広場恐怖症の原因と寛解の方法

 広場恐怖症と呼ばれる精神疾患が注目されている。女子プロゴルファーである菅沼菜々さんがツアーで初優勝して、自分が公共交通機関を利用できない広場恐怖症であることを優勝コメントで発したことでニュースになったからであろう。同じ広場恐怖症で苦しんでいる人々を勇気付けたいと思っているという。広場恐怖症とは、パニック障害のひとつとして捉えられることが多い。広場だけでなく、多くの人々が集まる場所やシチュエーションが苦手で、バス、電車、飛行機、船、エレベーターにも乗れなくなる人もいる。

 元々は普通に交通機関に乗れていたのに、ある時に特定の場所でパニック発作が起きてしまい、また同じ発作が起きるのではないかという恐怖が心を支配するらしい。初優勝した菅沼菜々さんは、公共交通機関に乗れないので、全国各地に父親が運転する車で転戦しているという。したがって、飛行機や船でしか行けないような沖縄や北海道でのツアーには参加できない。この広場恐怖症は、一旦発症してしまうと日時生活に支障を来してしまうし、通勤できないので会社勤めも出来なくなるケースが多い。

 この広場恐怖症が発症する原因は、遺伝的要因が大きいと言われていて、養育環境やストレスによって強化されてしまい発症するのではないかと推測されている。自律神経が何らかのショックによって暴走状態に陥ってしまうのではないかと見る医学研究者が多い。元々強烈な不安を感じやすい気質があり、衝撃的な事件・事故で副交感神経が働かなくなり、交感神経が暴走してしまい、それが固定化しているのではないかと推測されている。今までの医学的常識からすると、こんな診断をしてしまうだろうが、どうも納得できない。

 広場恐怖症が一旦発症してしまうと、予後は良くない。SSRIという抗うつ剤を投与したり、暴露療法や認知行動療法をしたりして、治療をするが効果が出にくい。何年にも渡り治療を受けても、効果が出にくいので社会復帰が遅れてしまうことが多い。それだけこの広場恐怖症という精神疾患が、難治性の疾病だと言えるが、原因や発症システムを見誤っているせいではないだろうか。自律神経のアンバランスや暴走だという見立ては、間違っていないと思われるが、交感神経の暴走というのは少し違うように感じている。

 何故かと言うと、副交感神経が抑えられて交感神経が暴走状態になったと仮定したとして、その暴走が長期化してしまうというのは考えにくい。通常交感神経が優位になってしまい、ずっと暴走のような状態が続いたとしても、交感ホルモンがずっと放出され続けることは考えにくい。なによりも、広場恐怖症は心と身体の遮断やブロックを起こすのである。交感神経とは、真逆の働きをするのである。とすれば、副交感神経である迷走神経のうち、背側迷走神経が暴走してしまい、シャットダウン化が起きたと考えるのが妥当だ。

 広場恐怖症を発症する人は、元々不安や恐怖を感じやすい。ということは、不安神経症的な気質を持ち合わせている。そして、HSPと呼ばれる神経学的過敏と心理社会学的過敏の気質を持つことが多い。さらに、何事にも完璧を求める傾向があるし、人の目を気にし過ぎる傾向があり、誰に聞いても『良い人』だという答えが返ってくるほど、優等生であることが多い。こういう気質こそが、広場恐怖症を発症させてしまう下地となっていると言えよう。そこに過大なストレスがあり、逃避や戦闘も出来ない状況で、想像を絶するような不安・恐怖を感じてしまうと、背側迷走神経が暴走し発症する。

 背側迷走神経が暴走した状況になりシャットダウン化が起きると、身体と心が動かなくなり、まったく行動できなくなってしまうのである。こうなってしまうと、また同じような事が起きてしまうのではないかと不安になり、同じシチュエーションに身を置くことが不可能になる。この背側迷走神経のシャットダウン化を解くためには、カウンセリングや適切なセラピーが有効である。または認知行動療法やオープンダイアローグ療法も効果がある。一番は、『安全基地』となる存在である。安全基地となる存在が、けっして否定せず傾聴と共感を繰り返し、ボディセラピーを実施して身体の緊張を解きほぐし、音楽療法などを併用することで寛解を迎えることが出来よう。時間がかかるが、治るのは不可能ではない。

自衛隊の発砲事件を2度と起こさぬには

 自衛隊の射撃訓練場における発砲事件が起きた。事件に遭われた方にとっては不幸な事件であり、犠牲になってしまわれた方の冥福を祈りたい。事件の背景が明らかになりつつあり、どうしてこの事件が起きたかという原因、またはこの事件を防げなかった安全システム上の問題が取り沙汰されている。このような事件が起きる度に、再発防止策が検討され、安全システムの見直しが行われる。しかし、どんなに安全システムの改善を実施しても、このような発砲事件は絶対に無くならないし、これからは益々増えるに違いないだろう。

 何故なら、警察官が拳銃を用いて自らの命を絶ってしまうという事案が、最近多発しているが、この発砲事件の原因は共通しているからである。自衛隊は、他人を殺傷していて、警察官は自分に対する発砲だから、まるっきり違うと思っている人が多いことだろう。政治家や行政組織の管理者たちは、全然違う事案だと捉えているだろうが、実は根っこは同じなのである。これらの発砲事件を起こした当事者たちは、同じような生きづらさを抱えていたのは間違いない。つまり、自己愛性の障害を抱えていたことが容易に推察できる。

