げる人物にしか出来ない役割である。

 ※アタッチメントを再形成してHSPを癒す方法を、イスキアの郷しらかわではメールや電話にて、もっと詳しくお伝えしています。オキシトシンタッチやソフトなソマティックケアのやり方、HSPを癒すNTA療法のこと、オープンダイアローグ療法のこと、ナラティブアプローチ療法のやり方、いろいろなHSPの癒し方を伝えています。問い合わせフォームからどうぞ。

発達障害グレーゾーンを癒す方法

 発達障害は遺伝子の先天的異常によるものだから、どんな治療をしても治らない障害だという認識を誰もが持っている。ある程度は社会に適応できたとしても、学校や職場における周りの人々とのコミュニケーションに苦労することも多い。当人との関わり方において周りの人々が戸惑うことも多いが、それ以上に本人が生きづらさを抱えることも少なくない。そんな発達障害を持つ人の中でも、症状が軽くて学力や能力が高いけど、コミュニケーションだけが難しく感じる発達障害グレーゾーンと呼ばれる人ならば、治る可能性がある。

 勿論、完治と言うレベルまでは難しいけれど、ある程度まで症状が緩和することが出来ると言えよう。その治療法とは、医療機関におけるものではなくて、神経伝達回路を緩やかに改善する整体である。別の言い方をすれば、神経伝達調整(NTA)と呼ぶ治療方法である。どうしてこのNTAと略される神経伝達調整という治療法が有効なのかと言うと、発達障害グレーゾーンのそもそもの原因がHPSによるものからである。HSPとは略称であり、ハイリーセンシティブパーソンという症状のことである。

 HSPは、環境感受性あるいはその気質・性格的指標である感覚処理感受性が極めて高い人たちということである。神経学的過敏が影響して、心理社会学的過敏も起こしやすい。特に聴覚過敏が顕著であることが多い。その他に、接触性過敏や嗅覚過敏、視覚過敏も起こしてしまうケースもある。これらの神経学的過敏が強いために、コミュニケーション障害を起こしてしまうことが多い。このHSPが起きてしまう根底には、得体の知れない強い不安や恐怖感がある。そして、この不安や恐怖感はアタッチメント未形成によって起きている。

 いずれにしても、HSPが強く影響して発達障害グレーゾーンになっているとすれば、このHSPを癒すことが出来れば、得体の知れない不安や恐怖感を払拭することが可能になる。NTA療法をすることで、HSPが改善される可能性は高い。何故、NTA療法がHSPの改善に役立つのかと言うと、HSPになっている原因である神経伝達回路の異常をNTA療法が正常化してくれるからではないかと思われる。HSPは、神経伝達回路が過剰反応を起こして発症している。その過剰反応を適度に抑えてくれるのがNTA療法であると言えよう。

 不安や恐怖感というのは、脳の偏桃体過剰反応によって起きると言われている。HSPによって、通常なら感じない不安や恐怖感が強く感じ過ぎてしまい、偏桃体が刺激され続けることでコルチゾールが過剰に分泌される。また、ノルアドレナリンやドーパミンも多すぎるほど分泌される。逆に幸福ホルモンと呼ばれるセロトニン、そして安心ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌が少なくなる。偏桃体が肥大化すると共に、海馬や前頭前野脳が萎縮するとも言われている。こうなると、記憶力も低下すると同時に正常な判断が出来なくなる。

 これらの脳内ホルモンの分泌異常を、神経伝達回路の調整(NTA療法)により改善するのではないかと推測される。NTA療法は、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、頭蓋骨仙骨療法、波動理論などの代替医療のエッセンスも取り入れながら、微弱電流装置を駆使しながら神経伝達回路の異常を修正してくれる。つまり、得体の知れない強烈な不安や恐怖感を和らげてくれるし、HSPの症状も緩和してくれるのである。だから、発達障害グレーゾーンの症状が改善されるのではないかと思われる

 それでは、NTA療法の施術をしてくれる整体師ならば、誰でも発達障害グレーゾーンの症状改善をしてくれるのかというと、それを断言することは難しい。何故ならば、このNTA療法の施術者の熟練度やマスタリー度合いによって、現れる効果が違ってくると推測されるからである。施術者が豊かで良質な波動エネルギーを受け取って、その波動エネルギーをクライアントに減衰することなく、受け渡してくれるならば効果は高くなる。この波動エネルギーの受け渡しに長けている施術者を選びたい。そうすれば、発達障害グレーゾーンをかなりの良いレベルまで癒してくれることだろう。

