親からの支配と制御を断ち切るには

 強烈な生きづらさを抱えている人、または自分自身が思ったような生き方が出来ない人が少なくない。そういう子どもや若者たちは、不登校やひきこもりになりやすい。あまりにも殺伐としたこの社会に適応しにくいのかもしれない。それは、学校や職場において関わる人々が、他の人とは違う自分を排除したがったり、虐待されたりすることで、不適応を起こしていると思っていることだろう。しかし、学校や職場で出会う人々だけに問題がある訳ではなく、自分の育てられ方にも大きな問題があったと気付いているのではないだろうか。

 

 不登校やひきこもりの人がすべて育てられ方に問題があったなんて、乱暴なことを言うつもりはない。しかし、学校や職場に上手く適応できず、解決の出来ないほどの生きづらさを抱えている人の殆どは、親との関係に問題を抱えていると言っても過言ではない。勿論、保護者から虐待やネグレクトを受けていたというのは論外で、間違いなく不登校やひきこもりに陥ることだろう。しかし、ごく普通の親に育てられたと思っている人の中でも、知らず知らずのうちに、親に所有され、支配され、制御されて育った子どもは想像以上に多いのだ。

 

 こういう親自身も、自分の子育てに問題があったという自覚はないし、子どももまた愛情いっぱいに育てられたと思い込んでいる。しかし、実際はこういう親が我が子を必要以上に支配してコントロールを繰り返しているケースは多い。おそらく、このような支配と制御をして子育てした親は、この世の中の半数以上を占めているに違いない。しかも、この支配と制御の仕方がえげつないのである。つまり、ダブルバインドのコミュニケーションをしながら支配と制御を強め、親の思い通りの子どもになるよう『飼育』しているのである。

 

 親も子も『飼育』状態にあることを認識していないから不幸なのである。人間と言うものは、本来はひとりでに自己組織化するしオーポイエーシスという機能を発揮できる。つまり、子どもは成長するに従い、主体性、自主性、自発性、責任性などを自ら発揮する。そして、オートポイエーシス(自己産生)の機能を発揮して、自らの創造性を高めて成長していくのである。ところが、親が無意識に子どもを支配し制御しようとして、介入や干渉を繰り返してしまうと、自己組織化できないしオートポイエーシスの機能が育たないのである。

 

 子どもが青年期なると、親に支配したり制御されたりしなくなるかというとそうではない。子どもが30代や40代になっても、親が支配し続けてコントロールしているケースがある。さらには、小さい頃の支配・制御関係で起きた事件の記憶が残存し続けて、それがトラウマになってしまい、親からの支配関係が解けない場合もある。だから、絶対的な自己肯定感がいつまでも育たないし、いつも不安や恐怖感に苛まれるのである。自組織化していないと人間は伸び伸びとして生きて行けないし、常に誰かに依存しがちであり困難を回避したがる。

 

 それでは、この親からの支配・制御関係をどうしたら乗り越えることが出来るのであろうか。特に、小さい頃からダブルバインドのコミュニケーションを受けたケースでは、乗り越えるのが非常に難しいから深刻である。一人の力だけでは、親からの支配・制御関係を克服するのは困難だ。第三者のサポートが必要である。勿論、ダブルバインドをして支配続けてきた親が、その間違いに気付いて子どもに謝罪し、本来あるべき無条件の愛を注ぎ続けることが出来たなら、支配・制御関係を断つことが可能である。これも誰かの手助けが必要だ。

 

 『親が変われば子も変わる』というフレーズは、良く耳にする。しかし、なかなか親は長い期間生きてきたから変われないものだ。ましてや、自分の間違いを他人から指摘されたら、反発するのは当然だ。だから、支援者が親の子育てにおける間違いを指摘して変わるように指示したとしても、到底受け入れられないだろう。ましてや、プライドの高い高学歴者や地位名誉の高い親は、聞く耳を持たないであろう。そんな親を変える唯一の方法がある。それは家族療法のひとつである、オープンダイアローグという療法である。すべてが上手く行く訳ではないが、親が自ら変わる可能性は極めて高い。親からの支配・制御関係を乗り越えるには、オープンダイアローグ療法しかないであろう。

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