TV東京系列で放映されて、その後NHKのEテレでも放映されている『働く細胞』というアニメをご覧なったことがあるだろうか。コミック連載当初より人気があり、単行本になっても人気が衰えず、テレビでもアニメ化されて放映されたらしい。子どもたちにも人気があるのは当然だが、大人が鑑賞しても面白いし為になる内容である。子どもたちは、このアニメに引き込まれるみたいである。孫たちもこのアニメが大好きで、録画して何度も鑑賞して喜んでいる。どうして、このアニメは子どもたちに人気になっているのであろうか?
このアニメが人気になっている理由は、しっかりした科学的根拠に基づいた内容になっているし、人間の根源的な機能である自己組織化を描いているからであろう。どういうことかというと、人体というネットワークシステムには、自己組織化と呼ぶ人間本来の機能が備わっている。自己組織化というのは、主体性、自主性、自発性、自己犠牲性、自己成長性、自己進化性、連帯性という、人体が本来持っている機能のことである。この自己組織化が機能しなくなると、人体は病気になるし老化や劣化が進んでしまう、大切な機能である。
少し前の人体生理学においては、すべての細胞は脳や神経系統からの指示によって働いていると考えられていた。つまり、それぞれの細胞は勝手に機能しているのではなく、何らかの指示命令系統によって、上手く作用しているものだと考えられていた。ところが、人体生理学や分子生物学の研究が進んだことにより、まったく違った作用機序になっていることが判明したのである。すべての細胞は、それぞれが自ら自己組織化していて、誰にも指示されることなく、全体最適の為に自らが機能しているということが解ったのである。
その事実を、『働く細胞』というアニメは、自ら自己組織化している細胞の姿を、見事に描き切っているのである。主人公である擬人化した赤血球細胞とそれを助ける白血球細胞が、人体という全体が健康で正常に機能する為に、時には自己犠牲を払うのを厭わずに、献身的に働く姿を描いている。このアニメは、すごい人気が出ていることから、永野芽郁と佐藤健の共演で、実写映画化までされるという。子どもたちが自己組織化という概念を理解しているとは到底思えないが、本能的に自己組織化したいと望んでいるのではなかろうか。
細胞も含めて、全体を組織しているすべての構成要素は、自己組織化する働きを持っている。この自己組織化の機能が正常働くためには、良好な関係性を保持しているということが絶対必要条件である。働く細胞というアニメでは、細胞どうしの良好な関係性が大事だと訴えている。関係性&ネットワークが劣化してしまうと、人体が破綻してしまうということも描写されている。人体もそうなのだが、人間社会でも関係性が劣化してしまうと、全体最適の機能が働かなくなってしまう。働く細胞は、そのことも暗示しているのである。
子どもというのは、哲学的な物語が大好きである。人は何故生きるのか、何のために生まれてきたのかを問う話に引き込まれる。人間は生まれつき哲学的な話に憧れるものだ。特に純真な子どもは、人間のあるべき姿を無意識で追い求めているのである。それが大人になるにつれて、純真さを失うと共に本来の生きるべき道をも失ってしまう。全体最適を目指して生きることを忘れてしまい、個別最適(自分最適)を目指すようになる。子どもは、働く細胞のような全体最適の話や関係性重視の思想に憧れるのである。
働く細胞というアニメを、子どもたちが大好きになるのは、自己組織化や全体最適を説いているからだ。鬼滅の刃というアニメに純真な子どもたちが熱狂するのも、同じ理由からである。アニメ働く細胞を好む大人もまた、全体最適や関係性重視の価値観を持っているのであり、自己組織化の機能を発揮している人間である。子どもたちが健全なる正しい価値観を持って成長する為にも、アニメ『働く細胞』を是非鑑賞させたいものだ。そして、大人も一緒に観ながら自己組織化の機能を発揮することの大切さを共有したいものである。実写映画化された『働く細胞』が公開されたら、孫と一緒に見に行こうと思う。