PTSDは心身のシャットダウン化

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)というメンタルの病気は、非常に治療が難しいし予後が良くないと言われている。その中でもとりわけ完全治癒が難しいのが、複雑性のPTSDであるというのが、精神科医の共通した見解であろう。眞子内親王殿下が、マスコミやネットからの度重なる批判的な言動を受けて、複雑性PTSDの症状になっておられるという宮内庁からの発表があった。戦争や大震災、大事故などの強烈な体験によって起こすのが単純性PTSDと定義されている。それよりも予後が悪いのが複雑性PTSDだと言われる。

 このPTSDというメンタル疾患は、心的外傷(トラウマ)によって起きるのであるが、どうしてこんな症状が出てしまうのかは、あまり解明されていない。特に、心が麻痺をしてしまったり解離症状を起こしたりするケースでは、どうしてそんな症状を呈してしまうのか不思議だと思われている。ましてや、複雑性PTSDのように何度も同じようなストレスを受け続けることで、どうして心の解離や遮断、または凍り付きが起きるのか、その機序が不明であることから、治療が困難なのだと思われる。精神科医泣かせの症状であろう。

 そして、PTSDによる症状は精神面だけでなく、身体症状も起きるから深刻である。例えば、聴覚や視覚、嗅覚、さらには味覚の異常も起きることもある。特定の強い光を見ると恐怖感が起きたり、地響きのような重低音を聞くと身体が硬直を起こしたりする。また、顔面神経麻痺や顎関節症を併発することもあるし、PMDDやPMSの症状が起きることもある。深刻な肩こりや片頭痛が起きることも少なくないし、線維筋痛症を発症することも多い。何故にそんな心身の症状が起きるのかというと、迷走神経の暴走によるものだからだ。

 自律神経は、交感神経と副交感神経の二つのバランスで成り立っていると考えられていた。ところが最新の医学理論であるポリヴェーガル理論が、自律神経の常識を変えたのである。副交感神経の殆どが迷走神経であるが、迷走神経には二種類あることが判明したのである。ひとつは、従来の副交感神経である休息や社会交流を生み出す腹側迷走神経と、もうひとつは闘争も出来ず逃走も不能な状態に追い込まれた時に働く背側迷走神経である。だから、闘争や逃走時に働く交感神経と、二つの迷走神経と、全部で三つの自律神経が存在するのだ。

 腹側迷走神経と背側迷走神経の働きは、同じ迷走神経でありながら、真逆の働きをする。腹側迷走神経は、休息、安定、安心、社会交流をサポートしてくれている。一方、背側迷走神経とは、逃げることも出来ず闘うことも適わない状況に追い込まれてしまった時に、スイッチが入ってしまう自律神経である。この背側迷走神経が働いてしまうと、心身のシャットダウン化が起きるのである。自分が意図していないのに、身体が勝手に反応するのだから厄介である。何故、そんな迷惑な働きをしてしまうのかというと、自分自身の心身を守る為に、やむを得ず心身のシャットダウン化が起きるのだ。

 どういうことなのかというと、闘争も逃走も出来ない状況に追い込まれた人間は、心身の破綻や倒壊を起こしたり、または自分の命を自分で絶ってしまったりしかねない。それを防ぐ為に、自己防衛反応として遮断や凍り付きを起こすのである。嫌な記憶を思い出したり考えたりしたくない為に、感情を塞いでしまうこともある。つまり、心も身体も完全に閉じてしまい、人形さんのように不動の状態になってしまうことも少なくない。不登校やひきこもりは、まさしく心身のシャットダウン化を起こしているから起きると言えよう。

 やっかいなことに、一旦背側迷走神経が活性化してしまうと、シャットダウン化からは容易に抜け出せなくなる。投薬治療を続けても、そしてどんなにカウンセリングやセラピーを受けたとしても、なかなか背側迷走神経の暴走は止めにくい。何故なら、メンタルだけの問題だけでなく、迷走神経は身体の変化をもたらしているので、ソマティツク(身体的)ケアーも必要だからだ。最新のポリヴェーガル理論の研究により、自分で出来る身体エクササイズと神経筋膜リリースを併用することで、背側迷走神経の活性化から腹側迷走神経の活性化に戻ることが可能になることが判明した。この方法を駆使すると、パニック障害や自己免疫疾患などの難病さえも、症状も軽くなると言われている。難病に苦しんでいる人には朗報だ。

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