メンタルを病むのは自分のせいでない

 人間、誰しもメンタルを病んでしまったという経験を持つことだろう。勿論、一度もメンタルを病んだことがないという人も居ない訳ではないが、ごく少数に違いない。それだけ、現代日本のような職場環境や家庭環境では、精神的な病気に追い込まれても仕方ないということだろう。メンタルを病んでしまうのは、周りの環境のせいだから仕方ないと思う一方で、やはり自分の性格や気質がメンタルを病んでしまう要因だと思う人が殆どであろう。そして、そんな自分が嫌いになり、自分自身を責めてしまうことが多い。

 しかし、メンタルを病んでしまうのは、自分のせいではないのである。科学的に考察しても、医学的に検証したとしても、自分自身が原因でメンタルの疾患になることはない。メンタルを病んでしまう原因は、自分には100%ないと言い切れるのである。何故なら、メンタルを病んでしまうのは、育てられ方に起因しているからである。間違った家庭教育や学校教育に、その原因があるのだ。勿論、間違った価値観に支配されている現代社会にも原因がある。間違った教育と社会の価値観によって、大量のメンタル患者が産みだされているのだ。

 間違った教育というのは、どういうことかと言うと、まずは家庭教育から紐解いてみたい。三つ子の魂百までもという諺をご存知だろう。3歳頃までの子育てで、その後の人生が決まってしまうと言っても過言ではない。昔の人々は、3歳までの子育てによって、その子どもの人格が形成されてしまうということを経験的に学んでいたのである。子育ての基本は、まずは豊かな母性愛だけを注いで育て、それから父性愛を用いて躾けるのである。この順序を間違うととんでもないことになる。父性愛と母性愛の同時進行も良くないのである。

 生まれたての赤ん坊は純粋無垢の存在である。その赤ちゃんを育てる際に、過保護に育ててしまうと、依存心が生まれて自立を阻んでしまうと今でも勘違いしている親がいる。世間の人々も、過保護は良くないと未だに思っている人がいるのは残念である。過保護はまったく問題ない。ただし、過干渉や過介入は良くない。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすという諺があるが、あれはまったくの出鱈目である。ライオンの母親は、我が子を過保護にして育てる。殆どの動物の親も同様で、十分に自立できるまでは過保護である。

 本来、人間もそういう育て方をすべきなのである。おそらく、縄文時代は子どもを過保護で育てたに違いない。だからこそ、一万数千年もの間に渡り、争いのない平和な社会を築けたし、お互いが支え合う高福祉の社会を構築できたのだ。乳幼児期においては、無条件の愛である母性愛をたっぷりと注いであげなければならない。我が子をあるがままにまるごと愛することだ。そして、子ども自身が自分は親から愛されていて守ってあげられているという実感を子どもに与え、子どもの不安を完全に払拭しなければならない。安全基地が存在するということが大切なのである。

 ところが、親があまりにも過介入と過干渉を繰り返して子育てをすると、子どもの自己組織化が阻害され、絶対的な自己肯定感が育たないばかりか、愛着障害を抱えてしまう。こうなると、やがてメンタルを病んでしまうばかりか、不登校やひきこもりをも起こしてしまうことにもなる。さらに、学校でも過介入と過干渉の教育を繰り返すから、主体性や自主性を失ってしまうのだ。これでは自己肯定感なんて育つ訳がない。家庭教育と学校教育の誤謬が、メンタルを病んでしまう人を大量に作り出しているという構図になる。

 そして、社会に出て職員教育や指導を受ける場合も、自己組織化を阻害するような過干渉が行われる。企業や組織において、間違った人材育成が蔓延っている。もっといけないのは、間違った価値観に支配されている社会になっていることである。自分さえ良ければいいとか、自分の利害や損得を基準にした行動規範になっている。本来は、全体最適(全体幸福)の価値観を基準して行動すべきなのに、個別最適を重視する価値観になっている。人を蹴落としてでも自分が出世したり昇給したりすることが正しいと思い込まされている。これでは、メンタルを病むのも仕方ない。つまり、メンタルを病んでしまうのは、自分のせいではないのである。

メンヘラを好きになってしまう訳

 メンヘラという言葉をご存知だろうか。中高年の方たちには馴染みがないかもしれないが、ネットの世界では若い人たちを中心に使われている。メンタルヘルスから転じて、メンタルを病んでいる人という意味に発展しているという。ただし、重症のメンタル疾患という意味ではなくて、軽症というか少し変わった性格で生きづらさを抱えている人という意味で使われているらしい。当初はメンヘラ女子というように女性を中心に用いられていたようだ。自分のことをメンヘラだとカミングアウトする人も多い。

 そんなメンヘラ女子を好きになってしまう男も多いし、メンヘラ男子を何故か好きになってしまう女子も少なくないという。ということは、メンヘラは魅力的なパーソナリティを持っているのだろうか。本来、メンヘラとは付き合いにくいと思われるが、好意を抱いてしまうというのは特別な意味があるに違いない。メンヘラになってしまう原因を考察すれば、メンヘラが好きになってしまう訳も解るのではなかろうか。メンヘラとは、どういうパーソナリティを持った人かというと、端的に言うと『パーソナリティ障害』的な人だと言える。

