年金の第3被保険者制度廃止への賛否

 いよいよ年金制度におけるおおいなる不平等だと批判されてきた、第3号被保険者制度の廃止が政府内で本格的に検討されるという。政府、とりわけ財務省では喫緊の課題として取り組んできた、年金の第3号被保険者制度の廃止が、ようやく実現されようとしている。この第3号被保険者制度というのは、サラリーマンの妻(夫)で一定の収入以下であれば、夫(妻)の厚生年金(共済年金)の保険料だけを納付すれば、妻(夫)の年金保険料は免除されるという制度だ。主婦年金制度と呼ばれ、日本特有の年金制度である。

 何故、不平等だと批判されてきたのかというと、国民年金に加入している世帯では、この制度は適用されず、配偶者も年金保険料の納付義務があるからだ。サラリーマンの配偶者だけが、この恩恵を受けているのだ。どうして、こんな不平等な制度があったのかというと、昔は厚生年金に加入している夫の配偶者は国民年金に加入する義務があったのだが、殆どの配偶者が国民年金保険料を納付せず、年金未加入の配偶者が多数存在してしまい、大きな社会問題になっていたからだと言われている。離婚した高齢者が無年金になってしまう。

 社会保障をすべての国民に行き届かせるという意味では、確かにの社会的弱者である女性の高齢者が無年金になってしまうのは困る。しかし、年金保険料をまったく納付していない国民が、65歳になると無条件で基礎年金を支給されるというのは、社会的公正さという点においては、おかしい制度だとも言えよう。ましてや、年金保険料収入が少なくて、年金支給財源が枯渇しようとしている現代に、年金保険料が免除されているというのは、国民年金の加入者や共働き世帯の人たちには、納得の行かない話である。

 確かに、昔は男が外で働いて家族を養い、妻は専業主婦や時間制のパートタイマーで家族の世話をするという家庭が殆どだった。共働きで夫婦が共に社会保険に加入するという世帯が少なかった時代だった。専業主婦の妻の国民年金保険料を支払う余裕もなかっただろうし、離婚をするなんて考えられなかったから、将来に対する不安もないから必要性も感じなかったに違いない。そして、あまりにも配偶者の国民年金保険料の未納付が多くて、当時の厚生省は緊急避難的に第三号被保険者制度を考えたと言われている。

 しかし、これはあくまでも表向きの話である。殆どの法律の原案はキャリア官僚が作成するのであるが、彼らの本音は違っていたのではなかろうか。この年金の第三号被保険者制度と配偶者特別控除の税制と併せて考慮すると、その本質が見えて来る。当時のキャリア官僚たちは、高給を受け取り贅沢な官舎に住んでいた。余裕のある生活を送っていた。妻たちを働かせる必要はなかった筈である。しかし、教養や素質のある専業主婦の妻たちの中には、子育てを終わると仕事に就いて、社会参加をしたいと願う人も多数いたと推測される。

 世の中の男性の多くは、本音では女性の社会参加を望まない。出来れば家庭に妻を縛り付けて、家事育児に専念してほしいと思っている男が多い。ところが、高学歴で教養があり、能力の高い女性は家庭に収まることに不満を持ちやすい。子育てが一段落すると、仕事に就きたいと願い、外で働く承認を得る交渉を夫に持ち掛けた。キャリア官僚たちの多くは、働きたいという妻たちを家庭に押し留めるのに苦労したと思われる。それで考え出されたのが、年金の第三者被保険制度と配偶者特別控除の制度である。つまり、働きたい妻たちを無理やり家庭に留まらせるために作った苦肉の策なのである。

 キャリア官僚たちは、妻たちを家庭に閉じ込めるため、またはパートタイマーで低収入の働き方をさせるために、年金の第三者被保険者制度と配偶者特別控除の制度を作ったのであろう。妻たちが経済的に自立してしまうと、自分を見捨ててしまうのではないかと心配していたのかもしれない。女性を家庭に押し込めて自立を阻害する、女性蔑視の悪法であると言える。したがって、一刻も早く年金の第三者被保険者制度と配偶者特別控除は廃止すべきなのである。これらの悪法の本質をいち早く見抜いていたのは、連合会長の芳野友子さんである。芳野友子さんは岸田首相に強く働きかけて、年金の第三者被保険者制度を廃止させようとしている。女性の真の自立のための第一歩である。

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