酒は百薬の長という格言はウソ

 お酒が好きな人は、酒は百薬の長だという格言を信じているというか、信じたい気持ちが強いに違いない。古来より、ずっと言われ続けてきたこの酒は百薬の長だという格言は医学的にも正しいことだと信じられてきた。ところが、最新の医学研究によると怪しいという研究結果があるという。飲み過ぎは健康に害があるのは当然だが、適量のアルコール摂取なら非飲酒者よりも長生きするという統計調査結果が公にされてきた。ところが、この調査結果はバイアスがかけられていて、実際は少量飲酒者でも長生きする訳ではないという。

 そんな筈はないと思うお酒好きの方も沢山いるとは思うが、飲酒者よりも非飲酒者のほうが健康で長生きするというのは、医学的にも間違いないと証明されている。ましてや、最新の医学研究では飲酒者のほうが非飲酒者よりも認知症になりやすいという研究結果も明らかになっている。そして、非飲酒者よりも飲酒者は頭頚部の癌になる確率が、なんと5倍にもなるという統計調査も明らかになっている。そもそも、酒は百薬の長という格言は、古代中国の政府による酒税の徴収を増加させるキャンペーンワードだったいうのだ。

 こんないい加減で科学的根拠もない格言に、我々はどうして騙されていきたのであろうか。それは、やはり日本の政府もお酒の売り上げによる税収が貴重だったということもあるだろうし、アルコール製造販売企業と酒類小売店、飲食店への篤い配慮があったのではないかと推測される。ましてや、行政、政治家、医学関係者にも酒好きが多いので、お酒が毒だと思いたくなったのだろう。医学的なエビデンスだって、それを扱う者によってバイアスがかかってしまい、大きく捻じ曲げられてしまうケースは、他にも例がたくさんある。

 いずれにしても、酒は百薬の長という格言はまったくのデマだったということが判明した。しかし、今でも適度な飲酒は健康に良いのだと信じている人は少なくないし、毎日習慣的に飲酒している人も多い。中には、大量飲酒によって肝障害やアルコール依存になって、取り返しのつかない健康被害や生活破綻を起こしている例も多い。飲酒運転による交通事故で、被害者を死亡させてしまうケースも多くある。お酒で身を持ち崩してしまう輩も少なくない。ということは、お酒は百害あって一利なしの、リスクが高いものだと認識すべきだ。

 このような適量の飲酒でも健康被害をもたらすというエビデンスの公表を受けて、日本の酒造メーカーでも、適正な飲酒やノンアルコール飲料を推奨する動きをしているところもある。アサヒビールでは、スマートドリンキングというキャンペーンを始めた。ノンアルコール飲料や低濃度アルコールのお酒を薦めている。勿論、そういうノンアルコールのビールやカクテル、低アルコールの飲料を次から次へと開発して販売している。しかも、本格的な醸造によるノンアルコールビールなので、味も本物のビールに遜色ない出来だ。

 最近では、お酒を飲めるのに敢えて飲まない生き方であるソバーキュリアスを志向する人も増えてきたし、お酒が苦手だと一切飲まない人も増えてきた。さらには飲酒による不適切な行動を防止するというレスポンシブルドリンキングという考え方も外国では定着しつつある。アサヒビールは、そのような世界的な潮流をいち早く取り入れて、スマートドリンキングをマーケットの戦略にしたというのは、素晴らしい英断だと言えよう。アサヒビールの現社長である松山一雄氏は、それまでのプロダクトアウト一辺倒であったマーケット戦略を、大胆にマーケットインに大変革したのである。

 勿論、マーケットインの戦略偏向だけが正しい訳ではなく、自社の強みを生かした開発企画だって必要なのは言うまでもない。しかし、これからの酒造メーカーは、市民の健康をどのように守るのかとか、レスポンシブルドリンキングにどう対応するのかを考慮した市場戦略を練るべきである。お酒というのは毎日習慣的にしかも大量に飲むのは、健康を損ねるだけでなく社会的な損失を招くし、SDG’s上においても勧められる行動ではない。元々、お祭りや特別な日に嗜む程度に飲むのが、『大人のたしなみ』のお酒だった筈だ。特別なハレの日にだけ、最上級のお酒をほんの少しだけ飲むのがお洒落な大人飲みと言えるだろう。

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