コミックの『シュリンク精神科医ヨワイ』がNHK総合でドラマ化されて放映されている。初めて知ったことであるが、こんなにも素敵な精神科医を扱ったコミックが発売されているとはびっくりである。精神科というと、どうしても敷居が高い診療科である。世間でも少しずつ認知されてきたとは言いながら、精神疾患を持っているとカミングアウトすると、特別視されることが少なくない。このドラマでも触れていたが、米国では4人に1人が精神科を受診していて、日本では12人に1人しか精神科の診察を受けていない。
そのことにより、米国よりも日本の方が精神疾患に罹患している人が少ないのかというと、そうではないとも言えるらしい。なにしろ、自殺する人は圧倒的に日本の方が多いのである。そこから推論できることは、日本でも適切に精神科やカウンセラーのケアを受ければ、自殺者を米国並みに減らせる可能性があるということだ。題名のシュリンクとは、精神疾患の患者の心はいろんな悩み、苦しみ、不安でいっぱいに膨らむ。その大きな膨らみを小さくすることをシュリンクと言い、精神科医を指すスラングになっているらしい。
とても良くできたドラマであると評価したい。第1回はパニック症がテーマであり、主人公の弱井先生は患者の認知行動療法に親身になり付き合ってくれていた。安易な投薬治療に頼らず、患者に依存させるようなこともせず、本人が自分の力でパニック症を乗り越えられるように温かく寄り添ってくれている。こんな精神科医が日本でも増えてくれば、自殺するような人も多く救えるに違いない。日本の精神科医は、時間をかけて診療をしても報酬が得られないからと、投薬治療に偏るケースが多い。仕方ないが、これでは完治しない。
シュリンクのドラマで描かれている弱井先生は、患者さんに対して徹底的に寄り添う。日本の精神科医や臨床心理士たちは、患者さんに共感し過ぎて感情移入してしまうと、転移や逆転移が起きる危険性が高まると、敢えて距離感を取るケースが非常に多い。それは、自分を守る為と、患者さんの依存性を高めてしまうのを避ける為に、必要な事だと主張する。しかし、あまりにも距離感を保つことを徹底すると、冷たい態度だと感じてしまい、信頼感や関係性を持ち得ない。これでは、治療効果が高まることは期待できない。
原作者の七海仁氏は、精神疾患に罹患した家族が精神科を受診する際に、実際に診療所や病院探しに困った経験があると言う。また、複数の精神科医の診療にも立ち会って、精神科医のレベルに疑問を持ったのと、情報提供に問題があると感じて、原作を執筆する原動力になったという。それぞれの精神科医のレベルの差は、非常に大きい。日本の精神医療が、諸外国と比較しても遜色ないレベルだと思っている人は少ない。日本の精神医療のレベルは酷い。だから、精神疾患に一度罹患してしまうと、完治しないのは当たり前で寛解さえ実現する事は稀である。
この原作者の七海仁氏は、精神科医に多岐に渡るインタビューや取材をして、このシュリンクという物語を構築したと言われている。その際に、取材した精神科医が最新の医学知識を持たなかったせいで、一部にエビデンスが取れていない話が生まれてしまったのは悔やまれる。ポリヴェーガル理論を知らなかった為に、自律神経理論の説明が論理的破綻を起こしている事に気付けなかったのが残念である。パニック症になる原因は、自律神経のアンバランスだという説明で、副交感神経よりも交感神経が優位になり過ぎてしまい、交感神経の暴走でパニック症が起きたという説明である。
でも、よく考えてみればこれは論理的にあり得ない。交感神経が優位になり過ぎて暴走することは考えられない。副交感神経には2つ存在し、背側迷走神経と腹側迷走神経があり、その背側迷走神経の暴走が起きてしまい、フリーズ化とかシャットダウン化が起きていると考えるのが妥当である。人間は逃走することも適わず、逃避することも出来ない絶体絶命の状況に追い込まれると、背側迷走神経が暴走してしまい凍り付きや遮断が起きてしまうのである。これがパニック症の本当の原因だ。このような最新医学理論にも疎いのが、日本の精神医学界なのである。レベルが低いと言われるのも当然である。