京アニ放火殺人事件の犯人は怪物か

 京都アニメに放火して、殺人罪として起訴された青葉信二被告は、一審判決で死刑を宣告された。青葉被告は死刑判決を不服として控訴した。あまりにも残酷なこの事件を起こした青葉被告は人間ではなく、とんでもない怪物だとするSNSの書き込みが多い。あんなにも多数の犠牲者を出しながら、反省の言葉なく自分の正当性しか主張せず、犠牲者に対する謝罪の気持ちもないのは、モンスターとしか思えないという主張をする人も多い。普通の感覚を持っている良識ある人にとっては、怪物にしか見えないのであろう。

 確かに、常人には理解できない行動である。いくら酷い虐待や仕打ちを親から受けたとしても、最終的には自己責任だと言う人もあろう。社会的にいくら恵まれなかったとしても、そういう生き方を選んだのは自分自身だから、親や社会のせいにすべきではないという主張も見られる。おそらく、死刑判決も妥当なのだから、控訴なんてしないで刑に服して欲しいと思っている国民が殆どであろう。被害者やその家族と遺族の心情を思うと、被告には極刑で償ってもらいたいという気持ちになるのは当然かもしれない。

 このような残虐な事件を起こす犯人に共通しているのは、そのあまりにも悲惨な家庭環境である。親との愛着関係において、殆どが問題のあった犯人だ。端的に言えば、親からあるがままにまるごと愛されて育ち、親との関係がとても良好な人間が、凶悪な事件を起こすことはない。ただし、一見すると経済的に裕福で両親の愛情をたっぷりと受けながらも、凶悪事件を起こすケースもある。しかし、それは条件付きの愛情であり、過干渉や過介入を受け続けて育てられた場合であり、無条件の愛情を受けた訳ではないと言える。

 青葉被告は、まさしく無条件の愛は勿論、条件付きの愛さえもまったく注がられることなく育った。そればかりではなく、父親から酷い虐待を受け、四六時中殴る蹴るの暴力を受け続けて育ったとの供述が得られている。ろくな稼ぎをしない青木被告の父親を見かねて、妻がミシンの営業で大きな実績を収めた。それが気に入らないと妻と子に八つ当たりして暴力を奮ったとされている。青葉被告の母親は、家を出るしかなくなり離婚する。この事件も、青葉被告の心に深い影を落とすことになった。その後、父親の暴力はエスカレートしたのである。

 親からの愛情をまったく受けられず育った人間が、まともに育つ筈がない。ましてや、大好きな母親さえも自分を見捨てたと思い込まされて育った人間が、人を信頼出来ないのは当たり前である。同じように親からの愛情をまったく受けられず、父親から酷い虐待を受けて育った人物がいる。大阪大学付属池田小学校の殺傷事件を起こした宅間守死刑囚である。連続幼女誘拐殺人事件を起こした宮崎勤死刑囚もまた、親との愛着が形成されなかった。秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚も酷い教育虐待を受けて、歪んだ愛着を抱えていた。いずれも愛着障害と言ってもよい。

 このように、悲惨な家庭環境と養育環境があって凶悪事件を起こした犯人を列挙すれば、きりがない。他にも、沢山の凶悪事件を起こした犯人がいるが、似たり寄ったりの養育を受けている。ただし、養育環境が悲惨で愛着障害を抱えると、凶悪事件の犯人になってしまうかというと、けっしてそうではない。社会に対する憎しみを持ち攻撃的になるケースと、自分を責めて自身の存在を消してしまおうとする人がいる。どちらになるかは紙一重なのである。青葉信二被告のように虐待やネグレクトを受けて育った人物は、親に対する憎しみを社会に転化する危険があるのは間違いない。

 青葉信二被告は、けっして怪物ではない。極めて稀なモンスターだと決めつけて、滅多に産まれることがない特別な存在だと思ってほしくない。彼のような愛着障害の人物は他にも沢山存在するし、同じような凶悪犯罪を起こしかねない人間は大勢いるのだ。だからこそ、彼のような存在を産み出さないように、正しい子育てや教育をする世の中に変革しなければならないのである。母性愛と父性愛を正しく注げるような社会を構築しなければならない。我が子をあるがままにまるごと愛せる母親と、しっかりと正しい父性愛を発揮できる父親が子どもには必要なのである。二度とこのような酷い愛着障害の子を産み出さない為に。

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