 自ら命を絶った警察官も、自動小銃で教官を射殺した自衛官候補生も、自己愛性の障害を抱えていたのではなかろうか。それはどういうことかというと、彼らに共通しているのは、自尊心や自己肯定感の欠如である。人間とは本来、マイナスの自己も含めて、自分をまるごと好きになり愛せることが、心身共に健やかに生きる為には必要不可欠なことである。自分の嫌な自己も含めてすべて愛せるからこそ、他人をも好きになり愛せるのである。勿論、嫌なことや辛いことが起きても、絶対的な自己肯定感が確立していれば、乗り越えられる。

 ところが、絶対的な自尊心や自己肯定感が確立されてないと、辛いことや悲しいこと、自分で乗り越えるのが難しい苦難困難に遭ってしまうと、その課題から回避したり逃避したりしてしまうのである。自分がそんなに辛い目に遭うのなら、この世から自分を抹殺しようとか、自分をそんな目に遭わせる存在を抹殺しようと短絡的発想をしてしまうのである。絶対的な自己肯定感を確立した人は、けっしてそんな気持ちにはならない。乗り越えるための方策を考えるし、その障壁を乗り越えられない筈がないと自信を持ち、向かって行くのだ。

 現代のような不寛容社会、または自己肯定感を育てることが出来ない教育システムの中では、このような自己愛性の障害を持った人々を大量に生み出してしまっているのである。つまり、絶対的な自己肯定感を確立した人は明らかに少数派であり、強い自己否定感を抱えている人が大多数になってしまっている。当然、警察官の中にも多数いるし、自衛官を目指す人たちにも大勢存在している。そういう自己愛性の障害を抱えている人たちが、一瞬で人の命を奪ってしまう拳銃や自動小銃を扱っているのだ。恐ろしい社会である。

 銃所持が許されている米国でも、拳銃やライフル発砲事件が多発している。やはり、自己愛性の障害を持つ人々が起こした事件だと言えよう。絶対的な自己肯定感を持つ人は、自分を心から愛することが出来るし、他人をもまるごと愛することが可能だ。そういう人は、自分自身を自ら傷つけるようなことをしないし、他人を攻撃することもない。何故、絶対的な自己肯定感を持てず自己愛性の障害を抱えてしまうかと言うと、それは教育システムの不備によるものだと言わざるを得ない。教育制度が根本的に間違っているからである。

 人を育てるには、まずは絶対的な自己肯定感を産みだす為に、絶対的な無条件の愛である母性愛が必要である。0歳~3歳の間にたっぷりと母性愛が注がれてから、条件付きの愛である父性愛をかけることが肝要である。ところが、現代の家庭教育においては、あるがままにまるごと愛するという教育プロセスが欠落している。中途半端な母性愛のままに、父性愛である干渉や介入が行われる。しかもそれがこうしちゃ駄目、あれしては行けないと過干渉の育たれ方をされてしまうのだ。これでは人間は自己組織化されないし、自己肯定感なんて育つ筈がない。自己愛性の障害を抱えてしまい大人になり、生きづらい人生を送るのだ。いくら安全システムを見直しても、発砲事件はなくならないのだ。

※学校教育や職場教育においても、自己否定感をさらに強くしてしまう教育が蔓延っている。誉めて育てるということをせずに、子どもや部下をコントロールする育て方をするのだ。それも、これして駄目あれしては行けないと、相手を否定するダメダメ教育をするのである。警察や自衛隊ではその教育傾向が極めて強い。これでは、自己愛性の障害を抱えている人たちのメンタルが壊れてしまうのは当然である。家庭教育も学校教育も、そして職場の教育も、抜本的に見直すことが必要である。

陰謀論を信じる人はスキゾタイピー

 陰謀論を信じている人は、少なくない。科学的に検証すれば、デマであることが容易に判明するのだが、まったく聞く耳を持たず、陰謀論に固執する。一度でも陰謀論に嵌まってしまうと、抜け出せなくなる。陰謀論を信じている人は、教養がなくて知能が低い人なのかと思うと、そうではない。逆に、高学歴で教養も高くて、知能も高い人が多い。だから、自分の信念が強いこともあり、陰謀論が正しいと思い込みやすい。ユニオンカレッジのジョシュア・ハート心理学准教授は、陰謀論を信じる人たちが特有のメンタルを持つと分析している。

 それはどのようなメンタリティーかというと、『スキゾタイピー』の気質を持つ傾向が強いとしている。スキゾタイピーというのは、統合失調症の傾向があるということであり、完全な統合失調症ではない。幻覚や幻聴はないものの、妄想や幻想にとらわれてしまうことが多いという。そして、インターネットの操作に長けていて、SNSやネットサーフィンを盛んにするから、そういう偽の情報を信じてしまうらしい。そして、厄介なことに情報発信をすることも多く、陰謀論を信じる人々とのネットワークがあるので、広まりやすい。

 スキゾタイピーのパーソナリティというのは、とても厄介である。前述したように、完全な統合失調症ではなくて、ごく普通に仕事をしているし、殆ど周りの人に気付かれることはない。しかし、生きづらさを抱えているし、独特の価値観を持つことから、特定の人との交友しか上手く行かないことが多い。普通の恋愛や結婚はしにくい傾向があるものの、一時的には上手く行くこともある。しかし、長続きせず破綻するケースも少なくない。婚姻関係は続いたとしても、仮面夫婦を演じている例が多い。

