農家民宿は心を癒す

都会のIT企業でSEをしていた若者が心を病んだ。その若者が、1年間に渡り田舎で農業を体験していたら、メンタル障害が癒されて復帰できたという。それも、単なる復帰だけではなく、感性やイマジネーションの能力が高まり、新たな発想力が増して企画力さえも格段に向上し、有能な社員にレベルアップして戻ってきたという。以前から、メンタルを病んだ人々が、田舎の農家に滞在していると元気になるという話は少しずつ聞こえてきていたが、実際にこんな実例があったことをSNSで発信していることが解り、とても嬉しい限りである。

 

農業体験や自然体験をしながら農家に寝泊まりする滞在型の旅行をグリーンツーリズム(以下GT)と呼ぶ。ヨーロッパが発祥のゆとり型の旅行であり、長い休みが取れるバカンスに利用する人々が多いらしい。そもそも、ヨーロッパのGTは長期に渡る滞在型が多い。中には、仕事を退職または休職して1年間のGTをする若者たちが少なくない。それは、やはり都会のストレスフルな生活に心が疲れて折れてしまい、心の癒しを求めて田舎にやってくる若者が多いからだという。日本のような1泊か2泊のような短期滞在のGTとは基本的に違っているのである。

 

ヨーロッパのGTの歴史はそんなに古くはない。西欧で一番GTが盛んなのは、やはり農業国であるフランスであろう。フランスのGTも第二次大戦後に一般的にも本格的になったという。実は18世紀末から、GTらしいものが貴族の間で流行していたらしい。貴族という裕福な人々でさえ、農村に長期滞在するというのは贅沢であり、しかも貴族なので自分の土地を長く離れる訳に行かなかったらしい。それで、人工的な農園を城の敷地内に作ってしまったのである。これがアモーと呼ばれる農家付きの人工農園でもある。貴族たちはここにしばらく寝泊まりして、自ら農機具を使って農村生活をしたと言われている。

 

勿論、完全な農村生活ではなく疑似的なものであり、城に時折戻ったりもしたから、GTとは定義しにくいが、その走りではなかったろうか。実際に、マリーアントワネットも心が折れてしまったときは、農婦のような質素な恰好をして農村生活を楽しんでいたらしい。貴族たちもパリ郊外に住んでいて、いくら庶民とは違った生活をしていたとはいえ、都会に近い生活でストレスを抱えていたと思われる。だから、疑似農園であるアモーでの生活でストレス解消をしていたのではないかと推測される。ほぼGTと呼んでも差し支えないし、これがGTの発祥と言ってもかまわないように思う。

 

日本のGTも、最近なって心の癒しを求めてやって来る人々も増えてきたようである。心の癒しをテーマにしている農家民宿も増えてきた。しかしながら、西欧のように1ケ月や2ケ月までも受け入れてくれる農家民宿はごく少数である。日本の農家民宿は、ほとんどが農業の片手間に老夫婦が経営している状態を考えれば致し方ないと思われる。だから、農家民宿の宿泊をして、一時的に心が癒されたとしても、完全に元気が回復するとまでは行かないのであろう。ヨーロッパでは、GTの体験後に農村に移住する若者が少なくないという。完全移住をして、農業をしたり、農家レストランやカフェを営んだりする若者が少なくないという。

 

農業・自然体験によって心を癒し元気にするということは、科学的に考察しても間違いないようである。脳科学的や脳神経学的にみても、分子生物学に洞察しても、心身共に癒され元気になるのは、科学的根拠により説明できる。さらに、栄養学的にみると、農村の自然で新鮮な野菜、または伝統的な和食(乳酸菌の豊富な料理)によって、体内に溜まってしまった毒素がデトックスされる効果も大きいという。最近の研究では、腸内細菌が元気になると精神的な元気も取り戻せることが解っている。心が折れてメンタルを病んでしまって、不規則な生活になり睡眠障害を起こしてしまった方々が、農家民宿に長期間滞在すると、驚くように不眠が解消されるらしい。また、過食や拒食に悩む若者が、農家民宿で生活すると正常な食欲に戻ることも判明している。イスキアの郷しらかわは、そんな農のある生活を提供している。

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