教育のイノベーションはシステム思考で

 日本経済の再生は教育のイノベーションによって実現できると、前回のブログで提起させてもらった。教育のイノベーションは、近代教育の問題点である客観的合理性偏重の教育を見直すことだと説いた。今回のブログではさらに踏み込んで、どういう価値観に基づいて教育を見直すべきなのかについて述べたい。本来目指すべき教育とは、普遍的な正しさを持つ価値観を基にした教育だと言える。その正しい価値観とは、システム思考である。システム思考とは全体最適を目指す価値観であり、関係性を根底にした自己組織化理論である。

 人間は完全なるひとつのシステムである。人間の構成要素である34兆2000億個の細胞からなるシステムである。人体におけるそれぞれの細胞のネットワーク(関係性)によって、人間は本来の機能を発揮できている。そして、それらの細胞は自己組織化されていて、誰からも指示命令を受けずとも、人体の維持・発展・成長・進化の為に昼夜働いている。それぞれの細胞は、主体性、自主性・自発性・責任性・進化性を持っている。細胞どうしのネットワーク(関係性)が壊れてしまうと、人体というシステムは機能を失い、病気になる。

 社会もひとつのシステムであるし、会社や職場もシステムである。地域社会も行政も、そして国家も世界も、さらには地球も宇宙もシステムである。そして、それらの構成要素も関係性によって存在しているし自己組織化の機能が発揮されている。すべてのシステムは全体最適を目指している。ところが、これらのシステムにおいて全体最適の価値観でなくて個別最適の価値観によって構成要素が動いてしまうと、システムは劣化したり破綻したりする。家族が崩壊するのも、全体最適ではなくて個別最適に陥り家族の関係性が壊れるからだ。

 すべてのシステムが正常な機能や働きを発揮するには、それぞれの構成要素のネットワーク=関係性が良好でなければならない。家族間の絆が損なわれると崩壊してしまう。夫婦が離婚するのは嫌いになったからではなくて、関係性が悪化するからである。子どもが不登校になったりひきこもりになったりするのは、親との関係性=愛着が形成されないからである。企業が破綻するのも、景気が悪い訳でもなく経営戦略が悪いせいでもない。社員どうしの関係性が悪いからシステムが機能せず自己組織化能力が発揮できないからである。

 つまりすべての集合体=システムは、全体最適の価値観を持つこと、そして豊かな関係性がないと、自己組織化が阻害されシステムが破綻してしまうのである。だからこそ、人間はシステム思考に基づく全体最適と関係性重視の価値観が必要なのである。小さい頃から、父親もしくはそれに代わる誰かからシステム思考の考え方や行動規範を教えられなければならない。そして、学校においてもシステム思考を基本にした教育が必要なのである。明治維新以降の教育は、システム思考と相反する教育をしてきたのである。

 明治維新以降の教育は、個別最適という間違った価値観を植え付けてしまった。能力至上主義や行き過ぎた競争主義を押し付け、自分だけの経済的な豊かさや地位名誉を求める利己主義を蔓延させてしまった。これでは良好な関係性は築かれない。人々は競い合いいがみあって生活し、人の不幸が自分の幸せだと感じるような利己主義の人間を作り出してしまったのである。これは、全体最適と関係性重視の価値観に基づくシステム思考という大切な哲学を子どもたちに教えてこなかったせいである。思想・哲学を忘れた教育は最悪だ。

 不登校、ひきこもり、いじめ、虐待、貧困、格差社会、孤独と孤立、自殺、生産効率の低下、経済の低迷、すべてはシステム思考という大切な哲学を失った為に起きていると言っても過言ではない。欧米では、このシステム思考の大切さに気付き始めている。特に北欧ではシステム思考的な教育が取り入れている。だから、北欧諸国の教育効果が非常に高いのである。オランダでも小学生からシステム思考を教えている。システム論に基づく自己組織化を発揮できるような自立・自律を重んじる教育をしている。米国でもシステム思考の第一人者であるMIT上級講師のピーター・センゲ氏が、多くの若者から支持されている。確実に世界ではシステム思考が支持を受けているのに、日本の教育だけが取り残されている。

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