 陰謀論を信じる人たちは、スピ系にのめり込む傾向もある。スキゾタイピーの気質は、物事を表面的にありのままに見るよりも、裏の事情や隠された真実を掘り起こしたがる。不信感が異常に強く、他人を信じないばかりか、親族や家族さえも信じないことが少なくない。トランプ元大統領も不信感が強くて、不正選挙が実施されたとずっと主張している。不正選挙だということを信じた陰謀論者のQアノンが、米国議会を襲撃してしまい、大惨事になったのは記憶に新しい。一旦信じ込まされると、正論に耳を傾けなくなる。

 スキゾタイピーのパーソナリティを持つ人々は、精神疾患ではないので医療機関を訪れることは少ない。医学的な治療を受けることもないが、このスキゾタイピーの気質を改善するのは、極めて困難である。イスキアのクライアントにも、このスキゾタイピーの気質を持った人が何人かいたが、そのサポートは困難を極めた。なにしろ、不信感があまりにも強いので、信頼を得て心を開くことがないからである。独特の考え方をしているので、自説を曲げることがなく、一旦信じた理論を手放すことが出来ないのである。

 それでは、このスキゾタイピーの気質を何故持ってしまうのかというと、それは不安型の愛着スタイルを抱えているからだと思われる。HSP(神経学的過敏症)や弱いASD(自閉症スペクトラム症)の傾向もあることが多い。それ故に、陰謀論に嵌まってしまった人が、自分だけの努力だけで抜け出すことは難しい。カウンセリングやセラピーだけで陰謀論を乗り越えることは困難である。まずは、陰謀論を否定するだけでなく、陰謀論を信じる人の気持ちに寄り添うことが肝心である。例え間違っている考え方にも、まずは共感するのである。

 けっして否定することなく傾聴し、共感し続けて行けばいつかは信頼を寄せてくれる。人を信じることが出来るようになると、自然と耳を貸すようになるし、もしかして間違っているかもしれないと自らの過ちに気付き始める。そして、この間違っているドミナントストーリーに気付くと、この誤りの物語を潔く捨てることが出来るのである。音楽療法やボディーケアーを併用するとより効果が高い。そして、新たな正しい物語である『オルタナティブストーリー』を紡ぎ出せて、陰謀論を卒業できると思われる。このようなナラティブアプローチの効果が高い。陰謀論を捨てることが出来れば、生きづらさや不安からも解放されることだろう。

メンタル疾患は何故治りにくいのか

 メンタル疾患になってしまう人は、年々増加しているという。うつ病や双極性障害などの気分障害に陥ってしまう人も多いし、PTSDやパニック障害で苦しんでいる人も少なくない。そして、一旦メンタル疾患になってしまうと、非常に治りにくい。投薬治療の効果も限定的で、症状が少しは軽くなるものの完全治癒は期待できない。カウンセリングや各種セラピーも、その効果が出るまでに時間が掛かることが通例である。メンタル疾患は、何故治りにくいのであろうか。その理由が解れば治療効果の期待できる治療も可能になる筈だ。

 メンタル疾患に対する治療は、その疾患の確定診断をして、その診断に沿って効果の高い治療を選択する。どんな薬が合うのか、どんなセラピーが適切なのかを考慮して、治療を行う。そもそも、診断が間違っているというケースも少なくない。うつ病という診断を下されて長年に渡り投薬治療を受けていたのに、抗うつ剤がどうしても合わなくて、セカンドオピニオンに再診断を受けたら双極性障害だったという症例はいくらでもある。こういう症例の場合、抗うつ剤の投薬によって悪化してしまうケースが多い。これも治りにくい原因の一つだ。

 診断も間違っておらず、適切な治療を行ったとしても、治りにくい症例が多い。適切な投薬をしても、丁寧で心細やかなカウンセリングやセラピーを実施しても、思ったほど効果が出ないケースが少なくない。というよりも、どんなに手を尽くしても治療効果が出ないほうが多いし、完治しないことが殆どなのである。どうしてそんなことが起きるのかというと、自律神経が影響しているからである。自律神経のうち迷走神経が、治癒することを拒んでしまっているのだ。その事実を精神科医やセラピストが認識していないから、治りくいのだ。

 今までの自律神経理論の定説を覆すような斬新な理論であり、今までどうしても判明しにくかったメンタル疾患のシステムが、このポリヴェーガル理論を駆使すると、実に腑に落ちる。身体的な難治性疾患にもこのポリヴェーガル理論を当てはめると、どうして治りにくいのかが解るのだ。今までの自律神経の理論では、交感神経と副交感神経の二つがあって、相反する効果を発揮すると言われていた。ところが、副交感神経には二つがあり、自律神経は全部で三つあることが判明したのだ。

 副交感神経の殆どが迷走神経からなることが解っている。その迷走神経には、腹側迷走神経と背側迷走神経があり、全く違う働きをしてしまうことが解ったのである。交感神経は、いざという緊急事態が起きた際に、戦うかそれとも逃げるという選択肢を持ち、出来うる限り頑張るという働きをする。一方、副交感神経は平穏時というか安息時に働く。つまり、身体や精神を安静の状態にして、免疫力を向上させる働きをする。ところが、戦うことも出来ず逃げることも出来なくなった時に、働く迷走神経がある。それが背側迷走神経である。

