得体のしれない不安を感じる訳

 不安の時代だと言われる現代は、それ故に生きづらいと感じる人々が想像以上に多いと考えられる。不安から不眠になって不安障害を抱えてしまい、気分障害の精神疾患を抱える人も少なくない状況になっている。この不安は、現在の仕事や学業に対する不安、将来の経済的な不安も問題なのだが、得体のしれない不安はより深刻である。何故なら、具体的な対象に対する不安であれば、何とか解決しようとする対策も取れるが、得体のしれない不安だけはどうしようもないからだ。この得体のしれない不安を抱えている人が非常に多いのである。

 得体のしれない不安ほどやっかいなものはない。何か具体的な不安であれば、対応の仕方も考えられる。しかし、自分の抱えている不安が何なのか、何故こんなに不安なのか、まったく見当が付かないだから、どうにもならないのである。何かに対する恐怖というのは、まだましなのだが、人に説明できない不安は、どうしようもない。ましてや、何故こんな得体のしれない不安を抱えるのか、原因も解らないのだから対処もできない。そして、この得体のしれない不安は、一向に弱まることをしないし、止むことなくずっと続くのである。

 それでは、この得体のしれない不安の正体とそれが起きる原因について分析していきたいと思う。誰しもこの得体のしれない不安を抱えているのかというと、けっしてそうではない。特定の気質や養育環境に置かれた人だけが、この得体のしれない不安を持つことになる。まずは、脳科学的に検証すると、オキシトシンホルモンの分泌が不足しているのは間違いないと考えられる。オキシトシンホルモンが不足してくると、不安や恐怖が湧いてくる。安心ホルモンと呼ばれていて、このホルモンが不足すると安心できないのである。

 それでは、何故このオキシトシンホルモンが不足する人になるのかというと、オキシトシンホルモンのレセプター(受容体)が乳幼児期に作られていないみたいである。どういうことかと言うと、オキシトシンホルモンレセプターは、生まれてから3歳くらいまでに作成されると言われているが、何らかの原因で『愛着』が不安定になると、このレセプターが作られないと言う。このレセプターが作られていないと、いくらオキシトシンホルモンが脳内で作られても、受け取れないからこのホルモンが作用されず不安になってしまうのである。

 愛着が不安定になるのは、養育期に何らかの理由で養育者が居なくなったり変更になったりした場合である。または、ネグレクトや虐待によってもレセプターが作られない。さらには、まるごとあるがままに愛されるという体験が不足しても同様のことが起きる。つまり無条件の愛である母性愛が不足して、過介入や過干渉の子育てをして、子どもが支配され感や所有され感が強くなっても、オキシトシンホルモンレセプターが作られない。そうすると、絶対的な自己肯定感が確立されなくて、いつも強い自己否定感に苛まれる。

 このように自己否定感が強いパーソナリティを持ってしまうと、何をやるにしても不安になりチャレンジする気持ちが失せてしまう。ちょっとした失敗や挫折がトラウマ化しやすい。他人からの評価をとても気にしていて、自分が他人からどう見られているかがいつも気になる。また、オキシトシンホルモンが不足していると、神経が過敏になると共に心理社会的過敏になる。つまり、HSP(ハイリーセンシティブパーソン)になってしまうのである。こういう気質が基になって、なおさら得体のしれない不安に追い込まれるのである。

 得体のしれない不安を持ってしまうのは、自分をまるごと愛してくれて守ってくれる存在が居なくなってしまうのではないかという不安を抱えて、乳幼児期を過ごした人である。この見離され不安や見捨てられ不安は、根強く残ってしまう。得体のしれない不安を抱えている人は、突き詰めていくと見離され不安や見捨てられ不安に行き着くのである。これが得体のしれない不安の正体である。そして、その原因は不安定な『愛着』によるオキシトシンホルモン不足にあるのだ。それでは、この得体のしれない不安は一生改善しないのかというと、そうではない。自分をまるごと愛してくれて守ってくれる安全基地という存在が出来て、穏やかで平和な生活が続けば、やがて得体のしれない不安が解消される。

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