日本の中高生のうち、10%の子どもたちが自傷行為を経験しているという。この数字を少ないと思う人はいないに違いない。こんなにも多くの子どもたちが自傷行為をしているということに驚く人が殆どであろう。そして、さらに驚くのは10%の子どもたちのうち、約半数は自傷行為を繰り返していると言うのだ。つまりは、常習的な自傷行為者なのである。子どもたちは、どうして自らの身体を傷つけてしまうのであろうか。そして、その自傷行為を何故繰り返すのであろうか。繰り返すということは、誰も気付いていないということだ。
自傷行為(リストカット)をする子どもたちは、孤独感を抱えているのだという。自分の辛い気持ちを解ってくれる人は誰もいないというか、誰にも話せないらしい。そして、強烈な生きづらさを抱えているし、満たされない思いを抱いているという。孤独だというのなら、自分の傷ついた心を話せる家族や親族もいないのだろうし、友達もいないということだろう。友達が居たとしても、悩みを打ち明けられるような親友はいないということだ。つまりは、家族がいたとしても、天涯孤独という気持ちなんだろうと思われる。
自傷行為をする子どもたちは、親との良好な関係性を築けていないと思われる。つまりは、親との愛着が不安定というのか、傷ついた愛着なんだろうと思われる。そういう意味では、attachment disorder(愛着障害)と言える。愛着障害というと、親から虐待やネグレクトを受けて育った子どもがなるのだと思われているが、けっしてそんな子どもだけがなる訳ではない。ごく普通に愛情たっぷりに育てられた子どもだって愛着障害になるのである。ただし、その愛情のかけ方に問題があるから、愛着障害になってしまうのだ。
勿論、虐待やネグレクトを受けて育った殆どの子どもは愛着障害になる。それだけでなくて、親から過干渉や過介入をされて育った子どもも愛着障害の症状を呈する。または、いろんな事情によって、子育ての途中で養育者が変更になってしまった時にも愛着障害になりやすい。例えば、母親が病気になったり他界してしまったりしたケースである。または離婚や両親夫婦の不仲で、母親が家を出て行ったり、家庭崩壊したりするケースも同様である。両親が四六時中に渡り喧嘩していても、子どもは愛着障害になる。
最近多いのは、父親が発達障害であり、母親がそのせいでカサンドラ症候群になってしまったケースである。こういう母親に育てられたら、殆どの子どもは愛着障害を起こしてしまう。さらには、母親が愛着障害であれば、子どもは同じように愛着障害を抱えることが極めて多い。このように自傷行為をしてしまう子どもは、根底に愛着障害を抱えていることが多いのである。愛着障害はメンタルの不調だけでなく、身体の不調も起こすし、学習意欲も低下することが多いから、不登校やひきこもりになることが少なくない。
愛着障害が根底にあって自傷行為を繰り返す子どもは、どのようにして救えば良いのだろうか。自分の悩みを誰にも話せないのだから、誰も気付かない。学校の先生も気付かないし、養護教員でも気付けないことが多い。例え生徒が自傷行為をしていると気付いても、学校カウンセラーであっても、救うことが極めて難しいだろう。愛着障害は、専門家であっても傷ついた愛着を癒すことは困難だ。何故なら、愛着障害は子どもだけの問題ではなくて、親と子の関係にこそ問題があるのだから、親を癒せないと愛着障害を乗り越えることが難しい。
自傷行為を起こす本当の原因が愛着障害にあるとすれば、愛着障害を癒すことが出来る専門家はいないのかというと、けっしてそうではない。児童精神科医の岡田尊司先生は、愛着障害に精通されていて、治療効果を上げていらっしゃる。岡田尊司先生の研究成果を取り入れて、愛着障害の治療をする専門家も増えつつある。勿論、我が子が自傷行為をしていることを認識できなければ、治療はできない。まずは、自分の子どもが自傷行為をしていないかどうかを発見できる感受性が親に必要だ。もしかすると我が子が愛着障害ではないかと心当たりがある親は、子どもの話を傾聴し共感することから始めよう。