 休息時に働くのは、腹側迷走神経である。一方、戦いも逃避も出来ない状況に追い込まれた動物は、背側迷走神経のスイッチが勝手に入ってしまい、シャットダウン(緊急遮断)を起こしてしまうのである。小動物は気絶をしてしまう。肉食動物は基本的に死んでいる動物は食べない。気絶した小動物は死んでいると判断され、猛獣から逃れることが出来る。人間も、それと同じようなことが起きる。戦いも逃避も出来なく、自分の力ではどうしようもない状況になるとシャットダウン(緊急遮断)を起こしてしまうのだ。それも無意識に。

 人間は、絶体絶命の状況に追い込まれると、自分が破滅しない為に、無意識下でメンタルのシャットダウンを起こす。つまり、うつ病、双極性障害、統合失調症、PTSD、パニック障害等のメンタル疾患に陥ってしまうのである。自分自身の生命を守る(自死を防ぐ)ため、最悪の破滅を守るため、やむを得ずにメンタル疾患を起こすのだ。一旦シャットダウンを起こした精神は、自力では復活しない。背側迷走神経が働いてシャットダウンが起きているから、医学的アプローチだけでは治りにくいのだ。ポリヴェーガル理論を駆使して治療する医師やセラピストなら、このシャットダウンを解いて、メンタル疾患を治せるかもしれない。

イスキアの活動方針を転換する決意

 令和5年の新春を迎えて、この新型コロナ感染症などの社会情勢と自分の年齢や環境を考えたときに、今までの活動方針をこのまま続けていくべきかどうかの岐路に立たされたような気がした。今までの活動方針は、ひきこもりや不登校の若者またはメンタルを病んで休職や退職に追い込まれてしまった社会人が社会復帰できるように、様々なサポートをしていくというものであった。しかし、この深刻な感染症は収束の兆しを見せないし、自分の年齢も68歳という高齢になり、今までのようなアクティブな活動が難しくなったのである。

 残された人生を考えた時に、全国の利用者の方々をお迎えしたり、全国各地に赴いたりして出張カウンセリングを続けることが、今の社会にとって一番効果的な活動なのかという疑問にぶつかったのである。それよりも、この社会にイノベーションを効果的に起こす方法が他にあるのではないかと考えついたのである。それは、佐藤初女さんのご遺志をこの社会に敷衍させるにはどうすれば良いかの答でもある。佐藤初女さんのファンは全国各地にいらっしゃる。そして、初女さんと同じような活動をしたいと望んでいるファンも多い。

 佐藤初女さんが心血を注いでいらした活動の輪を、日本全国に広めて行くことが自分の使命なのではないかという考えに落ち着いたのである。その為に、自分として何が出来るのかをこの年末年始にかけて熟慮していた。このイスキアの郷しらかわの活動をしてきて、自分ひとりだけで頑張ったとしても、救える人々は僅かしかいないということも思い知らされた。それよりも、これから森のイスキアと同じ活動をしようとする人たちの支援をして、第二第三の佐藤初女さんが育って行くことをサポートしたいと思ったのである。

 森のイスキアは、佐藤初女さんが亡くなってから休眠状態にある。森のイスキアの扉は閉じたままである。そして、全国においても森のイスキアと同じような活動をしている処は殆どない。あまりにも佐藤初女さんが偉大であったということもあるが、初女さんと同じような活動をするのは、それだけ非常に困難だと言えよう。自分も活動していて、初女さんと同じように心折れた方々を癒すのは、非常に難しいと実感している。自分の生活を殆ど犠牲にする覚悟がなければ、森のイスキアと同じように活動するは不可能だ。

 ましてや、メンタルや身体を病んだ方々は、藁をすがる思いで頼ってくる。依存することもありえるし、転移をしてしまうケースもある。佐藤初女さんは、365日24時間に渡り電話応対をしていらしたし、イスキアの扉はいつも開けていたと聞いている。生きるエネルギーを喪失してしまわれた方は、無意識で相手のエネルギーを奪い取ろうとしてしまう。中には、すぐに効果が出ないからと責める方もいらっしゃる。クライアントからも恨まれることもあるだろうし、自分の無力感を思い知ってサポート者自身が心身を病むことさえある。

 心身を病んだ方々を癒してさしあげるという尊い活動をされている人は、外から眺めている以上に心身を痛めつけられている。自分の活動が上手く行かないことが多いからである。短い期間で成果が出ることが少ない活動だからだ。勿論、癒しの活動が効果をあげて感謝された時の喜びは大きい。しかしながら、それは一時的なことが多いし、心身の病が再発することが少なくない。このような活動は長い期間と多大な労力を要する。気の遠くなるような長い時間をかけて寄り添い支えて行く活動が必要なのだ。

 森のイスキアのような活動を引き継ぐ、第二第三の佐藤初女さんが生まれてこないのは、その活動が想像以上にハードであり自分自身の犠牲が多大なものであるからと言える。自分の生活をすべて捨てるという覚悟がなければ、出来ない活動だと言っても過言ではない。マザーテレサのように、信仰がなければあのような活動は難しい。佐藤初女さんが、信仰を持っていたから出来たとも言える。これから佐藤初女さんのような活動を志す人を、信仰のように支える存在が必要だと思った。故に、イスキアの郷しらかわは、これから佐藤初女さんを目指す方々を支援することにしたのである。見学や研修したい方々を受け入れる準備をしたいと思う。

