国立博物館で運慶展が開催されていました。なかなか行けなくてようやく鑑賞することができました。運慶作の仏像がこんなにも多く集められたのは、最初で最後かと思われます。
国宝 願成就院所蔵 毘沙門天立像
美術鑑定の技術も向上して、X線撮影によって仏像内部の状況も鮮明に解明することが出来て、運慶作と言っても間違いないという仏像が増えています。
重要文化財 浄楽寺所蔵 阿弥陀如来三尊像
運慶がどうしてこんなにも人気があるのかといいますと、仏師としてのその技術の確かさもありますが、仏像そのものの魅力だと思われます。なにしろ、仏像の表情が独特でありまして、なんとも言えないリアリティーを感じます。まるで、生きているかのような生き生きとした表情は見る者を圧倒します。さらには、立像の肢体全体の姿勢が魅力的です。肢体が微妙に傾いて、下肢がその傾きをいかにも支えているように変化しています。そのバランスが絶妙に取れていて、抜群の安定性を感じさせます。
重要文化財 浄楽寺所蔵 毘沙門天立像
運慶の仏像の魅力は、なんと言っても微妙な顔の表情だと思います。なんとも言えない憂いを含んだ表情、または悲しみや慈しみを心の奥底に湛え、見る者の共感を取り込むような、作像する際の感性の発揮はすごいと思います。
国宝 興福寺所蔵 無著菩薩像
仏像というのは、私たち見る者の心を反映すると言われています。ですから、見る者の心の在りようによってどのようにも変化するとも言えます。悲しみを心に湛えている人は、悲しみの表情に見え、怒りの感情を我慢している人は、憤りの表情を見るようになります。そして、その感情を仏像がまるごと受け容れてくれて、共感するとともに癒してくれるのです。運慶作の仏像は、まさにそんな仏像だから、多くの人々を魅了しているのかもしれません。