 依存性、回避性、演技性、妄想性、自己愛性などのパーソナリティ障害のような人格を持つのが、メンヘラの特徴とも考えられる。そして、より深刻な境界性のパーソナリティ障害の性格を持つメンヘラも存在する。このような人たちは、自分では強烈な生きづらさを持っているし、他人との良好な関係性を構築することが苦手である。とは言いながら、こういう人たちはパーソナリティ障害というハンディキャップをバネにして、各界で活躍する人も少数だが輩出している。そして、ある意味もの凄く魅力的でもあるのだ。

 また、このように生きづらさを抱えたメンヘラだからこそ、支援してあげたいという人もいる。そして、その支援がお互いの恋愛感情に変化していくことも少なくない。かくして、メンヘラを好きになってしまう人は出てくるのである。ところが、付き合ってみると大変な状況に追い込まれてしまうことが多い。依存性があるので、交際相手に依存してしまうし、アルコールやギャンブルに依存してしまうことも多い。ゲームにもはまり込みやすい。中には、セックスに依存したり薬物に手を出したりするメンヘラもいる。

 元々、愛情不足によりパーソナリティ障害の人格を持ってしまったのだから、愛に飢えている。それも、限りなく貪欲に相手の愛を追い求める。それも、相手の愛を確かなものかどうかを常時確認したがる。だからこそ、自分を見捨てないかと相手の愛を試すのだ。見捨てられ不安が強いからこそ、捨てられることがないかどうか、無意識で相手の愛を試すのである。試される人の気持ちとしては、たまったものではない。メンヘラが自分に対して嫌がらせをしているとしか思えない。当然、そんな振り回される日々は嫌だから別れることになる。

 メンヘラどうしがお互いを求めるというケースもある。これは共依存の関係を築いてしまうので、その事実に気付かなければ、家庭を持ち子どもを産み育てることになる。しかし、残念ながらその関係が長続きする訳がない。やがて、家庭崩壊を招いてしまうのである。メンヘラになるのはパーソナリティ障害の人格を持つが故なのだが、その根底には『愛着障害』が隠されている。お互いに『安全基地』を求めて一緒になるのだが、愛着障害を持つ人は、基本的に安全基地にはなれないのだ。安全基地ではなかったと悟ると同時に別れる。

 このようにメンヘラは魅力的であるし、何とか自分の力でメンヘラを乗り越えさせたいという思いから好きになってしまうことが多い。しかし、余程の人でないと相手のメンヘラを卒業させることは出来ない。もし、愛着障害を乗り越えて、絶対的な自己肯定感を持ち、自己人格の確立を成し遂げた人であれば、メンヘラを卒業させることが出来得る。そういう人はごく少数だが、存在しない訳ではない。そういう人は、既に安定したパートナーとの暮らしをしているから、恋愛としての対象にはならないかもしれない。いずれにしても、付き合う時には、自分と相手のパーソナリティを把握して、安易な相手を選ばないことだ。

陰謀論者たちを洗脳から目覚めさせるには

 自分たちだけが真実に目覚めていると思い込み、とんでもないフェイクニュースを拡散し続ける陰謀論者たちには困ったものである。Qアノンという怪しい人物が作ったフェイク情報に踊らされている。それも巧妙に加工された写真や動画を信じ込ませられているから、非常にやっかいである。人間と言うものは、印刷された文章、写真、動画は真実だと思い込みやすい。最近は手の込んだデジタル処理の細工がされているから、信じてしまうのも無理はない。DSとかいう組織が本当にあると信じ込まされている。洗脳されているのである。

 人間は一度洗脳されてしまうと、その洗脳から離脱することは難しい。オウム真理教に洗脳された若い信者たちが、騙されて重大犯罪に関わってしまった事件は悲惨であった。今でも洗脳から解けずに苦しんでいる人は多いし、最近はさらに洗脳されている人が増えている。一旦洗脳されてしまった人間は、認知的バイアスがかかってしまうから、正しい情報を伝えても聞こうとしない。妄想性の障害を起こしてしまっているのである。フェイクニュースを真実だと思い込むのは、洗脳のせいであるから救いようがないのである。

 洗脳された陰謀論者たちは、9.11事件は自作自演だとか、3.11の東日本大震災が人工地震によるものだとか、日本各地の豪雨被害は気象操作によるものだという、まことしやかなフェイク情報を拡散し続けている。科学的な根拠もないし、現代の科学では人工的に操作するなんて不可能である。冷静に考えれば、誰だってフェイクだと気付く筈である。一旦陰謀論に騙されてしまった人間は、メンタルモデルのせいで自分の力だけで覚醒することは難しい。メンタルモデルが一度歪んでしまうと、正常な判断能力を喪失してしまうからだ。

 どうして人間は洗脳されてしまうのであろうか。オウム真理教の際にもそうだったように、騙されてしまうのは、けっして愚かな人間ではない。学歴も高いし教養がある人間が洗脳されてしまうのである。自分はしっかりしているから騙されないし、科学的な見識が高いと自負している。普段から慎重であり、何事にも疑い深い。そういう人こそが騙されやすいのである。客観的合理性が強くて、分析力が高い人ほど騙される。SNSで盛んに情報を収集したり発信したりする、情報に敏感な人こそが洗脳されるのである。

