ストレスからトラウマの時代へ

 ストレスを感じながらも、それでも何とか生きている人は少なくない。ストレスはどうしたって誰にもあるから、仕方ないと思っているだろうし、ストレスに負けては生きて行けないと必要以上に頑張っている人も多いだろう。確かに、ある程度のストレスは自己成長に欠かせないものだし、ストレスを乗り越えることで自信を深めていけるという効果もある。しかし、自分ではストレスだから何とかなると思って居たら、それが深刻なトラウマだったというケースがある。トラウマは、簡単には乗り越えられないし、より深刻化しやすい。

 

 複雑化した現代社会は、とても生きづらいと思っている人が多い。それはストレス社会だからというが、実はそれはストレスだけではなくて、より深刻なトラウマを抱えているからではないだろうか。つまり、我々が生きるこの時代は、ストレスからトラウマの時代になっているということではないかと思えるのである。だから、こんなにもメンタルを病んでいる人が多いし、なかなか回復できない人が多いのであろう。不登校やひきこもりで苦しんでいる方々も、実はストレスによるものではなく、トラウマの影響だと考えられる。

 

 どうしてこんなにもトラウマを抱えた人が多くなったのであろうか。ひとつは、現代人のメンタルが非常に傷つきやすくなっているという要因が挙げられよう。現代の青少年たちは、精神的にひ弱で打たれ弱いと言われている。新入社員が厳しく指導されると、すぐに辞めてしまうと嘆いている先輩社員も多そうだ。そして、職場で厳しくされて離職した体験を何度か繰り返すと、社会に出ていけなくなりひきこもりになるケースも少なくない。現代の若者たちは、おしなべて深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えていると言えよう。

 

 現代の若者たちが何故に深刻な生きづらさとひ弱なメンタルを抱えているかと言うと、それは絶対的な自己肯定感が育っていないからである。自分のことが嫌いな若者が多いのだ。絶対的な自己肯定感があれば、いじめやパワハラ・モラハラに遭ったとしても、不登校やひきこもりまで追い込まれることは少ない。失敗や挫折の体験をしたとしても、乗り越えることが出来るのだ。勿論、自己肯定感だけで乗り越えられる訳ではなく、誰かが支えてくれたり深い絆を実感したりする必要がある。自己肯定感がないうえに、絆がないからトラウマを抱えるのだ。

 

 若者たちの自己否定感があまりにも強いのは、育てられ方に問題があるのだと思われる。 1歳から3歳の幼児期において、ありのままの自分を丸ごと愛されることにより、絶対的な自己肯定感が育まれる。つまり、豊かな無条件の愛(母性愛)に包まれて育てられた子どもだけが絶対的な自己肯定感を持つことが可能になる。ところが、無条件の愛が不足しているところに、こういう行動をしなければ愛さないよという条件付きの愛で縛られるのだから、自己肯定感が生まれる訳はない。さらには、ダブルバインドのコミュニケーションでがんじがらめにされて、傷ついた愛着を抱えてしまう。

 

 こうして傷ついた愛着や不安定な愛着を抱えていると、深刻なトラウマを起こしやすい。しかも、愛着障害であるとHSP(ハイリーセンシティブパーソン)になりやすいから、普通の人よりも敏感な感覚によって、余計に傷つきやすいのである。それでなくてもトラウマを抱えやすいのに、身体的な不調までも起こしやすい。女性は、PMSやPMDDになりやすいし、線維筋痛症や神経性疼痛を発症しやすい。こうして、トラウマは深刻化するし固定化してしまうことが多いのだ。トラウマが長期化するし、ひきこもりが長く続くことになる。

 

 ストレスからトラウマの時代になっているというのは、明治維新以降から近代教育を取り入れ、さらには戦後の子育ての誤謬により、自己肯定感を育てることが出来なかったせいであろう。これからの時代は、トラウマを抱えて生きる人が益々増えるだろう。最近になり「誉める教育」というものが注目されているが、付け焼刃のような誉め方では、あまり効果が得られないだろう。もっと根本的な育て方、あるがままにまるごと愛するという幼児教育がなされないと、自己肯定感は育まれずトラウマを抱えて生きる人が増えるに違いない。由々しき大問題である。

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