DLPFC(背外側前頭前野脳)という医学専門用語が、最近注目されるようになった。最新医学における脳科学研究によって、うつ病はDLPFCの機能低下によって起きているということが判明したのである。以前から前頭前野脳の機能低下が影響しているのではないかと言われてきたが、その中の特定の前頭前野脳であるDLPFCの機能低下がうつ病の原因だと特定されたのである。そのうえで、直接DLPFCにピンポイントで電磁的刺激を与えることで、うつ病が劇的に改善するという治療効果を上げている症例が増えている。
うつ病を患っている人にとっては朗報なのであるが、このγTMS療法がどこの医療機関でもこの治療が出来るかと言うと、残念ながらまだ普及していない。まだ保健診療で認められるには、二カ月の入院治療や様々制限があり、なかなか認められにくい。自由診療であれば通院治療でも可能だが、すべての医療機関でも簡単に治療を受けられるまでには至っていない。しかし、今まではうつ病の原因は解らないことが多くて、セロトニン神経が影響しているのではないかとの推測(仮説)しかなかったから、すごい発見である。
以前から、長い期間うつ病などの気分障害を起こしている人の脳をCT画像で確認すると、偏桃体が肥大化して、海馬や前頭前野脳が萎縮していることが解っていた。その前頭前野脳のうちDLPFCに萎縮が起きてしまい、機能が低下しているものと思われる。DLPFCは、コンピュータにおけるフラッシュメモリーのような働きをしていると言われている。一時的に記憶をする機能と、演算機能のように様々な情報を複合的に処理しながら、合理的な判断をする機能を持つらしい。また、倫理的な判断機能も持つとも言われている。
したがって、DLPFCが機能低下や停止に陥ると、一時的記憶というか最新の記憶が飛んでしまうということが起きやすい。まさにフラッシュメモリーがクラッシュしたかのような状況に陥るのである。正しく合理的な判断能力も失うし、倫理的な判断も苦手になるのである。まさに、うつ病患者が判断能力や記憶能力を失い、休職に追い込まれてしまうのは、このせいであろう。頭では分かっていても、心身がフリーズしてしまったかのように、身体も動かなくなり、脳も機能停止に陥るのである。まるでPCがフリーズしたかのように。
何故、DLPFCが萎縮して機能が低下してしまうのかというと、そのメカニズムは完全に解明している訳ではないが、こんな推測がされている。強烈な悲しみや寂しさ、怒りや憎しみ、強大な不安や恐怖が次から次へと襲ってくると、ノルアドレナリンが大量に偏桃体に分泌されるし、コルチゾールというステロイドホルモンが大量に放出される。本来であれば、不安や怖れがあり異常興奮を起こしそうになれば、DLPFCが抑え込んでくれるのに、何度も何度も不安や怖れが積み重ねられると、限度を超えてしまい偏桃体が興奮してしまうのである。
情動反応(逃避や闘争状況)が起きて偏桃体の異常興奮が長期間続いてしまうと、偏桃体が肥大化すると共に、海馬や前頭前野脳が萎縮してしまうのだ。DLPFCが機能低下を起こす。何故、そんな反応を人間の脳はしてしまうのであろうか。おそらく、人間の防衛反応が働くせいではなかろうか。闘う事もできず逃げる事もできなくなると、緊急避難的に心身がフリーズするのである。ポリヴェーガル理論における、背側迷走神経の過剰反応が起きて、自殺や精神の破綻を起こさないように、DLPFCの機能低下が起きて、自分の命を防衛するのである。
このポリヴェーガル理論における背側迷走神経の過剰反応による心身のフリーズ・シャットダウン化は、トラウマの積み重ねによっても起きることもある。何度も何度も心的外傷を受けることで、徐々に背側迷走神経の過剰反応が溜まりに溜まって、限度を超えた際にフリーズが起きるのであろう。このフリーズをγTMS療法によるDLPFCの機能を復活させて中途半端に緩めてしまうと、自殺してしまう怖れがある。うつ病の回復期に自殺が起きるのは、背側迷走神経のせいである。故に、重症のうつ病にはγTMS療法は適応除外となっている。
※フリーズした心身を完全にしかもゆっくりと緩める為には、心理的安全性を確保してソマティックケアを併用しながら、カウンセリングやセラピーを実施する必要があります。しかし、その際に気を付けなければならないのは、DLPFCの機能低下が起きていると、認知行動療法においては合理的判断能力が出来ないし一時記憶が働かないので、極めて難しいということです。どちらかというと、ナラティブアプローチ療法やオープンダイアローグ療法の方が適用しやすいかもしれません。勿論、その際に簡単な絵や表を使ったりして、視覚にも訴える必要があると思います。