 高い教養と学歴を持ち、客観的合理性を持った見識の高い人なのに、何故騙されて洗脳されてしまうのかというと、根底に愛着障害を抱えているからである。誤った情報に惑わされて洗脳されてしまう人は、いつも不安と恐怖感を抱えている人である。そして、傷つきやすいHSP(神経学的過敏)を起こしている。したがって、家族やパートナーからの豊かな愛情を認識しづらくなっている。愛に飢えていると言っても過言ではない。まるごと愛してくれて、守ってくれる存在がないのである。それ故に、強烈な生きづらさを抱えてしまっている。

 強い生きづらさを抱えていて、いつも不安や恐怖感を抱えているので、人や社会を信じられなくなっているのである。それ故に、権力者や経済的優位者が何らかの陰謀を企んでいて、庶民を騙しているという情報に飛びついてしまうのだ。自分を心から信頼できている人は、不信感を持たない。ところが、自己肯定感が低くて自分を信じられない人ほど、不安感を煽られて、フェイクニュースを信じ切ってしまうのである。このような洗脳に陥ってしまった人を救うには、根底にある愛着障害を癒すしか、他に方法がないのである。

 大人になってから愛着障害を癒すというのは、非常に困難である。何故なら、愛着障害は親からの無条件の愛である母性愛が不足して起きたからか、もしくは親が過干渉や過介入したから発症したのである。親が劇的に変わらなければ、愛着障害は癒せない。しかし、頑固な親であるとか、親が高齢者になってしまった場合は、それも適わない。そういったケースでは、愛着障害を癒すのは絶対不可能かというと、けっしてそうではない。親以上に温かい愛情を十分に注いでくれて、絶対的な安全基地になってあげる存在があれば、愛着障害は癒されるであろう。そうすれば、陰謀論の洗脳から解けるに違いない。

愛着障害の指導者に国を任せる危険性

 幼児期において、養育者から豊かな愛情を受けられずに育てられると、やがて深刻な愛着障害になりやすい。特に、無条件の愛である母性愛を十分に注がれないと、愛着障害で苦しむことになる。大人になっても強烈な自己否定感を抱えて生きるのであるが、自分に自信を無くしてしまい、強烈な不安感の故に社会不適応を起こして、不登校やひきこもりに陥ってしまう。ところが、中にはこの愛着障害による二次的症状として、強烈な自己愛のパーソナリティ障害を起こしてしまい、超攻撃的人格を持つ人間が生まれてしまうことがある。

 同じ愛着障害でも、この超攻撃的な自己愛性のパーソナリティ障害を持つ人間は、権力欲が非常に強いうえに、能力もある程度高いので、組織の中で頭角を現して昇り詰めることが多い。競争相手を巧妙に蹴落とすスキルも高いし、上に媚びへつらい忠誠を誓うので、上司から引き立てられるので出世が早い。職場においては、巧妙なパワハラやモラハラで、部下を潰してしまうことが多い。政治の世界では、忠誠心が強いのでトップから可愛がられ、競争相手を蹴落とす権謀術策に長けているから、トップに昇り詰めるケースが多い。

 愛着障害からの自己愛性のパーソナリティ障害を持つ政治家として一番有名なのは、かのアドルフ・ヒットラーである。彼は強烈な攻撃的な性格の持ち主で、競争相手を粛清して独裁者となった。とても強い性格であったと思われているが、実は小心者であったのではないかと言われている。本当は、不安感と恐怖感がいつも自分を支配していて、強い自己否定感を抱えていたと思われる。不安感と恐怖感が強くて、妄想性の障害をも抱えていたのではないかと見られている。強い愛着障害があったからこその症状であろう。

 アドルフ・ヒットラーは独裁者となってからも、自分の地位や名誉が奪われてしまうのではないかと常時恐れていた。だからこそ、自分に対する批判や非難を怖れ、極端な情報統制をしたのであろう。自己否定感が強くて不安・恐怖感が強いからこそ、その反動で自分が特別で万能であると思ってしまうのであろう。だから、マスコミが自分を非難・批判するのを許せないのだ。マスコミを統制する政策を実施する指導者は、おしなべて自己否定感が強い愛着障害と自己愛性のパーソナリティ障害を抱えていると言っても過言ではないだろう。

 過去の著名な為政者でも、同じような情報統制の政策を実施した人物が多数存在した。そして、現代の国のリーダーの中にも、同じ障害を抱えている人物は枚挙に暇がない。アジアにおいては、K氏やS氏も同様であるし、米国で圧倒的な支持者がいるT氏も同じだ。T氏は極端なマスコミ嫌いで、大きな圧力をかけていた。そして、今世界中で困惑している指導者P氏もまた、愛着障害と自己愛性パーソナリティ障害を抱えているのは間違いない。彼は、妄想性のパーソナリティ障害も抱えているので、非常に危険な人物だと言えよう。