芸能人が心身のトラブルを抱える訳

 日本の芸能人だけでなく著名な世界のスターたちもまた、心身のトラブルを抱えているケースが少なくない。それも、身体と心の両方にトラブルを持っていることが多いのだ。日本の芸能人では、昔から心身のトラブルを抱えていても、あまりカミングアウトをすることがなかった。最近はあまり気にすることなく、心身のトラブルをカミングアウトして、療養のために休養する芸能人が増えた。世界的な大スターでも、レディーガガが線維筋痛症をカミングアウトしたし、ジャスティンビーバーがラムゼイ・ハント症候群という難病を公表した。

 ジャスティンビーバーは、この難病だけでなく鬱と薬物依存症だったと告白したし、レディーガガは摂食障害で苦しんだと伝えられている。日本の芸能人でも、線維筋痛症や原因不明の痛みやしびれを抱えている人も多いし、鬱や摂食障害、PTSDやパニック障害、薬物依存やアルコール依存で苦しんでいる例が多い。そして、それらの芸能人に共通しているのが親との関係に問題を抱えていて、中には毒親だったとカミングアウトするケースもあるということだ。自己肯定感が育ってなく、HSPを抱え不安や恐怖感を持つ芸能人が多い。

 どうして芸能人は心身のトラブルを抱えてしまうのかというと、根底に愛着障害を抱えているのではないかと思われる。親が才能ある子どもに大きな期待をして、過介入や過干渉を繰り返し、親の思うままに支配しコントロールをしているのであろう。勿論、親は意識してそんな毒親まがいの仕打ちをしている訳ではない。子どもが有名になり大スターになるように育てたいと強く思い過ぎるあまり、親はそんなふうに子どもを操ってしまうのだ。まるで自分の思いのままに踊るマリオネットのように子どもを扱うのだ。

 子ども時代に愛着障害になるように育てられた子どもは、大人になってもその障害を乗り越えることは難しい。強烈な生きづらさを抱えて生きるようになるし、不安や恐怖感から抜け出せない。このような芸能人は、おしなべて魅力的なのである。多くのファンを惹きつける芸やパフォーマンスを披露する。それは、天性の才能があるとも言えるからである。HSPという症状がそのような才能を開花させると考えられる。彼ら彼女らの何とも言えない素敵なパフォーマンスは、ファンの心の琴線を打ち震わせるのである。

 もしかすると、芸能人がたまたま愛着障害とHSPを抱えているのではなくて、愛着障害とHSPを根底に抱えているから芸能人として大成しているのではなかろうか。だから、多くの芸能人が心身のトラブルを抱えているのかもしれない。愛着障害とHSPを抱えるが故に、そのパフォーマンスが人々を惹きつけたとしても、彼らの心身のトラブルが深刻になってしまい、自死を選んでしまうことは避けてほしいものである。自らの命を縮めてしまった芸能人が何人もいるが、苦しい胸の裡を誰かに打ち明けていたら防げたと思うと残念だ。

 愛着障害を抱えて心身のトラブルを抱えた人が、その障害を癒せて心身のトラブルを乗り越える方法はないかというと、まったくない訳ではない。親が深く反省して、生まれ変わったように母性愛(無条件の愛)を注ぎ続けて、安全基地の役割を果たすことが出来たら、愛着障害は癒える。しかし、そこまで変われる親は皆無である。自分が我が子を愛着障害にしてしまったという認識がないからである。心身のトラブルに苦しむ当の本人も、愛着障害であるという認識がないのだから当然だ。もし、愛着障害であるという認識を持てたとしても、親が高齢になっていたら、乗り越えるのは極めて難しい。

 それでは親に期待できないとしたら、どんな癒しの方法が考えられるだろうか。親に代わって安全基地となれる存在がまず必要である。個人でも良いが、出来たらチームで安全基地になるのが好ましい。何故なら、個人だと依存され過ぎるし、異性だと転移が起きやすいからである。勿論、転移が起きても結婚できるなら良いが、なかなかそうは行かない。安定した愛着を持っている人なら安全基地になれるが、そういう人は極めて少ない。チャールズチャップリンが四度目の結婚をしたウーナ・オニールはそういう女性だった。それまでは私生活で不幸だったチャップリンは、彼女の献身的な愛により愛着障害を乗り越え、幸福な人生の幕開けを迎えられたのである。

※愛着障害とその二次的症状であるHSPやメンタル疾患、そして身体的な不調は、医療機関でも根治できないことが多いようです。何故なら、愛着障害が原因だと認識している医師やカウンセラーがいないからです。ひとつだけ愛着障害を癒せる方法があります。それは『オープンダイアローグ療法』というミラノ型の家族療法です。残念ながら、オープンダイアローグ療法を取り入れている医療機関は極めて少ないのです。イスキアの郷しらかわでは、オープンダイアローグ療法の方法をレクチャーしていますので、ご相談ください。

摂食障害を乗り越える方法

 摂食障害に苦しんでいる人たちは、想像以上に多いという事実を知らない人が多い。何故かと言うと、摂食障害だということを本人が隠しているケースが多いからである。摂食障害の子どもを抱えている親も、そのことを隠したがる傾向にあるし、医療機関の受診をさせない場合も多い。摂食障害を抱えている子ども自身も、医療機関に行きたがらないし、自分の苦しみを誰にも相談できないのである。一人で過食と嘔吐を繰り返す摂食障害の苦しみを抱え込むことが多い。中には、親にもひた隠しにしている子どもがいる。孤独感を抱えているのだ。

