ある青年の勇気ある行動

 ある20代前半の青年が行なった、勇気ある行動である。ある日の土曜日の夜のことである。電車で40分ぐらいの地方都市に行って、職場の仲間と懇親会を開催して帰宅途中の電車の中で事件は起きたという。酔って若い女性にからんでいる30代ぐらいの男性が乗車していた。かなりしつこくまとわりついて、名前やメールアドレスを教えろと迫っていたという。その様子を隣の車両から何気なく見ていた青年は、こういう人間に関わりあうと、ろくな目に遭わないだろうと思い、誰かが助けてくれないかと願っていたという。

 

 ところが、困っている若い女性が回りを見渡しながら助けを求めて哀願している様子なのに、誰も助けようとしなかった。そこで、この青年は勇気を振り絞って隣の車両に行き、その困っている女性と男性との間に割り入って邪魔をしたらしい。この男性は、この女性と話をしているんだからお前は邪魔をするな!とわめき散らしたけれど、この青年は毅然とした態度で、この若い女性を庇い続けたという。この男性は、しまいにはぶち切れたみたいで、オレに喧嘩を売るのか!と恫喝したらしいが、ひるむことなく若い女性の盾になってあげたのである。

 

 その時の勇気ある若き男性の心情を後から聞いたら、本当はとても恐くて恐くて仕方なかったという。相手の男性は一見労務者風で、力も強そうで凶暴な目をしていたので、何をするか解らないという恐怖があった。ましてや、殴りかかって来たらどうしようかと迷っている自分がいたという。何故なら、その青年は県立高校の臨時講師を勤めて3年目なので、例え自衛のためとはいえ暴力事件は起こしてはならないと思っていたし、運動神経は抜群なのでよけることも出来たが、平和な解決をいつも志していたので、暴力に対して暴力で対応することは絶対に避けたかったというのだ。

 

 そうこうしているうちに、この若き女性が降りる予定の駅に着いて席を立ち上がった所、この凶暴ぶりを発揮している男性も後をつけて、駅を降りようとしたのである。この青年は、自宅がある4つ先の駅で降りる予定だったのだが、このままこの女性と凶暴な男性を二人にしたままでは、何をされるか解らないと、一緒にこの駅から降りる決断をした。案の定、この青年と女性を、くだんの男性もまたを追いかけて駅の改札口を出てきたらしい。この辺の駅は田舎なので無人駅であるし、周りに人家も少なく、薄暗い。どうにかしようと後をつけて来た男性は、二人の様子を伺っていたという。

 

 この青年は機転をきかして、この若い女性に電話をかけさせて、親に迎えに来るように指示したという。そして、迎えに来るまで傍に居てあげたらしい。例の男性は、ある程度の距離をとりながら二人の様子を伺っていたが、その待っている時間が長く感じられ、襲ってきたらどうしようかと気が気ではなかったという。20分くらいしてその女性の母親がやってきて、無事に車に乗せて母親に引き渡し、自分は家の近くまで送ってもらうのが申し訳ないと、次の駅まで送ってもらうことにしたという。この辺も、奥ゆかしいというかバカ正直なくらい人が好い。

 

 車の中で、今までマスクをしたままだった女性が顔を見せて、「私のこと解りますか?」と言われて、この青年は驚いた。何と、同じ高校に通う生徒でクラスは違うが教え子の1人だったのである。生徒から言われるまで、まったく気がつかなかったらしい。助けてあげて、本当に良かったと思ったという。実は後日談がもう一つある。この女性の父親とこの青年の父親は以前からの知り合いであり、この時はその事実を知らずいたのだが、あるきっかけでそのことが判明し、お互いに驚愕する。世の中というのは、実に不思議な縁で繋がっているのだと実感することになる。

 

 電車の中で酔っ払いにからまれて困っている若い女性を、正義感を持って助けるというのは、なかなか出来ない行為である。おそらく、このような青年は世の中にはあまり居ない気がする。実際に、同じ車両にいた乗客は皆見て見ぬふりをしていたのである。この青年は、実に勇気ある行動を取ったのものだと思う。今時の若者らしくないように思う。世の中には、若い女性に対してストーカーを行なったり、無理やり乱暴したり、平気で傷つけたりする若者が多い。でも、こんな素晴らしい若者もいるということがホッとするし、嬉しく思う。こういう若者が存在するなら、日本という国も、まだまだ捨ててもんじゃないと安心する。こんな若者をもっと多く育てて、社会に送り出さなくてはならないと強く思ったものである。

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