 K氏やS氏は、普通選挙によって投票された訳ではないので、国民(選挙民)に選んだ責任はない。しかし、T氏やP氏を選んだのは国民である。強いリーダーシップを発揮して、強い自国を造ってくれる人物を選びたくなるのは仕方ないかもしれない。アドルフ・ヒットラーは演説の名手であったという。短い解りやすい言葉で、国民を熱狂させた。強くて大きなドイツを造ろうと演説して、多くの熱狂的支持者を得た。米国のT氏も、かつての強大な米国に戻すという演説で、熱狂的な支持者を得ている。P氏もまた同様である。

 日本でも、つい最近までマスコミに圧力をかけて、自分を批判する経営幹部やキャスターを追い落としたリーダーがいた。その彼もまた、強い愛着障害を持っていた。こんな指導者を選ぶ危うさを認識すべきであろう。P氏、T氏は、確かに優秀な政治家に見えなくもない。しかし、上手く行っている時は問題ないが、自分が人々から見離されられてしまったら、とんでもない行動をしかねない。実際に見捨てられてしまったら、自虐的・破滅的行動を取るだろう。自分だけが破滅するならいいが、こういう人間は善良な人々までも巻き込み国を滅ぼすこともする。そんなP氏が核のスイッチを握っているというのは、恐ろしいことである。

双極性障害とPTSDを乗り越える

 リトルグリーモンスターの芹那さんが、双極性障害とPTSDにより長期休暇をすると報道されたこともあり、双極性障害とPTSDという精神疾患に注目が集まっている。どんな疾病かと言うのは、ネットを調べれば解ると思うが、治療が非常に難しい難治性の疾患であるのは間違いない。投薬治療やカウンセリング・各種セラピーにより、症状は幾分か和らぐケースもあるが、完治するのは難しい。原因はストレスによるものではないかというのは解っているが、はっきりした発症メカニズムは解明されていない。

 リトグリの芹那さんは、ご自分でADHDであるともカミングアウトされているが、ASD(自閉症スペクトラム障害)と双極性障害が併発することも少なくない。ASDが根底にあると、双極性障害を発症しやすいということかもしれない。また、ASDと双極性障害があると、PTSDになりやすいと言うこともあり得るだろう。芸能界、特に人気があることを常に要求され、多大なプレッシャーに押しつぶされそうになる場所に長くいると、メンタルがやられてしまうのも当然かもしれない。

 双極性障害が何故起きてしまうのかということだが、過度のストレスやプレッシャーによる影響であろうとは思うが、同じような過度のストレスやプレッシャーにさらされても発症しない人もいる。つまり、個人差があるということになる。それでは、どういう人が発症するのかということが解ると、予防することも可能になるし、症状を和らげる方法だって解るかもしれない。ASD、双極性障害、PTSDがあるようなクライアントを今まで多数サポートした経験から判断すると、愛着障害が根底にあるような気がしてならない。

 愛着障害と言っても、重症の人もいれば軽度の人もいる。虐待やネグレクトをされた子どもだけでなく、一見するとごく普通に育てられたように見える家庭の子どもだって愛着障害になることもある。今まで多くの不登校やひきこもりの方々を支援させてもらって見えてきたのは、日本人の大多数の人が愛着障害であるという事実である。その愛着障害ゆえに強烈な生きづらさを抱え、メンタルを病んでいる人が多いのである。そして、愛着障害が根底にあって、二次的症状としてASDが現われ、メンタル疾患を発症しているのだ。

 日本人の半数以上が愛着障害であると言っても過言ではない。おそらく日本人の中で、生きづらさを感じている人は、半数以上を数えることであろう。そして、その生きづらさは愛着障害によるものだと言っても間違いない。気分障害のメンタル疾患を発症した方々をいくら治療しても治りにくいのは、根底に愛着障害があるからだと言える。愛着障害が癒されない限り、どんな治療を施しても完治することはないと断言できる。そして、双極性障害とPTSDも愛着障害を癒してあげなければ、完治することはないであろう。

 ということは、難治性の疾患である双極性障害やPTSDだって、愛着障害を癒してあげれば、その辛い症状が和らぐし社会復帰だって可能になるということである。とは言いながら、愛着障害だって癒すのは容易でない。なにしろ、愛着障害が起きてしまうのは、親からの三歳頃までの養育の偏りによるものだ。絶対的な自尊感情は、幼少期に育まれる。一度確立されてしまった自己否定感は、容易には払拭できず、不安感や恐怖感はぬぐい切れないのである。ましてや、愛着障害によって大変な経験を積み重ねて、ポリヴェーガル理論における迷走神経の遮断が起きているから、愛着障害を癒すのは難しい。

 親が劇的に変われば、愛着障害が癒されることもある。しかし、親が変わるのはあり得ないから期待できない。親に代わって、いかなる時でもありのままにまるごと愛してくれて守ってくれる存在があれば、愛着障害は癒される。しかし、パートナーにその役割を果たしてもらうことは期待できそうもない。とすれば、臨時の安全基地としての機能を果たしてくれる支援者がいれば、愛着障害が癒されるかもしれない。そして、精神面のケアーだけでなく、身体的なケアーであるボディーワークもしてくれるセラピストであれば、さらに癒される確率は高くなるに違いない。迷走神経の遮断も止められる。そうすれば、双極性障害やPTSDも寛解すると思われる。