 たとえ、専門の医療機関を受診したとしても、治療が難しいこともあり、症状が改善することはまずない。そもそも摂食障害を起こしている子どもとその親は、摂食障害が深刻な病気であるという認識がないし、起きた原因を特定できていないのである。親たちも、子どもの摂食障害について相談したがらないし、相談されても適切な助言ができる相談機関も少ない。したがって、摂食障害の子どもと親は、この障害は治らないものだと諦めることが多い。子どもだけでなく、親も孤独感を抱えているのである。

 確かに、摂食障害は治りにくい。投薬治療も効果が見られないというか、そもそも投薬治療は適切ではない。カウンセリングやセラピーを受けたとしても、その効果は限定的である。障害を起こした本当の原因を特定できていないのだから、当然であろう。摂食障害の真の原因は、親子関係における問題にある。親子の愛着に問題を抱えているから、摂食障害が起きると言っても過言ではない。『愛着障害』こそが、摂食障害の本当の原因である。だから、摂食障害の子どもだけを治療しても改善しないのである。

 摂食障害が起きているのは、愛着障害に原因があるのだから、親子関係における歪んだ愛着を改善しなければ、摂食障害は治ることはないと言える。障害を起こした子どもの治療も必要だが、親に対する治療こそが求められる。愛着障害は、親の子どもに対する態度が根本的に変わらなければ、癒されない。したがって、親に対する適切なカウンセリングこそが必要なのである。ところが、摂食障害の原因が自分にあるのだということを、親は認識したがらない。ましてや、障害の原因が自分にあると言われたら、反発して聞く耳を持たない。

 摂食障害を起こしている子どもは、自分が愛着障害だということを知らないことが多い。そして、その親もまた子どもとの愛着に問題があるという認識がない。何故なら、愛情不足なんて絶対にないと思うくらいに、子どもに対して愛情を沢山注いできたという自信があるからである。愛情不足なんて絶対にないと思うほど、親たちが子どもに愛情をこれでもかという位に注ぎ続けているのは確かである。それは障害を起こしている親子に共通している事実である。しかし、親が子どもにかけている愛情こそが問題なのである。

 摂食障害を起こしている子どもに対して注がれてきた愛情は、父性愛的な愛情である。無条件の愛である母性愛は、絶対的に不足している。障害を起こしている子どもに注がれてきた愛情は、過介入や過干渉の愛である。それは、本当の愛ではない。偽りの愛情である。親が、無意識のうちに子どもを支配する為、かつ子どもをコントロールする為に注いでいる歪んだ愛である。本来は、親は子どもに対して『あるがままにまるごと愛する』という態度が必要である。そういう母性愛だけを3歳くらいまで注ぎ続けなければならない。それを怠ってきたから愛着障害が起きて、摂食障害という二次障害を起こしたのだ。

 何故、親はそんな間違った愛情を注いだのかというと、実は親もまた愛着障害だからである。だからこそ、親に対する治療が必要なのである。唯一、摂食障害を癒す治療法がある。その治療法とは、『オープンダイアローグ』である。ミラノ型の家族療法であるこのオープンダイアローグは、愛着障害を根本的に治すことが出来る。この療法は歪んでしまった愛着を、本来の豊かな愛着に変えてくれる。しかし残念ながら、このオープンダイアローグ療法を取り入れている医療機関は極めて少ない。精神科の医師やカウンセラーは、是非ともこのオープンダイアローグを学んで実践して、多くの摂食障害者を救ってほしいものである。

代理ミュンヒハウゼン症候群の原因

 代理ミュンヒハウゼン症候群という病気が、社会的にも認知されるようになってきた。小さな子どもが犠牲になってしまうことも多いので、センセーショナルに報道されることもあり、広く知られるようになった。とは言いながら、まだ知らない人も多く、子どもを診断した医師が代理ミュンヒハウゼン症候群だと診断できずに、尊い命が失われてしまったケースもある。担任教師、または行政や福祉の支援者が早く気付いてくれたなら、助かった子どもがいたのにという例もある。この病気に対して、適切な対応と支援が求められている。

 代理ミュンヒハウゼン症候群について、簡単に紹介しておきたい。ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患があり、関心や同情を惹くために自分で病気を装ったり、ケガを負ったりする疾病である。酷くなると、身体に悪いものを敢えて摂取したり毒を飲んだりする。ミュンヒハウゼン症候群は自分を病気にしたりわざとケガを負ったりするが、代理ミュンヒハウゼン症候群は、自分以外の誰かを犠牲にする。大抵のケースは、母親が我が子を病気にさせたりケガを負わせたりする。重症化させ過ぎてしまい、我が子の命を奪う例もみられる。

 ミュンヒハウゼン症候群にしても、代理ミュンヒハウゼン症候群であっても、周りの人々の関心や同情を得たいというのは、心理学的に考察すると、自己肯定感が非常に低いということが考えられる。そして、愛情不足も深刻なレベルだと言える。満たされない思いを抱えているのであろう。そして、強烈な生きづらさを抱えているのは間違いない。孤独感が強くて、見離されることに対する不安感、見捨てられるのではという恐怖が強いのではなかろうか。だから常に周りから注目されたいし、愛されたいと思うのであろう。

