JAと順天堂大学の共同研究で、農業体験がストレスを軽減してメンタルを癒すことが実証された。練馬区の体験型農園で男女40名に追肥や収穫体験をしてもらい、作業前後の唾液をELISAで解析を行い、比較検討してアグリヒーリングの効果があることが判明したという。農業体験や自然体験はストレスを解消してヒーリングの効果があると以前から言われていたが、それが科学的に証明された形である。このアグリヒーリングや自然体験による癒しの効果が実際にあると解れば、メンタル疾患の治療にも使えるということになる。
ストレスで増加するホルモンであるコルチゾール、クロモグラニンAが農業体験後に減少し、幸福度をあらわすホルモンのオキシトシンは、増加していることが確認された。また、POMS2®による気分アンケートでは、怒り、混乱、抑うつ、疲労、緊張といったネガティブ因子がいずれも低下することが明らかになったという。農業体験をすることが一定のストレス軽減、幸福度のアップに寄与していることが判明した。何故、ストレスホルモンが減少するのか、幸福ホルモンのオキシトシンホルモンが増加するのか、完全には解明されていない。
ストレスで増加するコルチゾールというホルモンは、ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)の一種で、本来は有益なホルモンである。しかし、あまりにも大量に出てしまうと、いろんな副作用を起こす。不眠やうつ病の元凶とも言われている。また、このコルチゾールというホルモンは大量に放出され続けると、海馬を委縮させる働きがあることが解っている。認知障害や記憶障害になるリスクもあるということである。コルチゾールというのは、メンタルに対する悪影響だけでなく、活性酸素を増やすので身体にも悪影響を与える。
幸福ホルモンと呼ばれるオキシトシンホルモンというものは、セロトニンの分泌にも影響を与えると言われている。セロトニンと相関関係があることが解っている。つまり、オキシトシンが分泌されるとセロトニンも分泌されるし、その逆の場合もあるということである。農業体験で何故にオキシトシンホルモンが出るのかと言うと、野外のフィールドで土をいじることが幸福感をもたらすことと、農産物の育成と収穫に寄与することが誰かの幸福に繋がってくるという実感がそうさせるのかもしれない。
さらに、オキシトシンホルモンは周りの誰かとの絆や関わり(関係性)を強く実感すると放出されるということも言われている。そういう意味では、今回の実験で指導者から農業の手ほどきを受けながら、複数人で農業体験をしたことで、強い関係性を実感したのも影響したと思われる。ひとり農業はあまり幸福感を感じないが、家族や共同体での農作業はオキシトシンホルモンを多く出してくれる。また、ひとりでの自然体験でもストレス解消できるが、複数人での自然体験ではストレスを軽減し、コルチゾールの分泌を低下させることだろう。
これらのことから、ストレスフルな生活をしている都会に住む人たちが、自然体験や農業体験をするために田舎に来て、ストレス解消しようとするのは科学的に正しいことが証明されたのである。何となくそれが効果あると解っていたし、実際に田舎で農業体験や自然体験をすることが幸福な気持ちにさせてくれるということを実感していたのだ。特に農家民宿で寝泊まりしながら、ホストに手ほどきを受けながら収穫体験するのは、ストレス解消に大きく寄与するのは間違いない。一緒にトレッキングしたり山遊び川遊びしたりするのも良い。
不登校やひきこもりの青少年を、田舎の農家民宿に宿泊させて、農業体験や自然体験をしてもらうというのは、とても有効だということが言えるだろう。不登校やひきこもりの青少年は、愛着障害を根底に持つことが多い。ストレスがトラウマ化していて、コルチゾールが大量に出続けていて不眠の症状があり、昼夜逆転していることが多い。昼間に農業体験や自然体験をして、コルチゾールを減らして疲労感を感じることで熟睡できよう。農家民宿のホストや指導者・支援者との触れ合いや関わり合いがオキシトシンを出させるに違いない。不登校やひきこもりを乗り越えるきっかけにもなり得るだろう。