PMDDやPMSを癒すには

 月経がある女性の約7割から8割にPMS(月経前症候群)の症状があるという。また、PMSの症状により仕事や家事に何らかの影響を及ぼしていると答えた女性は、5割にも上ることが解った。そんなにも深刻な症状を起こすPMSであるが、PMSという病気があることを知らない女性が多いらしい。そして、PMSという病気があるということを知っている男性は、専門医など医療職を除外すると、殆どいないと言う。結婚した女性のうち、PMSの症状が強い人ほど、夫婦喧嘩をしやすいというから深刻である。

 PMSの症状があるのは、月経がある女性の約8割にもなるというのは衝撃的であるが、そのうちの何割かの女性は、より重症のPMDD(月経前不快気分障害)で苦しんでいるという。イライラ、気分の落ち込み、不安、怒りっぽくなる等の深刻な症状が起きるのがPMDDである。これらの精神的な症状によって、仕事が手につかなくなったり、子育てや家事が出なくなったりする。さらには、人間関係を損なったり、仕事を辞めざるを得なくなったりもする。なにしろ、あまりにも不安感が強いからひきこもりたくなってしまうのである。

 こんなにも深刻な影響を与えるPMSとPMDDを何とかしないと、人生が破綻しかねなくなってしまう。それぐらいPMDDというのは、当人にとって深刻なのだ。医療機関で受診して、PMDDを治療しようと思ったとしても、快癒することはあまり期待できない。なにしろ、PMDDという疾病を理解しているドクターが少ないし、ましてやPMSとPMDDの専門医がごく僅かしかいないのである。せめてうつ症状に対する抗うつ剤の投与かピル剤を処方するしか方法がない。そもそも、本当の原因さえ知らないのである。

 PMSやPMDDは、概ね月経の14日前から症状が起き始めて、生理開始後3日目くらいまで続くことが多い。ということは、半月くらい症状が続くと言うことである。つまり、月経が始まって閉経するまでの約40年以上、人生の約半分という長い期間を憂鬱な気分で過ごすということになる。そういう辛さを知っている男性は皆無であろう。最新の医学研究によると、単なるホルモンによる心身の異常ではなくて、脳や神経系統の異常があるということも解ってきている。そして、どうやら迷走神経も関係しているらしいのである。

 PMDDの症状であるうつ気分や希死念慮、そして強烈な不安と自己否定感ということを考慮すると、女性ホルモンの影響によるものだけとは考えにくい。脳の機能異常や神経系統の異常もあるということは、根底に愛着障害があって、その影響で背側迷走神経が活性化してしまい、自律神経の破綻が起きているとしか思えない。つまり、背側迷走神経が暴走を起こしてしまい、シャットダウン化が起きていると見るべきであろう。したがって、治療が難しいし、完治することが期待できないと思われる。

 という発症プロセスだということが解れば、PMSやPMDDの症状を癒すことも可能だということになる。愛着障害を和らげて、背側迷走神経の活性化であるシャットダウンを解いてあげれば、PMSやPMDDの症状も和らぐであろう。そして、月経前の不快気分もなくなるに違いないし、身体症状も和らいで行くに違いない。そうすれば、ライフスタイルも大きく変化するだろうし、今まではできなかったことにもチャレンジできるだろう。今までの白黒フィルムのような世界から、総天然色のような世界に飛び込む気分になるだろう。

 愛着障害は、優秀なカウンセラーやセラピストに適切な愛着アプローチを受けることが出来たなら、徐々に愛着障害を癒すことが可能だ。そして、背側迷走神経の活性化によるシャットダウンを停止させて、腹側迷走神経活性化させるには、適切なエクササイズが有効である。基本エクササイズとサラマンダーエクササイズを組み合わせて実施すると、自律神経の誤作動が正常になり、シャットダウンが解けてくる。さらには、緊張した筋肉に対する神経筋膜リリースも組み合わせると、もっと効果が高くなる。この三つを組み合わせて根気よく実施することで、PMSやPMDDが治るに違いない。

PTSDは心身のシャットダウン化

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)というメンタルの病気は、非常に治療が難しいし予後が良くないと言われている。その中でもとりわけ完全治癒が難しいのが、複雑性のPTSDであるというのが、精神科医の共通した見解であろう。眞子内親王殿下が、マスコミやネットからの度重なる批判的な言動を受けて、複雑性PTSDの症状になっておられるという宮内庁からの発表があった。戦争や大震災、大事故などの強烈な体験によって起こすのが単純性PTSDと定義されている。それよりも予後が悪いのが複雑性PTSDだと言われる。

 このPTSDというメンタル疾患は、心的外傷(トラウマ)によって起きるのであるが、どうしてこんな症状が出てしまうのかは、あまり解明されていない。特に、心が麻痺をしてしまったり解離症状を起こしたりするケースでは、どうしてそんな症状を呈してしまうのか不思議だと思われている。ましてや、複雑性PTSDのように何度も同じようなストレスを受け続けることで、どうして心の解離や遮断、または凍り付きが起きるのか、その機序が不明であることから、治療が困難なのだと思われる。精神科医泣かせの症状であろう。

