現代日本人に一番欠けているものは何か?と問われたらば、本当の智慧がある人ならば間違いなく自己組織化能力だと答えるであろう。自己組織化の能力とは、主体性、自主性、自発性、自己犠牲性、連帯性、進化性という、人間が人間らしく生きる為には必要不可欠な能力の事である。あまりにも家庭教育と学校教育の両方において、干渉や介入を強く受けて育った影響もあり、現代人にはこの自己組織化能力があまり身に付いていないのである。だから、自分で判断し決断し自ら行動し、リスクとコストを怖れずチャレンジするのがとても苦手なのだ。
自己組織化の働きが育つ為には、まずは無条件の愛である母性愛をたっぷりとこれでもかと注いでから、条件付きの愛である父性愛を注ぐことが肝要である。乳幼児期に、子どもをあるがままにまるごと愛して、たっぷりと依存させることが大事である。依存させることは悪いことだと思いがちだが、そんなことはない。依存が中途半端だから自立出来ないのだ。安心して依存して、依存して、依存し切ってしまえば、子どもは不安なく自立出来るのである。こうして育った子どもは、自然と自己組織化の能力が発達するのである。
さて、子どもが大きくなっても自己組織化能力が発達せずに育ち、自立が出来ずに困っているという親に相談をよく受ける。こういうケースは、対応が非常に難しい。乳幼児期の子育てからやり直しが出来るならいいのだが、現実的には不可能だと言ってもよい。となれば、本人がどうにかするしかない。しかし、本人の努力だけではどうしようもない。企業や団体の中で働いているだけでは、自己組織化が起きにくい。組織の中で働く際は、逆に自己組織化を阻害されるような事が起きやすい。当事者意識を喪失してしまうのだ。
ましてや、自己組織化の能力が育っていない社員・職員に対する上司や同僚からの風当たりは強い。低い評価ばかりではなく、批判や否定をされることも少なくない。「お前、使えねえ奴だなあ」と面と向かって言われることがあるかもしれない。日々ルーチン作業だけをしているなら、気付かれないかもしれないが、対面サービス業や対応力を必要とする業務においては、辛く当たられることもあろう。そうすると、自己否定感も強くなるし、自己組織化能力が高くなるどころか、逆に低くなるのも当然である。
自己組織化能力が低い人は、家庭においても家事育児の能力が極めて低いので、批判されることが多いし、信頼されず無用の人だと疎外されてしまう事が少なくない。パートナーにも恵まれず、孤独感を味わうことになる。そもそも、自己組織化能力が育っていないと、恋人を自ら作ろうと努力しないし、異性から相手にされない。こういう状況になってしまうと、自己組織化能力が自ら育てるとは不可能かというと、けっしてそうではない。自己組織化能力や当事者能力が、大人になってから身に付くというケースは、まったくない訳ではない。
どのような努力や研修・修練をすれば、自己組織化能力が育つのかと言うと、社会貢献活動にせっせと勤しむことである。何故、社会貢献活動が自己組織化能力を高めてくれるのかと言うと、ボランティアの4原則と呼ばれるその特徴にある。ボランティアをした経験があるなら、ボランティア活動をする場合に守るべき4原則を知っていよう。➀主体性、自主性、自発性➁連帯性、関係性➂無償性、自己責任性➃発展性、進化性、革新性という4つが、ボランティアの4原則である。つまり、自己組織化とはこの4原則そのものなのである。
自己組織化とはそもそも分子生物学や量子物理学の研究であきらかにされてきた概念である。人体の細胞やそれぞれの組織に、自己組織化する働きがあることも判明している。だとすれば、人間にはそもそも自己組織化する働きが生まれつき備わっていると結論付けられる。つまり、人間は自己組織化することが定められていて、ボランティア活動的な行動をするのが当たり前だということだ。人間が人間らしく生きる為には、ボランティア活動をすることで、本来の自己組織化能力を手に入れるだけでなく、益々高められるということなのだ。老若男女問わず、誰もが社会貢献活動に邁進してくれることを願う。