 代理ミュンヒハウゼン症候群を抱えている人は、強い不安感や恐怖感を抱えていることが多い。何故かというと、乳幼児期に無条件の愛である母性愛を充分に与えられなかったからだと思われる。したがって、代理ミュンヒハウゼン症候群の人は、『愛着障害』だと言える。そのうち特に重症の方は、小さい頃に親から虐待やネグレクトを受けたり見捨てられたりした体験をしていることが多い。故に、強い愛着障害を抱えてしまったのであろう。愛着障害だからこそ、愛に飢えていて孤独感にさいなまれているのである。

 代理ミュンヒハウゼン症候群は、治療が困難だと言われている。投薬治療、カウンセリングやセラピーを受けても、症状が改善しにくい。児童福祉施設職員が、代理ミュンヒハウゼン症候群の保護者に対して、様々な支援や指導をしたとしても改善する見込みは殆どない。何故なら、深刻な愛着障害を抱えている人は、その愛着障害が癒えることが期待できないからである。それだけ深刻な愛着障害は、治りにくいものなのである。愛着障害が根底にあるから、代理ミュンヒハウゼン症候群が治ることが期待できないのである。

 とは言いながら、難治性の代理ミュンヒハウゼン症候群が絶対に治らないのかと言うと、そうではない。治りにくいのは、根底に愛着障害があるということを当人と治療者が共通の認識を持っていないからである。疾病を抱えた当人が、病識とその原因が愛着障害にあるんだということを深く認識しなければならない。そして、この病気に陥ってしまった責任は、自分にはまったくないのだということを認識させることから始まる。当人に対して代理ミュンヒハウゼン症候群であると告知しても、なかなか受け入れてもらえないかもしれない。

 治療者と要支援者の強い信頼関係が必要だと思われる。そして、根気強く要支援者に対して、適切な愛着アプローチを実施することが肝要である。乳幼児期に受けた不適切な育てられ方により負ってしまった愛着障害は、粘り強く愛情を込めて愛着アプローチをしなければ、寛解には向かわない。要支援者は見離されるのではないかという疑心暗鬼から、これでもかという『試し行動』を何度も試みる。それでも支援者はけっして揺るがない愛を注がなければならない。そうすれば、時間は掛かるけれど愛着障害は癒され、代理ミュンヒハウゼン症候群の症状も和らぐことだろう。

現代人が睡眠障害を起こす本当の訳

 何らかの仕事に就いている人に、睡眠に何かトラブルを抱えているかというアンケートを実施したところ、80%以上の方が「はい」という回答をしたとの驚くような結果が出たという。一番多い睡眠トラブルは、途中覚醒だとのこと。一度目覚めると寝付けない人が多いらしい。または、なかなか寝付けないとか眠りが浅くて、翌日に熟睡感を持って目覚めることができないという。職場で、またはプライベートでの人間関係のストレスが多いし、仕事のプレッシャーがのしかかっている影響があるようだ。

 現代人の睡眠の質が低下しているというのは間違いがないようである。現代の仕事は、パソコンやスマホなどのIT機器なしでは完遂できない。IT機器を自由自在に使いこなすことが出来ればいいが、どちらかというとIT機器に振り回されているという実感を持つ人が多いだろう。パソコン・スマホ・TVの画面にはブルーLID照明が使用されているので、視神経が異常に刺激されて、脳が興奮状態に陥り睡眠障害が起きているとも言われている。または、腸内環境を悪化させる食習慣や生活習慣の劣化が睡眠障害を誘発しているらしい。

 それにしても、日本のビジネスパーソンの8割以上の人が睡眠障害を抱えているというのは、考えられない事態である。いくらIT機器による影響やストレス社会だとしても、さらには食習慣を含めた成果習慣に問題を抱えていたとしても、こんなにも睡眠障害を起こしている人が多いというのは異常であろう。そう言えば、睡眠改善のグッズ(マット・枕等)やサプリメントの売り上げは年々増加の一途だそうである。現代日本は不眠社会と言っても過言ではないみたいである。こんなにも睡眠障害に喘ぐ国家も珍しいであろう。

 不眠は、メンタルの不調に発展しやすい。うつ病などの気分障害は、不眠から始まることが多いのである。うつ病を抱えている人の殆どが深刻な睡眠障害を起こしていると言っても過言ではない。睡眠障害は、昼間の活動を著しく阻害するので、労働生産率の低下につながる。昼間の眠気によって、労働災害や交通事故を起こしかねない。強烈な眠気があると、集中力を発揮できないし、想像力や発想力・企画力にも影響するに違いない。仕事のうえで、ミスや忘却を繰り返す人は、もしかすると睡眠障害を抱えているせいかもしれない。

 医師やセラピスト・カウンセラーの殆どが、睡眠障害はストレスが主な原因だと主張することだろう。食習慣・生活習慣の劣化や運動不足、日光浴不足を指摘する専門家も少なくない。確かに、それらが睡眠障害の原因だと言えるだろう。しかし、本当に睡眠障害の原因はこれだけなのであろうか。もっと違う根本的な睡眠障害の原因が他にないだろうか。睡眠障害を起こしている人に共通しているのは、大きな不安や恐怖感をいつも抱えているという点である。それも、得体の知れない不安を抱えている人が多いのである。得体の知れない不安と言うのは、解決できないから始末に悪い。