※波動エネルギーとは、天または宇宙、そして大地からもたらさられる自然由来のパワーのことで『気』とも言えるものです。この波動エネルギー(気)を天と地から受け取って、人々に授けるレベルの施術者になる為には、私利私欲を無くし徳を積んで人格を磨き高めること、様々な修行を積んで学びを深めることが必要でしょう。気功の達人と言われる『大周天』や密教における『阿闍梨(大阿闍梨)』のようなレベルになるということではないかと思われます。

漫画シュリンクで描く精神医学の世界

 コミックの『シュリンク精神科医ヨワイ』がNHK総合でドラマ化されて放映されている。初めて知ったことであるが、こんなにも素敵な精神科医を扱ったコミックが発売されているとはびっくりである。精神科というと、どうしても敷居が高い診療科である。世間でも少しずつ認知されてきたとは言いながら、精神疾患を持っているとカミングアウトすると、特別視されることが少なくない。このドラマでも触れていたが、米国では4人に1人が精神科を受診していて、日本では12人に1人しか精神科の診察を受けていない。

 そのことにより、米国よりも日本の方が精神疾患に罹患している人が少ないのかというと、そうではないとも言えるらしい。なにしろ、自殺する人は圧倒的に日本の方が多いのである。そこから推論できることは、日本でも適切に精神科やカウンセラーのケアを受ければ、自殺者を米国並みに減らせる可能性があるということだ。題名のシュリンクとは、精神疾患の患者の心はいろんな悩み、苦しみ、不安でいっぱいに膨らむ。その大きな膨らみを小さくすることをシュリンクと言い、精神科医を指すスラングになっているらしい。

 とても良くできたドラマであると評価したい。第1回はパニック症がテーマであり、主人公の弱井先生は患者の認知行動療法に親身になり付き合ってくれていた。安易な投薬治療に頼らず、患者に依存させるようなこともせず、本人が自分の力でパニック症を乗り越えられるように温かく寄り添ってくれている。こんな精神科医が日本でも増えてくれば、自殺するような人も多く救えるに違いない。日本の精神科医は、時間をかけて診療をしても報酬が得られないからと、投薬治療に偏るケースが多い。仕方ないが、これでは完治しない。

 シュリンクのドラマで描かれている弱井先生は、患者さんに対して徹底的に寄り添う。日本の精神科医や臨床心理士たちは、患者さんに共感し過ぎて感情移入してしまうと、転移や逆転移が起きる危険性が高まると、敢えて距離感を取るケースが非常に多い。それは、自分を守る為と、患者さんの依存性を高めてしまうのを避ける為に、必要な事だと主張する。しかし、あまりにも距離感を保つことを徹底すると、冷たい態度だと感じてしまい、信頼感や関係性を持ち得ない。これでは、治療効果が高まることは期待できない。

 原作者の七海仁氏は、精神疾患に罹患した家族が精神科を受診する際に、実際に診療所や病院探しに困った経験があると言う。また、複数の精神科医の診療にも立ち会って、精神科医のレベルに疑問を持ったのと、情報提供に問題があると感じて、原作を執筆する原動力になったという。それぞれの精神科医のレベルの差は、非常に大きい。日本の精神医療が、諸外国と比較しても遜色ないレベルだと思っている人は少ない。日本の精神医療のレベルは酷い。だから、精神疾患に一度罹患してしまうと、完治しないのは当たり前で寛解さえ実現する事は稀である。

 この原作者の七海仁氏は、精神科医に多岐に渡るインタビューや取材をして、このシュリンクという物語を構築したと言われている。その際に、取材した精神科医が最新の医学知識を持たなかったせいで、一部にエビデンスが取れていない話が生まれてしまったのは悔やまれる。ポリヴェーガル理論を知らなかった為に、自律神経理論の説明が論理的破綻を起こしている事に気付けなかったのが残念である。パニック症になる原因は、自律神経のアンバランスだという説明で、副交感神経よりも交感神経が優位になり過ぎてしまい、交感神経の暴走でパニック症が起きたという説明である。

 でも、よく考えてみればこれは論理的にあり得ない。交感神経が優位になり過ぎて暴走することは考えられない。副交感神経には2つ存在し、背側迷走神経と腹側迷走神経があり、その背側迷走神経の暴走が起きてしまい、フリーズ化とかシャットダウン化が起きていると考えるのが妥当である。人間は逃走することも適わず、逃避することも出来ない絶体絶命の状況に追い込まれると、背側迷走神経が暴走してしまい凍り付きや遮断が起きてしまうのである。これがパニック症の本当の原因だ。このような最新医学理論にも疎いのが、日本の精神医学界なのである。レベルが低いと言われるのも当然である。

