自己マスタリーという言葉は、あまり聞きなれないかもしれないが、とても大切で生きるには必要不可欠なことである。自己マスタリーを実現していないと、人生において間違った生き方をすることにもなるし、企業や組織への貢献が出来ないばかりか、社会的な存在価値を失いかねない。一人前の人間としての成長や進化ができなくなるのである。この自己マスタリーという言葉を生み出したのは、MITの上級講師ピーター・センゲという人である。学習する組織を確立するための5つのディシプリンのひとつが自己マスタリーである。
ピーター・センゲという人物は、システムダイミクスを学び、ビジネスにシステム思考を活用することを提案した。そして、学習する組織という書物を著し、5つのディシプリンを提起して、企業が発展して永続性を持つには、学習する組織にすることが肝要であると説いた。自己マスタリーを実現するには、根底にはシステム思考が必要だとも主張している。自己マスタリーというと、自己練達とか自己熟達と訳されるが、単なる技術や能力が熟練することではない。もっと深い精神面における自己確立のことを指している。
自己マスタリーとは、自己をマスターすることであり、自分自身を把握し深く認識するという意味でもある。自己という言葉にこそ意味があると思われる。我々は、自分のことをすべて理解していると誤解している。しかし、それはまったくの幻影であり妄想であると言える。おそらく日本人の中で、真の自己を理解し受容して、自己をマスターしているのは、ほんの一握りしかいないであろう。『自分』を理解している人はいるかもしれないが、『自己』を深く理解している人は、殆どいないと言っても過言ではないのである。
自己と対比されるのが、自我である。自我とはエゴとも言われ、どちらかというと自我が強い人はあまり好かれない。しかし、自我の確立は人間の成長期において必要なことであり、自我が確立されていないと自分を主張できなくなってしまう。反抗期というのは自我が芽生えてきて起きると考えられている。現代の子どもは、反抗期を迎えずに大人になってしまうケースが多く、愛着障害になってしまうことも少なくない。あまりにも親から執拗に介入され続けると、自我の確立がされない。
本来は、自我が確立されて、その後に自己が確立されるという経過を辿るのが望ましい。自己の確立というのは、自我と自己を統合させるという意味もある。自我と自己の両方をバランスよく発揮できると、自分らしく生きることが可能となる。現代の日本人は、それが出来ないで大人になっている人が多い。だから、自我が強過ぎてしまい、自己中や身勝手な人が多いし、自分の利益や損得しか考えない人も少なくない。個別最適しか考えず、全体最適の生き方が出来ないから、企業内、組織、家庭の中で孤立する。
自己マスタリーは、努力をすれば誰でもできるのかというとそうではない。自我と自己を統合すれば、自己マスタリーが可能になるという単純なものでもない。システム思考を身に付けるというのも大事であるが、それはマストでありイコールではない。どのように自己マスタリーを実現するかを説明するのに、『U理論』を使うと理解しやすいと考えられる。一旦Uの底まで落ちて落ちて落ち込んでしまい、自分の内なるマイナスの自己(エゴ)を徹底して認め受け容れることが必要となる。醜く穢れて私利私欲にまみれた自己を発見して、それを自己糾弾するのである。そうして初めて自己が確立できて、Uの底から浮き上がれる。
認めたくない酷いマイナスの自己を発見すると、人は愕然とする。だから、マイナスの自己は自分にはないものとして生きている人間が殆どである。こういう人間は、100年経っても自己マスタリーを実現できない。マイナスの自己を自分の心に発見して、とことん糾弾して、そのうえでマイナスの自己を慈しむことが求められる。そうすると、マイナスの自己をプラスの自己に転化させて、全体最適の価値観に基づいた生き方にシフトできるのである。マイナスの自己が大きければ大きいほど、プラスに転化したときのエネルギーは強大になる。自分の深い心を素直に謙虚に見つめることが出来る人しか、自己マスタリーを実現できない。
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