 現代日本は『不安の時代』だと言われて久しい。何故に、こんなにも得体の知れない不安を抱えている人が多いのかというと、絶対的な自己肯定感が育っていないからである。自己否定感が強くて、いつも自分自身を責めてしまう人が多い。自己否定感が強いから、依存性や回避性のパーソナリティを抱えているし、PTSDやパニック障害を起こしやすい。オキシトシンという安心物質である、脳内ホルモンが極端に少ないことが解っている。オキシトシンは、愛情ホルモンとも呼ばれていて、このホルモンが欠落している人は、愛に飢えていることが多い。

 オキシトシンという脳内ホルモンが極端に少なくて、自己否定感が強くて不安や恐怖感を常時抱えている人というのは、HSP(ハイリィセンシティブパーソン)の特徴である。神経学的過敏と心理社会学的過敏を抱えている人である。このHSPは、『愛着障害』が根底にある為に起きやすい。あくまでも仮説ではあるが、睡眠障害を起こす人は『愛着障害』を抱えているのではなかろうか。そして、この愛着障害によって背側迷走神経が遮断(シャットダウン)を起こしてしまい、難治性の睡眠障害を起こしていると思われる。だから、投薬とか、セラピーやカウンセリングをいくらやっても治らないのだ。愛着障害を癒してあげないと、睡眠障害は治らないであろう。

抜け出すのが難しいオーバードーズ

 オーバードーズで昏睡に陥った女性を放置して死に至らしめたとして、医師たち男性3人が逮捕されたというショックなニュースが報道された。市販薬の咳止めを多量に飲むと、ハイな気分を味わえると、SNSで知り合って共同で使用していたらしい。市販薬に限らず、処方された睡眠剤や咳止め薬をオーバードーズしてしまうケースも少なくない。薬物依存の一種と言える、このような危険な行為は身体を徐々に蝕んでしまうだけでなく、精神をも破滅させてしまう。また、オーバードーズによりショック死してしまうケースも多い。

 そんな危険なオーバードーズを何故止められないのだろうか。それは、薬物にすっかり依存しているからである。薬物の過剰使用をしている時に感じる快感やハイな気分を一度でも味わってしまうと、抜け出せなくなってしまうのであろう。薬物の過剰飲用というのは、昔から存在していたが、このオーバードーズという言い方が軽く感じてしまい、ついつい習慣化してしまうのかもしれない。命の危険が伴うオーバードーズに陥ってしまう原因、そしてその状態から抜け出そうとしても抜け出せないのはどうしてなのであろうか。

 オーバードーズは薬物依存であると前述したが、まさしく深刻な依存症に陥っているのは間違いない。快楽や麻痺をもたらす脳内ホルモン、または脳内ホルモンと同じような薬理効果を起こす物質が放出されて、一時的な現実逃避ができるのであろう。それだけ、強い生きづらさや生き苦しさに追い込まれているのではなかろうか。薬物依存を起こしてしまう青少年は、押しなべて強烈な生きづらさを抱えている。その生きづらさは、不安感や恐怖感に起因しているし、強烈な自己否定感と強いHSPを持っていることが多い。

 自己否定感が強いというのは、子育ての間違いによる悪影響と言っても過言ではない。学校教育や社員教育の影響が強いと思っている人が多いかもしれないが、三つ子の魂百までもと言われているように、三歳の頃までの子育てによって自己肯定感を持つかどうかが決まる。乳幼児期まで、まるごとあるがままに愛されて育てられると、絶対的な自己肯定感が作られる。また、無条件の愛である母性愛をたっぷりと注がれることで、オキシトシンホルモンが分泌されるので、愛着障害にはならないし、HSPにもならない。

 親から支配され制御され育てられ、愛着障害を根底に抱えるとHSPになり、不安や恐怖感をいつも感じることになる。それ故に強烈な生きづらさを抱えてしまうし、何かに依存しないと生きていけなくなる。オキシトシンホルモンが不足している状況から、愛情不足と不安をいつも感じることになる。それ故に、薬物依存を起こしやすくなるのである。快楽や癒しを求めるあまりに、それを手軽に感じさせてくれる薬物に依存してしまい、もっと快楽や安心、またはやすらぎを求めて薬物のオーバードーズを起こしてしまうに違いない。

 薬物のオーバードーズを医学的に治療することは、非常に難しい。入院させて医学的に管理した状況に置けば、オーバードーズを抑えることは可能だ。しかし、退院すると再びオーバードーズを起こすことが多い。オーバードーズによって入退院を何度も繰り返すことは、想像以上に多い。それだけオーバードーズに対して医療は無力であるとも言える。それでは、薬物依存によるオーバードーズは、絶対に治らないのかというとそうではない。適切な愛着アプローチとオープンダイアローグ療法によって劇的に治るケースが少なくない。

 しかし、残念ながらこの愛着アプローチとオープンダイアローグ療法でケアしてくれる医療機関は殆ど存在しない。それだけ難しい療法であるとも言えよう。適切な愛着アプローチによって愛着障害を癒せるカウンセラーやセラピストは、あまり存在しない。ましてや、オープンダイアローグ療法ができる医療機関は非常に少ない。それだけ、難しいし時間がかかる。ましてや、オーバードーズを治療してくれる医療機関が少ないのである。精神科の医療機関では、オーバードーズの治療に対して消極的になることが多いからである。オーバードーズの真の原因を知ろうともしないのだから、当然であろう。