自衛隊の発砲事件を2度と起こさぬには

 自衛隊の射撃訓練場における発砲事件が起きた。事件に遭われた方にとっては不幸な事件であり、犠牲になってしまわれた方の冥福を祈りたい。事件の背景が明らかになりつつあり、どうしてこの事件が起きたかという原因、またはこの事件を防げなかった安全システム上の問題が取り沙汰されている。このような事件が起きる度に、再発防止策が検討され、安全システムの見直しが行われる。しかし、どんなに安全システムの改善を実施しても、このような発砲事件は絶対に無くならないし、これからは益々増えるに違いないだろう。

 何故なら、警察官が拳銃を用いて自らの命を絶ってしまうという事案が、最近多発しているが、この発砲事件の原因は共通しているからである。自衛隊は、他人を殺傷していて、警察官は自分に対する発砲だから、まるっきり違うと思っている人が多いことだろう。政治家や行政組織の管理者たちは、全然違う事案だと捉えているだろうが、実は根っこは同じなのである。これらの発砲事件を起こした当事者たちは、同じような生きづらさを抱えていたのは間違いない。つまり、自己愛性の障害を抱えていたことが容易に推察できる。

 自ら命を絶った警察官も、自動小銃で教官を射殺した自衛官候補生も、自己愛性の障害を抱えていたのではなかろうか。それはどういうことかというと、彼らに共通しているのは、自尊心や自己肯定感の欠如である。人間とは本来、マイナスの自己も含めて、自分をまるごと好きになり愛せることが、心身共に健やかに生きる為には必要不可欠なことである。自分の嫌な自己も含めてすべて愛せるからこそ、他人をも好きになり愛せるのである。勿論、嫌なことや辛いことが起きても、絶対的な自己肯定感が確立していれば、乗り越えられる。

 ところが、絶対的な自尊心や自己肯定感が確立されてないと、辛いことや悲しいこと、自分で乗り越えるのが難しい苦難困難に遭ってしまうと、その課題から回避したり逃避したりしてしまうのである。自分がそんなに辛い目に遭うのなら、この世から自分を抹殺しようとか、自分をそんな目に遭わせる存在を抹殺しようと短絡的発想をしてしまうのである。絶対的な自己肯定感を確立した人は、けっしてそんな気持ちにはならない。乗り越えるための方策を考えるし、その障壁を乗り越えられない筈がないと自信を持ち、向かって行くのだ。

 現代のような不寛容社会、または自己肯定感を育てることが出来ない教育システムの中では、このような自己愛性の障害を持った人々を大量に生み出してしまっているのである。つまり、絶対的な自己肯定感を確立した人は明らかに少数派であり、強い自己否定感を抱えている人が大多数になってしまっている。当然、警察官の中にも多数いるし、自衛官を目指す人たちにも大勢存在している。そういう自己愛性の障害を抱えている人たちが、一瞬で人の命を奪ってしまう拳銃や自動小銃を扱っているのだ。恐ろしい社会である。

 銃所持が許されている米国でも、拳銃やライフル発砲事件が多発している。やはり、自己愛性の障害を持つ人々が起こした事件だと言えよう。絶対的な自己肯定感を持つ人は、自分を心から愛することが出来るし、他人をもまるごと愛することが可能だ。そういう人は、自分自身を自ら傷つけるようなことをしないし、他人を攻撃することもない。何故、絶対的な自己肯定感を持てず自己愛性の障害を抱えてしまうかと言うと、それは教育システムの不備によるものだと言わざるを得ない。教育制度が根本的に間違っているからである。

 人を育てるには、まずは絶対的な自己肯定感を産みだす為に、絶対的な無条件の愛である母性愛が必要である。0歳~3歳の間にたっぷりと母性愛が注がれてから、条件付きの愛である父性愛をかけることが肝要である。ところが、現代の家庭教育においては、あるがままにまるごと愛するという教育プロセスが欠落している。中途半端な母性愛のままに、父性愛である干渉や介入が行われる。しかもそれがこうしちゃ駄目、あれしては行けないと過干渉の育たれ方をされてしまうのだ。これでは人間は自己組織化されないし、自己肯定感なんて育つ筈がない。自己愛性の障害を抱えてしまい大人になり、生きづらい人生を送るのだ。いくら安全システムを見直しても、発砲事件はなくならないのだ。

※学校教育や職場教育においても、自己否定感をさらに強くしてしまう教育が蔓延っている。誉めて育てるということをせずに、子どもや部下をコントロールする育て方をするのだ。それも、これして駄目あれしては行けないと、相手を否定するダメダメ教育をするのである。警察や自衛隊ではその教育傾向が極めて強い。これでは、自己愛性の障害を抱えている人たちのメンタルが壊れてしまうのは当然である。家庭教育も学校教育も、そして職場の教育も、抜本的に見直すことが必要である。

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