 そして、PTSDによる症状は精神面だけでなく、身体症状も起きるから深刻である。例えば、聴覚や視覚、嗅覚、さらには味覚の異常も起きることもある。特定の強い光を見ると恐怖感が起きたり、地響きのような重低音を聞くと身体が硬直を起こしたりする。また、顔面神経麻痺や顎関節症を併発することもあるし、PMDDやPMSの症状が起きることもある。深刻な肩こりや片頭痛が起きることも少なくないし、線維筋痛症を発症することも多い。何故にそんな心身の症状が起きるのかというと、迷走神経の暴走によるものだからだ。

 自律神経は、交感神経と副交感神経の二つのバランスで成り立っていると考えられていた。ところが最新の医学理論であるポリヴェーガル理論が、自律神経の常識を変えたのである。副交感神経の殆どが迷走神経であるが、迷走神経には二種類あることが判明したのである。ひとつは、従来の副交感神経である休息や社会交流を生み出す腹側迷走神経と、もうひとつは闘争も出来ず逃走も不能な状態に追い込まれた時に働く背側迷走神経である。だから、闘争や逃走時に働く交感神経と、二つの迷走神経と、全部で三つの自律神経が存在するのだ。

 腹側迷走神経と背側迷走神経の働きは、同じ迷走神経でありながら、真逆の働きをする。腹側迷走神経は、休息、安定、安心、社会交流をサポートしてくれている。一方、背側迷走神経とは、逃げることも出来ず闘うことも適わない状況に追い込まれてしまった時に、スイッチが入ってしまう自律神経である。この背側迷走神経が働いてしまうと、心身のシャットダウン化が起きるのである。自分が意図していないのに、身体が勝手に反応するのだから厄介である。何故、そんな迷惑な働きをしてしまうのかというと、自分自身の心身を守る為に、やむを得ず心身のシャットダウン化が起きるのだ。

 どういうことなのかというと、闘争も逃走も出来ない状況に追い込まれた人間は、心身の破綻や倒壊を起こしたり、または自分の命を自分で絶ってしまったりしかねない。それを防ぐ為に、自己防衛反応として遮断や凍り付きを起こすのである。嫌な記憶を思い出したり考えたりしたくない為に、感情を塞いでしまうこともある。つまり、心も身体も完全に閉じてしまい、人形さんのように不動の状態になってしまうことも少なくない。不登校やひきこもりは、まさしく心身のシャットダウン化を起こしているから起きると言えよう。

 やっかいなことに、一旦背側迷走神経が活性化してしまうと、シャットダウン化からは容易に抜け出せなくなる。投薬治療を続けても、そしてどんなにカウンセリングやセラピーを受けたとしても、なかなか背側迷走神経の暴走は止めにくい。何故なら、メンタルだけの問題だけでなく、迷走神経は身体の変化をもたらしているので、ソマティツク(身体的)ケアーも必要だからだ。最新のポリヴェーガル理論の研究により、自分で出来る身体エクササイズと神経筋膜リリースを併用することで、背側迷走神経の活性化から腹側迷走神経の活性化に戻ることが可能になることが判明した。この方法を駆使すると、パニック障害や自己免疫疾患などの難病さえも、症状も軽くなると言われている。難病に苦しんでいる人には朗報だ。

パニック障害の本当の原因

 何ならかのきっかけによってパニック発作が起きてしまい、その発作が何度か繰り返すことにより、また起きてしまうのではないかという不安からそのきっかけがなくてもパニック発作が容易に起きてしまう症状をパニック障害という。動悸や心拍数の増加、発汗、息切れや息苦しさ、吐き気、めまい、しびれやうずきなどの知覚異常、コントロールを失う恐怖、死ぬことへの恐怖などの深刻で苦しい症状が起きる。不安から起きる一過性の病気として過換気症候群があるが、この症状からパニック障害に移行する例も少なくない。

 パニック障害は珍しい病気ではない。100人に1人はパニック障害になると言われている。そして、女性は男性の2倍もの確率でパニック障害になると言われている。ましてや、この不安だらけの現代では、益々パニック障害になる人が増えつつある。したがって、女性では50人に1人か30人に1人程度の割合で、パニック障害になっているのではなかろうか。由々しき大問題である。治療は薬物療法と認知行動療法を併用して行なうことが多いが、治療効果はあまり上がらない。難治性のパニック障害であることが多い。

 パニック障害の原因はまだ完全には解明されておらず、少しずつ解明されつつあるものの、まだまだ不明なことが多いらしい。危険な状態に追い込まれた際に、自分の命を守る体の防衛反応であり、自律神経の異常か暴走によるものではないかと考えている専門家が多い。とは言いながら、それがどんなメカニズムやシステム異常によって起きるのかは解明されていない。しかし、これはポリヴェーガル理論によって説明できるのである。ポリヴェーガル理論とは、最新の自律神経に関する学説であり、多重迷走神経理論と訳される。

 今までは、自律神経は交感神経と副交感神経の2つによって調整されていると考えられていた。ところが、副交感神経の殆どは迷走神経であるが、複数の迷走神経系統が存在することが解ったのである。通常リラックスした時や休息時に働く腹側迷走神経(従来考えられていた副交感神経)と、命の危険にさらされた時に働く背側迷走神経があることが判明したのである。命が危険だと感じた緊急事態に、自分の身体と精神を守る防衛反応として背側迷走神経が働くのである。これがパニック発作の起きる主原因であると考えられる。