陰謀論にはまった人を救い出す方法

 家族が陰謀論や妄想に取りつかれてしまったので、何とか救いたいのだが、どうすれば良いのかという相談依頼があります。家族は、何とか本人を妄想から目覚めさせたいと、科学的な反論を試みるのだが、どんなに必死になって何度も説得するのに、まったく聞く耳を持たないので無駄になるらしい。陰謀論はフェイクニュースだと、説得しようとすればするほど頑なになってしまい、一切耳を貸さないばかりか騙されているのは家族なのだと、逆に説得されてしまうという。こんなにも頑固ではなかったのに、どうしてなのか不思議らしい。

 陰謀論に固執する理由について、まずは考察したい。陰謀論に嵌まってしまう人は、日常的に不安が強い人である。それも得体の知れない不安に苛まれている傾向がある。また、HSP(ハイリィセンシティブパーソン)の傾向が強く、神経学的過敏や感覚過敏があり、心理社会学的過敏も強い。不安型愛着スタイルのパーソナリティを持つ。それは、親との良好な愛着が形成されなかったせいもある。陰謀論を妄信してしまう人は、安全と絆を提供する『安全基地』(心理的安全性)が存在しないのである。

 安全基地(安全な居場所)を持たない人は、強烈な生きづらさを抱えている。そして、自尊感情や自己肯定感を持てていない。自己愛性の障害を抱えているが、自覚はない。それ故に、自分は正常な認知機能を持っているし、正しい判断が出来ると思い込んでいる。ところが、満たされない思いを抱えていて、どちらかというと不遇な境遇に置かれていて、愛情に恵まれていない。このような状況に追い込まれているのは、社会が悪いし、闇の勢力が社会を捻じ曲げているからだと、他人のせいだと思い込み自己を正当化するのである。

 自尊感情が低い人は、変なプライドが高い。だから、自分だけは正しいし一般の人は知らない情報を人一倍早く仕入れていると、皆に自慢したいのである。故に、科学的根拠のないとんでもない似非情報に飛びついてしまうのである。そして、人からの批判や否定に対して、極めて強い反撃的態度を取る。さらに、自説を曲げようとはせず、拘りが強い。柔軟性や可塑性が極めて低いパーソナリティを持つ。このような人には、間違いを正そうとしても無理だし、陰謀論をあらゆる根拠を示して否定しても聞く耳をもたなくなるのである。

 こういう人を真実に覚醒させて救う方法はまったくないのかというと、一つだけ方法がある。それは、ナラティブアプローチ療法という心理学的方法である。妄想性障害にも唯一効果のある療法である。陰謀論にはまっている人は、間違った物語(ドミナントストーリー)を信じ切っている。このドミナントストーリーを信じてしまうと、正しい物語(情報)は一切拒否する。だから、まず支援者(治療者)はこのドミナントストーリーに付き合う必要がある。けっして否定せず批判せず共感するだけの態度を取り続けるのである。

 これは言葉では簡単に言えるが、支援者(治療者)にとっては辛いものがある。明らかに誤解していると分かっているのに、その間違いに付き合うのだからストレスがかかる。それでも、陰謀論の主張に批判することなく、ただ寄り添って傾聴して共感するだけの態度を取り続ける。何か月かかるか解らないが、共感して聞くことに徹することが必要である。そうすることで、陰謀に嵌まっている人は自分の理解者がようやく現れたと思い喜び、支援者を心から信頼する。そうすれば、陰謀論者は心を開き、少しは支援者を信用して耳を傾けるようになる。ようやくニュートラルな状態になるのだ。

 陰謀論者は、何度も自説を語り続け、批判や否定をされることなく聞いてもらっているうちに、自分の主張していることが本当に正しいのかと、かすかな疑問を持つようになる。そうしたうえで、少しずつ論理の矛盾点や破綻点を、優しい態度と言葉で支援者は陰謀論者に質問するのである。そして、ようやく陰謀論がフェイクニュースではないのかと思い始める。そして、陰謀論を否定したネット情報を積極的に取り入れるようになる。そして、陰謀論が明らかに論理的破綻を起こしていることに自ら気付くのである。正しい物語のオルタナティブストーリーを確立したのである。支援者が安全基地として機能して、見事に陰謀論から抜け出せるのである。