ひきこもりの原因は迷走神経による遮断

ひきこもりが増えている。完全にひきこもっているのは若者だけでなく、中高年のひきこもりも多い。さらには、完全なひきこもりではなくても、買い物などの外出はできるのに、仕事や市民生活ができない社会的ひきこもりも増加している。そして、ひきこもりになっている原因は、メンタル疾患、適応しにくい社会、当事者の性格や人格、失敗体験、孤独感や絶望感などと言われている。確かに、それも一因にはなっているが真の原因ではない。ひきこもりという状況によってしか自分を救えないから、敢えて迷走神経が『遮断』をさせただけである。

草食の哺乳小動物は、強大な肉食動物の前では、闘うことはもちろん逃げることも出来ずに失神して固まってしまう。肉食動物が動いている動物しか食べないことを本能的に知っているのか、死んだように固まり肉食動物に捕食されることを防ぐ。これは、持って生まれた自己防衛反応である。この働きは、副交感神経を支えている迷走神経の一部が起こしている。生死に関わる緊急事態が起きた際に、その危険を回避するため、または食べられる時に痛みを感じなくするために、迷走神経が勝手に失神させてしまうと考えられている。これがポリヴェーガル理論だ。

実は、人間も生死に関わるような危険状態に陥った時に、失神したり不動化してしまったりすることはよくある。迷走神経が自分自身を守るために起こしている自己防衛反応である。人間は痛みによってショック死することがある。それを防ぐために一時的に気を失わせると考えられている。それをシャットダウンと便宜上呼ぶことにする。草食系の小動物は、この一時的シャットダウンから自力で蘇ることが出来る。人間は逃げられない過大な苦難困難やショックな出来事に遭うと、シャットダウン化が起きてしまい、元に戻れなくなる。

今までの医学的常識では、人間の自律神経は交感神経と副交感神経の二つの調整とバランスによって成り立っていると考えられてきた。ところが、この副交感神経を支えている迷走神経には、二つの迷走神経が存在すると判明した。ひとつは腹側迷走神経で、健康・調和・交流などを支援している。もうひとつは背側迷走神経で、これが命の危険に巡り合った時にシャットダウンをさせてしまうのである。このシャットダウンは、心を遮断させると同時に、身体的にも血流やリンパの流れを遮断したり筋肉を収縮させたり、神経を過敏にすることもある。

これはとても深刻な心身状況を起こしてしまうということである。神経過敏に陥ると、大きな音や強い光、匂いにも過敏になり、外出さえできなくなる。人の声、特に低周波の男性の声に恐怖感を覚えるし、低い機械音にも不安になる。LEDなどの強い光を見ると精神が疲弊する。特定の匂いに敏感にもなり、外出できなくなる。がやがやする人声がすると、逃げ出したくなる。トラウマやPTSDにもなるし、パニック障害を起こすこともある。メンタル疾患にもなりやすいし、対人恐怖症、妄想性障害、摂食性障害、強迫性障害にもなりやすい。こうなると、あまりの恐怖感で社会に出ることが出来なくなるのである。

迷走神経によってシャットダウン(不動化)が誰にでも起きるのかというと、けっしてそうではない。どんなに危険な状況に追い込まれても、シャットダウンが起きない人もいる。どうしてそんな違いが起きるのかというと、根底に愛着障害を抱えているかどうかによる。愛着障害を抱えている人は、安全な場所や境遇を提供してくれる存在がないし、良好な絆が結ばれていない。そういう人は、オキシトシンホルモンが不足しているから、いつも大きな不安や恐怖感を抱えている。故に生命が脅かされる状況に追い込まれると遮断が起きるのだ。

人間の場合は、背側迷走神経が働いて一度シャットダウンが起きると、そこから自力で脱出することが不可能になる。投薬やカウンセリング、心理療法などの医学的アプローチをしても、シャットダウンが解決できない。認知行動療法や様々なセラピーを駆使したとしても、シャットダウンから回復することは難しい。臨時的であっても安全な場所と境遇を提供され、良好な絆が結ばれて、音楽療法、適切な運動とボディーワークを続ければ、やがて迷走神経によるシャットダウンが和らいでくる。もちろん、同時に適切な愛着アプローチを受けることが出来たとしたら、遮断から完全に解き放たれてひきこもりから抜け出せるに違いない。

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