子どもの嘘とどう向き合うか

 子どもに嘘をつかれたことを経験しない親は、絶対にいない筈である。嘘をつかない子どもなんて絶対にいない。もし、嘘をつかない子どもがいたとしたら、それはそれで問題であろう。何故ならば、人は嘘をつくことで精神的な発達をして行くからである。自我が芽生えて、やがてその自我をもてあまし、自らの自我を批判し糾弾して、やがて自我と自己の統合を実現するのである。プロセスの中で、どうしても自我が嘘をつかせるのであるから、正常な精神発達をするには必要不可欠なことである。自己の確立にはなくてはならないのだ。

 とは言いながら、嘘をつかれる母親は辛い立場を思い知ることになる。子どもは、父親が怖いので、父親には嘘をつきにくい。母親を甘く見ている訳ではないのだが、嘘をつくのは圧倒的に母親に対してである。そして、その嘘は巧妙なものではなくて、すぐにばれてしまう嘘である。その度に母親は子どもをきつく叱るのであるが、学習をせずにまた同じような嘘をつく。何故なら、子どもにいくら正論で訴えても、子どもは一時的には反省しても、またもや嘘をついて母親を困らせる。反省したように見せるのも、また嘘なのである。

 ところで、嘘を何度もつく子どもと、あまり嘘をつかない子どもがいる。同じ兄弟姉妹だとしても、嘘をつかない子と嘘をつく子がいるのは、実に不思議なことである。それは、何がそうさせるのであろうか。そのことが解れば、子どもが嘘をつかないようになるのではあるまいか。よく嘘をつく子どもと嘘をあまりつかない子どもの違いは、どこが違うのかというと、母親との関係性にあるような気がする。それも母親との愛着が安定したものであり、子どもが不安や恐怖を持っていないのなら、嘘をあまりつかないだろう。

 逆に、母親との愛着が不安定なもので、その愛着が傷ついたものだとしたら、子どもはすぐにばれてしまうような嘘をつきたがる。何故、そんなことをするかというと、母親からの自分に対する愛情が本物かどうかを、無意識下で試すということをしてしまうのである。嘘をつくというのは、自分を守るという意味もあるが、すぐにばれるような嘘をつくというのなら、母親を試しているということが疑われる。自分をまるごとあるがままに愛してくれているという実感を持っている子どもであれば、あまり嘘はつかないであろう。

 嘘をつくような子どもに対して、母親はどのように向き合ったらよいのであろうか。嘘をつかれた母親は、ついつい子どもを叱ってしまうのは当然であろう。そして、どうしてこんな嘘をついたのかと、理由を聞きたがるものだ。そして、二度と嘘をついてはならないと、こんこんと諭すに違いない。このような対応は、子どもの心を酷く傷つける。そして、子どもとの信頼関係を益々希薄化させてしまうことだろう。それでなくても不安定な母親と子どもの愛着関係をさらに悪化させてしまうことになるのである。

 子どもの嘘に対して、理詰めで嘘をつくことの愚かさをくどくどと説くのは賢明なことではない。子どもは嘘をつくことで、親の反応を確かめているのである。親が自分に対して、どれだけ愛してくれているのかを測っているのである。だから、理論的に子どもを追い詰めてしまうと、自分は親から愛されていないと感じて、さらなる嘘を重ねて親の注目を惹こうとするのだ。どうすればいいのかと言うと、嘘をつかれた時に、『ああ、この子は自分を見てほしい、関わってほしい』と求めているんだと、子どもを愛おしく思うことが肝心だ。

 そのうえで、この子どもを自分がどれだけ愛しているのか、そして絶対に嫌うことはしないし、手放すことはしないと感じてくれるにはどう対応すれば良いのかを考えることだ。そうすれば、どう対応すればよいのかの正解を見つけられる。自分が子どものことをどれだけ好きかを伝えることが肝要だし、そのうえで大好きな子どもに嘘をつかれることが悲しいと自分の感情を素直に伝えることだ。けっして責めてはならないし、理性的に問い詰めるのは避けたい。その為には、自分自身が安定した愛着を抱えていなければならず、夫からの大きな愛情で包まれていることが必要であろう。

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