怒りを自制しない人は我が身を滅ぼす

『憤りの心は燎原の火の如し』という格言がある。どういう意味かと言うと、怒りの心を持ち続けていると、火が燃え広がった原っぱにいる自分が焼き死ぬのと同じに、怒りの炎が自分自身をも焼き尽くすという意味である。燎原というのは、枯れた草の原っぱという意味であり、そこに一旦火が付くとすべてが燃え尽きるまで火を消せない。怒りの心というのは枯れた原っぱに火が付いたのと同じで、周りの人々だけでなく自分をも焼き尽くすという意味である。

 だから、憤り(怒り)はどんな理由があったとしても、持ってはならないし、怒りが起きたらすぐに消し去らなければならない。最近、アンガーマネジメントという言葉がもてはやされているが、まさしく怒りを収める心の働きが求められるのである。会社や組織の中には、ことあるごとに怒りを爆発させる上司がいる。感情的に怒りをぶちまけられる部下はたまったものではないが、怒りを爆発させている当人の心身もボロボロになってしまうことを認識している人は極めて少ない。怒りをぶつけ続けていると、やがて組織の中で信頼を失い孤独なってしまう。

 怒りをぶつけ続けていると心身共にボロボロになるというのは、次のような理由からである。怒りが高まってくると、アドレナリンとコルチゾールという副腎皮質ホルモンが放出される。このホルモンによって、一時的に一時的にストレスを解消させてくれる働きがもたされる。ところが、怒りを持ち続けていると、アドレナリンとコルチゾールは過剰に分泌される。そうなると、血圧や血糖値が上がり続けてしまうだけでなく高脂血症にもなり、生活習慣病になりやすくなる。また、脂肪を溜めやすく肥満にもなるし、心筋梗塞や脳梗塞になる危険性も高まる。

 身体の不調はそれだけでは終わらない。コルチゾールが分泌され続けると免疫力が下がるから、感染症を起こしやすい。コルチゾールは脳の偏桃体を刺激するから、偏桃体が肥大化する。偏桃体が肥大化すると、記憶力を発揮させる海馬が委縮する。怒りやすい人は、記憶障害を起こしやすいし、認知症になる危険性が高まる。また、コルチゾールは前頭前野脳まで委縮させかねないから、正常な判断能力まで阻害され、仕事でミスも増える。人の上に立つ者として致命的とも言える、朝令暮改を繰り返すことにもなる。こうなると周りからの信頼まで失う。

 徳川家康が「怒りは身を滅ぼす」と言ったのは、あまりにも有名な話である。徳川家康はアンガーマネジメントを上手に実施していたから、天下を取れて長生きしたのである。怒りを爆発させて生きている人は、織田信長のように恨みを買うし、長生きできないことが多い。毎日のように怒りを爆発させてしまっている人は、一刻も早くアンガーマネジメントをしないと大変なことになる。身を滅ぼしかねないからだ。身体と心がボロボロになってからでは遅い。とは言いながら、アンガーマネジメントをひとつのメンタルテクニックとして実施して、6秒ルールを真面目に実践しても、怒りを完全に消し去ることはできない。

 何故、アンガーマネジメントによって怒りを完全に消せないかというと、自分のメンタルや生きる価値感に偏りや拘りを抱えているから怒りが生まれるんだということを認識していないからである。自分の思想や哲学に問題があるから怒りをコントロールできないのだということを知らなければ、いくらアンガーマネジメントをしたとしても効果は上がらない。自分の間違った価値観を変革しなければ、怒りを昇華させることは難しいのだ。怒りを爆発させてしまうのは、部下たちが仕事を満足にできないとか、お粗末な仕事ぶりなのだから当然だと言えよう。とは言いながら、怒りに任せて部下たちを怒鳴りつけたとしても、部下たちは一向に成長しないであろう。

 部下たちを満足できるレベルまで成長させるには、上司としての人間哲学が必要なのである。ましてや、怒りを爆発させない為には、そもそも正しい価値観が必要なのである。その正しい価値観や哲学というのは、全体最適と関係性重視の価値観であり、自らの自己組織化とオートポイエーシスを生み出す哲学でもある。言い換えると、システム思考の哲学である。上に立つ者はシステム思考の哲学を持たないと、部下を成長させることは出来ないし、怒りを収めることは不可能だ。そして、自己マスタリーを実現することで怒りを昇華させることも可能になる。アンガーマネジメントは、システム思考の哲学と自己マスタリーの実現によってしか、成功しないのだということを認識すべきである。

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