 それでは何故そんな迷惑な症状を起こしてしまう背側迷走神経が働いてしまうのかというと、命を守るにはそれしか方法がないのであろう。肉食動物に襲われて命が危険な状態に追い込まれた小動物は、背側迷走神経が働いて『死んだように動かなくなる』のだ。死んだ動物を食べない肉食動物から自分の身を守る最終手段だ。『狸寝入り』というのも、この背側迷走神経によるものであり、狸は本当に失神状態になるのである。人間も同じように、自分の身体や精神が破綻することを防ぐ為に、背側迷走神経が働き、パニック発作が起きると考えられる。

 小動物は背側迷走神経が一旦働いて失神したとしても、危険が去ると何事もなかったように復活することが出来る。ところが、人間は一度発作が起きるとなかなか完全な復活ができないし、何度も発作を繰り返すことが多い。何故かと言うと、人間は不安や恐怖心が多いからではないかと思われる。特に女性の方が、不安感が大きいことから、パニック障害が起きやすいのではなかろうか。それでは、誰にでもパニック障害が起きるのかと言うとそうではなく、特定の心理的傾向を持った人がパニック障害になりやすいと言われている。

 それはどういう心理的傾向かというと、不安や恐怖感が普段から大きい人であり、神経が過敏な人であろう。それは、絶対的な自己肯定感が確立していない人であり、いわゆる自己否定感情が大きい人である。さらには、神経学的過敏症と心理社会学的過敏症である、HSPの症状がある人である。つまりは、こういう人というのは傷ついた愛着や不安定な愛着を抱えている人であり、愛着障害と言っても過言ではないだろう。愛着障害を抱えていることで、パニック障害を起こすと考えられる。パニック障害を乗り越えるには、愛着障害を癒すしかないということも言える。

ストレスからトラウマの時代へ

 ストレスを感じながらも、それでも何とか生きている人は少なくない。ストレスはどうしたって誰にもあるから、仕方ないと思っているだろうし、ストレスに負けては生きて行けないと必要以上に頑張っている人も多いだろう。確かに、ある程度のストレスは自己成長に欠かせないものだし、ストレスを乗り越えることで自信を深めていけるという効果もある。しかし、自分ではストレスだから何とかなると思って居たら、それが深刻なトラウマだったというケースがある。トラウマは、簡単には乗り越えられないし、より深刻化しやすい。

 

 複雑化した現代社会は、とても生きづらいと思っている人が多い。それはストレス社会だからというが、実はそれはストレスだけではなくて、より深刻なトラウマを抱えているからではないだろうか。つまり、我々が生きるこの時代は、ストレスからトラウマの時代になっているということではないかと思えるのである。だから、こんなにもメンタルを病んでいる人が多いし、なかなか回復できない人が多いのであろう。不登校やひきこもりで苦しんでいる方々も、実はストレスによるものではなく、トラウマの影響だと考えられる。

 

 どうしてこんなにもトラウマを抱えた人が多くなったのであろうか。ひとつは、現代人のメンタルが非常に傷つきやすくなっているという要因が挙げられよう。現代の青少年たちは、精神的にひ弱で打たれ弱いと言われている。新入社員が厳しく指導されると、すぐに辞めてしまうと嘆いている先輩社員も多そうだ。そして、職場で厳しくされて離職した体験を何度か繰り返すと、社会に出ていけなくなりひきこもりになるケースも少なくない。現代の若者たちは、おしなべて深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えていると言えよう。

 

 現代の若者たちが何故に深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えているかと言うと、それは絶対的な自己肯定感が育っていないからである。自分のことが嫌いな若者が多いのだ。絶対的な自己肯定感があれば、いじめやパワハラ・モラハラに遭ったとしても、不登校やひきこもりまで追い込まれることは少ない。失敗や挫折の体験をしたとしても、乗り越えることが出来るのだ。勿論、自己肯定感だけで乗り越えられる訳ではなく、誰かが支えてくれたり深い絆を実感したりする必要がある。自己肯定感がないうえに、絆がないからトラウマを抱えるのだ。

 

 若者たちの自己否定感があまりにも強いのは、育てられ方に問題があるのだと思われる。 1歳から3歳の幼児期において、ありのままの自分を丸ごと愛されることにより、絶対的な自己肯定感が育まれる。つまり、豊かな無条件の愛(母性愛)に包まれて育てられた子どもだけが絶対的な自己肯定感を持つことが可能になる。ところが、無条件の愛が不足しているところに、こういう行動をしなければ愛さないよという条件付きの愛で縛られるのだから、自己肯定感が生まれる訳はない。さらには、ダブルバインドのコミュニケーションでがんじがらめにされて、傷ついた愛着を抱えてしまう。

 

 こうして傷ついた愛着や不安定な愛着を抱えていると、深刻なトラウマを起こしやすい。しかも、愛着障害であるとHSP(ハイリーセンシティブパーソン)になりやすいから、普通の人よりも敏感な感覚によって、余計に傷つきやすいのである。それでなくてもトラウマを抱えやすいのに、身体的な不調までも起こしやすい。女性は、PMSやPMDDになりやすいし、線維筋痛症や神経性疼痛を発症しやすい。こうして、トラウマは深刻化するし固定化してしまうことが多いのだ。トラウマが長期化するし、ひきこもりが長く続くことになる。

