腹七分目がアンチエイジングを実現

 昔から日本で言われ続けてきた健康の秘訣に、『腹八分目』というものがある。おそらく、いつも満腹まで食べ続けて飽食人生を歩んできた人は、不健康になり長生きも出来なかったに違いない。一方、敢えて八割程度の食事量で我慢した食生活を続けた人は、健康で長生きしたのではなかろうか。そのような人々の生き方から、腹八分目という言葉が生まれたのであろう。飽食を続ければ、高脂血症や糖尿病などの生活習慣病になりやすいし、肥満になって下半身に負担がかかって腰痛や膝痛で悩む人も多かったであろう。

 最新の科学的な検証によって、この腹八分目が正しいということが証明されたのである。この食事制限というのは、普通の食事カロリーの25%~30%なので、正確に言えば腹八分目ではなくて腹七分目というべきかもしれない。何故、カロリー制限をするとアンチエイジングが実現するかというと、それはサバイバルシステムが起動するからである。そのサバイバルシステムに重要な働きをするのが、サーチュイン遺伝子である。サーチュイン遺伝子は、適度なストレスをかけられると、危機的状況を感知してサバイバルシステムのスイッチをONにするのだ。

 このサバイバルシステムというのは、どのような意味なのかと言うと、こういうことらしい。食事カロリーが制限されて生きて行く上でギリギリのエネルギー状態に置かれると、種の保存が脅かされる危機感を持つらしい。つまり、身体が危機的な状況に追い込まれたと感知するのだ。そうすると、どのような方法を使っても、種を保存しなくてはならないと、身体のシステムが勝手に働くのである。老化をさせないようにして、後々まで生殖能力を残そうとするのである。そのために、老化した細胞を再活性化させて若返りを図るのである。

 米国ウィンスコン大学の研究チームがアカゲザルを研究対象にして実験した結果、食事を70%に減らしたグループの方が、制限しなかったアカゲザルのグループよりも三倍も病気と老化にならない確率が高かったという。30%の食事制限したグループのアカゲザルは、肌がつやつやして皺も少なく、毛並みも明らかに良かったらしい。ただし、他の研究グループでの実験結果では、あまり効果がなかったという報告もあったという。そこから解ったのは、やせているサルは食事制限の効果が少なく、少し肥満気味のサルに効果があるということだ。

 アカゲザルにカロリー制限の食事を提供することにより、アンチエイジングの効果があるという実験結果が現れたものの、人間ではまだ実証実験がされていない。人間が30%の食事制限よって、老化が抑制されるということは、理論的には証明されている。腹八分目は医者いらずという諺は、実体験からできたものであろう。断食をすると、健康になるというのも広く知られている。そして、激やせの人間は食事制限してもサーチュイン遺伝子は活性化せず、少し肥満気味の人間の方がカロリー制限の効果が出るのかもしれない。

 適度なダイエットによってサバイバルシステムのスイッチがONになると、サーチュイン遺伝子が働き始めて、オートファジーが活性化されて活性酸素が消去され始める。心筋の保護機能も働くし、脳の神経変性疾患も抑制され、認知症も予防される。体の中に産生された活性酸素が消去されれば、癌の発生も抑制されることだろう。それだけではない。ストレス改善や疲労改善にも効果がある。シミや皺も改善されるし、ミトコンドリアの活性化が起きる。老化した細胞に働きかけて、DNAを修復するのである。

 この飽食の時代に、30%削減した食事を摂り続けるというのは、難しいかもしれない。美味しい食事が目の前に並んでいれば、ついつい食べてしまうだろう。それで、プチ断食がお勧めかもしれない。最近、16時間ダイエットという手法がもてはやされている。夕食後、16時間は食べ物を口に入れないというダイエット法である。つまり、朝食を完全に抜くという方法である。サーチュイン遺伝子を活性化させるサバイバルシステムを働かせるのだろう。毎日ではなくても、16時間のプチ断食が効果的かもしれない。いずれにしても、飽食を止めなければ老化が進むということを認識しなければならない。

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