結婚と出産を若者が望まない訳

 少子化が止まらない。岸田内閣は異次元の少子化対策をすると宣言しているが、効果がある抜本的な少子化を防ぐ政策は見えてこない。それは当然である。若者たちはどんなに優遇策を提供しても出産を望まないだろうし、そもそも結婚をしたがらないのである。これではいくら少子化対策をしようと旗振りをしたとしても、若者たちが出産をしようとは思わないであろう。若者たちはそもそも、結婚を望んでいないのである。その原因を明らかにして、この問題を解決しなければ少子化を防げないに違いない。

 結婚できない若者が急増しているらしい。定職につけないし、よしんば定職に就いたとしても非正規労働なので、安定した将来が見込めないから結婚できないと言われている。確かに、安定した職場で余裕のある収入が将来に渡り確保されていないと、結婚に踏み切れないのは当然である。韓国でも、同じ理由から結婚できない男性が急増していると言われている。経済的な理由で結婚できない日本人男性も、相当数いると思われる。しかし、結婚できない、または結婚しようとしない理由は、経済的な問題からだけではないような気がする。

 現代の若者たちは、そもそも特定の恋人を持ちたがらないことが多い。友達はいるが、深く愛し合う特定の相手がいないらしい。つまり、恋愛に対する欲望が希薄なのである。その反動なのか解らないが、SNSでの付き合いには積極的であるし、芸能人に対する熱狂的なファンが多い。リアルな恋人を持ちたがることはないが、偶像的な疑似恋人で満足する傾向が強い。SNS上での疑似恋愛を好む若者は少なくない。性欲の処理は、その手のプロを相手にするか、偶発的な一夜のアバンチュールでまかなってしまうことが多いらしい。

 特定の恋人は持たないが、セフレはいるという状況にある若者が多いと言われる。そのせいなのか、梅毒という古い性感染症が都会を中心に爆発的に増えている。何故、若者は特定の異性と恋愛や結婚が出来ないのか、実に不思議なのであるが、それを解決しなければ少子化対策は徒労に終わるであろう。50代以上の世代には考えられないことであるが、現代の若者は恋愛に対して極めて臆病なのである。何故、若者が特定の相手と恋愛出来ないのかというと、それは絶対的な自尊感情が育っていないからであるに違いない。

 絶対的な自己肯定感が育っていないと、自分に自信が持てない。または、自尊心がないと、自分のことが好きになれない。嫌な部分も含めたすべての自分を心から愛することが出来なければ、他人を愛することは出来ないのである。ましてや、好きな異性に対して自分の本心とありのままの肉体をさらけ出すことは勇気がいる。昔は、好きな人にしか自分をさらけ出せなかったのだが、現代の若者たちは真逆の行動をする。どうでもいい異性に対しては、平気で身を任せる。でも、大好きな相手には本心を見せられないし、身を任せることは考えられない。

 自己肯定感(自尊心)を持っていない現代の若者たちは、特定の異性と恋愛関係になることを避けたがる。ましてや、まる裸の自分をさらけ出すことになる結婚まで漕ぎつけることは、到底かなわないことだ。さらには、結婚して子どもを産むということは、自尊心が育っていなければ選択肢にはならない。自分の遺伝子を持った分身をこの世に誕生させるという行為は、自分のことを心から愛してないと出来ないのである。勿論、欲望のままに行動するような愚かな若者は別であるが、分別があり教養のある若者は、結婚や出産に対して臆病である。

 現代の若者が自尊心を持てないのは、教育が間違っているからである。本来あるべき教育とは、出来うる限り子どもに対して介入や干渉を避けて、自己組織化とオートポイエーシスの能力を育む教育である。学校教育と家庭の育児は、自己否定感を肥大化させる子育てである。家庭においては過干渉をしての『良い子』の子育てであるし、学校においても必要以上に介入して枠にはめようとする。これでは自尊心が育つ訳がない。自分自身を偽って、良い子の仮面を被って生きることを強いられている。心理学でいうペルソナ(偽りの仮面)を被っている生きづらい若者だから、本心をさらけ出すことになる結婚と出産を怖くて選べないのである。

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