 

 ストレスからトラウマの時代になっているというのは、明治維新以降から近代教育を取り入れ、さらには戦後の子育ての誤謬により、自己肯定感を育てることが出来なかったせいであろう。これからの時代は、トラウマを抱えて生きる人が益々増えるだろう。最近になり「誉める教育」というものが注目されているが、付け焼刃のような誉め方では、あまり効果が得られないだろう。もっと根本的な育て方、あるがままにまるごと愛するという幼児教育がなされないと、自己肯定感は育まれずトラウマを抱えて生きる人が増えるに違いない。由々しき大問題である。

愛着障害という病名はないが

 精神科の医師に、「私は愛着障害なのではありませんか?」と聞いてみてほしい。精神科の医師はこう言うことだろう。「愛着障害という病名はありません」ときっぱりと言い切るに違いない。そして、愛着障害という精神疾患はないのだから、愛着障害を治す薬もないし、治療法もありませんと続けることだろう。確かに、医学界では愛着障害を精神疾患として取り扱っていないし、治療する医師は殆どいない。しかし、実際に愛着障害で苦しんでいる人は非常に多いし、愛着障害による二次的症状で辛い思いをしている人は想像以上に多い。

 

 ひきこもりの状態にいる人は、日本の中で少なくても115万人いると言われている。このひきこもりになっている本当の原因は、単なるメンタル疾患や精神障害ではなくて、愛着障害だと言っても過言ではないだろう。また、発達障害と診断されている中の多くは、愛着障害の二次的症状として現れているだけであろう。発達障害があることで虐めに遭いひきこもりになっているケースでは、元々愛着障害があると思われる。双極性障害やうつ病などの気分障害においては、愛着障害が根底にあることが少なくないのではないかとみられる。

 

 不登校やひきこもり、そして発達障害や気分障害を起こしている根底に愛着障害があるのではないかと思われる。勿論、すべての対象者が愛着障害だとは言い切れないが、かなりの割合で愛着障害を抱えているのは確かであろう。愛着障害とは精神疾患(病気)ではないが、多くの精神疾患の元になっている可能性は非常に高い。そして、精神疾患だけでなくて生活習慣病を始めとする多くの身体疾患に罹患する要因にもなっている気がする。さらには、パーソナリティ障害(人格障害)を抱えている人にも、不安定な愛着を持つケースが多い。

 

 こんなにも深刻な二次的な症状を起こす愛着障害であるが、どういう訳か精神医学界ではあまり注目しない。愛着障害が根底にあっての二次的症状だとすれば、投薬治療では完治させられないし、いくら優秀なカウンセラーやセラピストであっても根本治療は不可能である。現代の精神医療において、医学の発達がこれだけ進んでいるのに治療効果が上がらないのは、根本的な疾病の原因を探り当ててないからと言えないだろうか。愛着障害を克服しなければ、精神疾患を完治させられないし、これからも様々な疾患が増え続けるだろう。

 

 殆どの精神疾患と身体疾患の根本原因が愛着障害にあるのではないかと唯一提唱している精神科医が存在する。それは、岡田尊司先生である。岡田先生は、元々はパーソナリティ障害を専門に研究されていた。パーソナリティ障害を抱えて苦しんでいる青少年を、献身的に治療されていらしたのである。パーソナリティ障害に関する著書や研究論文も多数ある。青少年犯罪を起こすパーソナリティ障害の子どもたちを診療していたら、強烈な愛着障害を抱えていることに気付かれたのであろう。それから愛着障害を癒す治療に専念されてきた。

 

 岡田先生の著書に、『死に至る病~あなたを蝕む愛着障害の教委』(光文社新書)というものがある。現代人は何故幸福になれないのか?どうして生きづらさを抱えているのか?何故、こんなにも精神疾患や精神障害を抱えている人々がいるのか?と問われ、それは根底に愛着障害があるからだとこの著書の中で岡田先生は主張されている。そして、驚くことに自分はごく普通の家庭で育ち、両親からたっぷりの愛情を注がれてきたと思っている人でも、愛着障害を抱えているケースが結構多いことにも着目している。こういう人は、原因が解らない強烈な生きづらさを抱えていて、社会への不適応を起こしている。

 

 愛着障害を抱えている人たちは、殆ど漏れなくHSP(ハイリーセンシティブパーソン)を抱えている。神経学的過敏症、並びに心理社会学的過敏症を起こしてしまっている。故に、強烈な生きづらさと適応障害を抱えているのである。また、愛着障害の女性はPMSやPMDDを抱えているケースが非常に多い。そして、過緊張を抱えているが故に、身体のあらゆる場所に疼痛を起こしていることが多い。線維筋痛症を発症することも少なくない。原因の解らない身体の不調やメンタル疾患を抱えていたら、愛着障害があるのではないかと疑ってみたらどうだろうか。愛着障害を癒せたら、心身の不調は見事に解決できるだろう。