企業の不正や不祥事がなくならない背景

 ダイハツ工業における不正な認証試験が、34年間も実施されていたという前代未聞の事件の報道には驚いた。ダイハツ工業は、トヨタ、スバル、マツダ各車両のOEM生産も行っていることから、自動車業界全体にも影響が広まった。そして、今度はトヨタ自動車も同じような不正をしていたことが明らかになったという。自動車製造企業全体の体質が問われる事態にもなっている。大量のリコールをどう実施するのか、ディーラーも困惑している。また、新車販売が出来なくなり、購入予約しても納車がされない事態にもなっている。

 事故発生時における車体の強度が公的に証明されないのだから、生命に関わる重大事である。国による認証制度が有名無実になる事態であるから、安全担保を根本から覆すことになる。安心して車を運転できない事態に陥らせた、偽装できる認証制度を創った国土交通省の責任も大きい。それにしても、国の許認可基準を無視した企業の不正事件が過去にいくつもあった。三菱自動車リコール隠し、日野自動車排ガス偽装、神戸製鋼検査データ改竄、東洋ゴム免震偽造、そして紅麹サプリの小林製薬など著名企業による不正事件の枚挙に暇がない。

 こんなにも何度も企業の不正事件が起きているのだから、国の認証制度にかかる法律や規則が、ザル法であるのは間違いない。企業経営者なり管理者が、法律を遵守する『善人』であるという前提の基に作られた法律である。人間の本質というものをまったく理解していないと言えよう。このような不正が次から次へと明らかになると、企業経営者たちはリスク管理の在り方を見直すとか、コンプライアンスの重視という方策を取ることが大事だと思う事であろう。さらに厳しい品質管理を徹底させようと、社員に激を飛ばす事であろう。

 しかし残念ながら、このような社内の品質管理の在り方を根本的に見直して、より厳しい管理体制を築いたとしても、社内の不祥事はなくなることはないと断言できる。何故なら、それは社員を信頼していないからである。社員を信頼できないからと、品質管理のための社内ルールをいくら厳しくしたとしても、誤魔化そうとする社員の抜け穴はいくらでも存在する。信頼されていない子どもは、親を騙す。同じように、社員を信頼しない企業は、社員に裏切られる。絶対的な信頼を寄せられたら、人間は裏切ることが出来ないのだ。

 企業の経営者や幹部というのは、自分も誤魔化した体験を持つから、社員も同じように不正を働くのではないかと疑心暗鬼になる。だから、誤魔化せないように厳しいルールを作るのである。規則やペナルティーを厳しくして、社員を縛るしかないと思うのであろう。これは、社員の心を惑わせる。どうせ自分は疑われているのだからと、不正を働くことに自制心が働かなくなる。ましてや、人間は自己組織化する働きを持っているのに、逆にその主体性・自発性・自制心・責任性を奪ってしまうのである。

 ましてや、企業経営者・幹部・社員すべてに、正しい経営哲学がないのである。企業が収益を上げる為には、法律や規則を無視したり拡大解釈したりしても良いのだという価値観が浸透してしまっている。現代の企業には、社会や市民の利益や幸福の実現に貢献する為に存在するのだという、根本的理念が欠落しているのである。つまり、ソーシアルビジネスという観点がまったく無くなっているのである。その証拠に、企業経営者や幹部には形而上学的思考をする者は存在しなくなったのである。

 本田宗一郎が経営していた時の本田技研工業、盛田昭夫や井深大が経営していたソニー、松下幸之助が経営していた際の松下電器産業のそれぞれの社員たちは、経営哲学の話を盛んにしていたという。何のために会社を経営するのか、自分たちは何のために生きるのか、そんな話をするのが大好きな社員が沢山いたと言われている。だから、社員たちにはソーシアルビジネスの理念が自然と身に付いていたのである。現代企業の社員たちには、利益至上主義、企業価値向上至上主義しか存在しないのである。だから、不正や不祥事がなくならないのである。原点に戻って、形而上学の学び直しをしないと、不正はなくならないであろう。

 

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