子どもがいじめに遭っている場合、どのように対処したらいいのか迷う処である。そもそもいじめに遭っていることを子どもが内緒にしいるケースが殆どである。先生にも親にもいじめられていることを訴えることが出来ないのである。何故なら、先生に話しても適切な対応が出来ないばかりか、かえって陰湿ないじめに発展するとか、先生にちくったということでより過激ないじめになりかねないことを知っているからである。先生が守ってくれるという確信を持てるなら訴えるのであろうが、残念ながら期待できないのであろう。
親に対してもいじめられていることを訴える子どもは少ない。いじめられていることを訴えても、適切な対応をしてもらえないということと、かえってこじれることが予想されるからであろう。さらには、それだけの深い親子の関係性が構築されていないからではないだろうか。どんなことがあっても親は自分を守ってくれるという、親子の絶対的信頼関係があれば、子どもはいじめられていることを訴えるに違いない。ただし、いじめられていることに対してどんな対処法をすれば良いのか、迷うものであろう。
親が学校に行って、いじめの実態を先生に話したら、どのような解決をしてくれるのであろう。子どものことを先生は守ってくれるのであろうか。いじめている子どもは仕返しをしないであろうか。そんな心配もあるから、安易に学校関係者に話すことを躊躇するに違いない。とはいいながら、警察や法務局などに訴えることまではしたくないのが本音である。自分自身で解決できるならいいが、下手に動いたら悪化させかねない。いじめている子どもと直接話す機会もないし勇気もなく、どんな説得をしたらいいか解らないであろう。いじめている子どもの保護者に直接話すのも、その後の進展を考えると厳しいと思われる。
自分の子どもが中学生の時にいじめられた経験がある。その時にある対処をして上手く行った例があるので、参考にしてもらえたら有難い。当時中学1年生の息子が、学校から帰ってくるなり、「明日から僕は学校に行かない」と言い放った。どうしてと聞くと、どうやら同じ部活の生徒からいじめを受けたからだという。息子はあるスポーツの部活をしていて、その同じクラブの生徒から執拗ないやがらせを受けたという。それも息子が乗っている時に、自転車を蹴って倒すということを何度も繰り返す陰湿ないじめである。「やめてよ!」と何度も言ったが聞き入れてくれないという。
うちの息子は、非暴力主義というのか争い事が嫌いなので、暴力で対応するのはしなかったせいか、度を過ぎた嫌がらせが続いたらしい。いじめをした子どもは身体も大柄で、常日頃乱暴な行動を学校でしていたこともあり、反抗できなかったみたいである。息子はスポーツ少年時代から同じスポーツをしていたので、1年からレギュラーをしていたことから嫉妬もあったのではないかと推測している。子どもたちの心というのはデリケートであり、子育ては難しい。変な対応をしてしまうと、心の傷を残しかねないので、どうしたらいいのか自分でも正直迷った。
そして、次に驚くような行動をしていた自分がいた。息子を連れて、その家に今から行こうと誘った。幸運にも同じ部活だったこともあり、その家の住所を知っていたし、親とも面識があった。自家用車に乗って、そのいじめをした子どもの家に親子ふたりで向かった。たまたま、その家にはご両親が揃っていた。その親に挨拶して、「子どもどうしがどうやら気まずい出来事があったみたいなので来ました。仲直りをしてほしいので二人で遊ばせてもらいたいと思ってきたのでよろしくお願いします」と頼み込んで、家に入れてもらった。子どもどうしは、親が見ているから何事もなかったかのように遊び始めた。その間、親同士はいじめがあったことを敢えて話題にはせず、たわいもない世間話をしていた。
その家の子どもは学校では乱暴なことをしていたが、家の中では『良い子』を演じているというのは予想していた。ご両親もしっかりした方で、おそらく厳しい躾をしていたと想像していた。だから、あえていじめのことは触れず、子どもどうしを遊ばせることにしたのである。意地悪をしていた子どもは、家の中でよい子を演じ過ぎているが故に、そのストレスの捌け口を学校で発揮していたと思われる。親にいじめをしたことが解ったら、どんなに厳しく叱られるか解らない。内心、びくびくしながら遊んでいたに違いない。今後、何か息子に嫌がらせをしたら、今度こそ告げ口をされないとも限らないと思ったのであろうか、その後いじめはなくなった。親同士がこんなにも親しく会話しているということが、いじめのストッパーになったのには間違いない。いじめ事件を通して、子どもどうしの関係性が深まり、そして親同士の関係性も豊かになった。いじめに対応する時に考慮すべきなのは、『関係性』という価値観である。息子との関係性が良かったから、いじめを告白してくれたと思う。このような解決策が出来たのは、好運だったのかもしれないが、参考にして頂けたら有難い。