珈琲は個性化と味覚重視の時代へ

コーヒーは庶民の嗜好品として定着してきた。日本のコーヒー消費量は年々増加していて、若い人は日本茶よりもコーヒーが食後の飲み物として定番となりつつある。それもインスタントコーヒーや缶コーヒーだけではなくて、本格的なドリップコーヒーやサイフォンで入れた珈琲が好まれている。コンビニで100円コーヒーが爆発的に売れている影響が大きいと思われる。しかしながら、コーヒーの味にこだわる本格的な珈琲好きの『おとな』にとっては、コンビニやチェーン店のシアトル系コーヒーではおおいに不満足であった。

何故なら、コンビニやコーヒーチェーン店の多くの店では、ブレンドコーヒーしかないうえに、シアトル系の深煎りで苦みとコクの強いコーヒーしか置いていないからである。本物の味が解るコーヒー通の中には、シングルオリジンコーヒーにこだわる人も多いし、浅煎りや中浅煎りのフルーティな香りが強く、酸味と甘みが共存する珈琲を求める人も比較的多いからである。コンビニで販売されている100円コーヒーは、味も素っ気もない、ただの黒くて苦くて渋い『お湯』であるというコーヒー好きもいるくらいである。

そんなコーヒー業界に異変が起きつつある。スターバックスコーヒーでは、高級な旗艦店が日本にも進出したのである。なにしろ、一番安価なコーヒーが1杯960円と、普通のお店の倍の価格である。個性的な味や体験を売り物にしている。今までの販売戦略とは一線を画している、本格的なコーヒー店である。また、コンビニでは高級なコーヒーの代名詞とも言われている『パナマゲイシャ』が、一杯500円で販売されていて、爆発的に売れているらしい。本格的で個性的な美味しいコーヒーが好まれる傾向が生まれてきたのだ。

数年前からサードウェーブコーヒーとして、本物のコーヒー豆を丁寧に焙煎して、コーヒーメーカーやコーヒーマシーンを使わずに、ドリップやサイフォンで淹れる珈琲が人気を博しつつある。ようやく、庶民の間でも本物の珈琲の味が知られてきたのかもしれない。私の友人の一人も、今まではコーヒーなんて美味しいと思わないと公言して憚らず、一切口にしなかった。ところが、私が丁寧に淹れた珈琲は特別だという。今までこんなに美味しい珈琲は飲んだことがないと驚いた。そして、今では無類のコーヒー好きになってしまった。珈琲本来の美味しさに目覚めれば、本物のコーヒー通にだってなれるのである。

インスタントコーヒーや缶コーヒーである程度満足しているコーヒー好きは、もしかすると本当に美味しい珈琲を飲んだことがないのかもしれない。または、コンビニの100円コーヒーを美味しいと感じる人は、味覚が麻痺しているのではなかろうか。日本人の多くが味覚異常になっているという。添加物の多いあまりにも加工食品ばかりを食べているとか、または化学肥料や農薬まみれの農産品を食べた影響で、亜鉛不足が深刻だからである。さらに、味覚異常から刺激的で味の濃い食品しか美味しいと感じなくなっているのである。

パナマゲイシャという珈琲を飲んだことがあるだろうか。アフリカのエチオピア原産のコーヒー品種で、栽培が非常に難しく、高地でしか育たないという。その難しいゲイシャをパナマで試行錯誤を繰り返して、ようやく栽培に成功したらしい。高地での栽培なので、収量が著しく少なく、高額になる。100g3000円から4000円という高価格の小売りである。一杯10gとして300円以上の豆代なので、コーヒー専門店なら1杯1500円以上になる。コンビニでの500円は、リーズナブルな価格設定だ。ゲイシャの風味を生かす為に浅煎りにする場合が多い。フルーティな香りとあまりにも上品な酸味と甘み、そして表現のしようのない柑橘系の風味がある。また飲みたくなる美味しさである。ゲイシャの微妙な味の違いが解れば、いっぱしのコーヒー通と言える。

コーヒーの味は豆の品種と産地で決まると言われているが、それだけではない。例え高価なコーヒー豆であったとしても、焙煎の仕方で味が変わるし、曳き方や抽出の仕方によってもおおいに味が違ってくる。そのコーヒー豆に合った焙煎をしてあげないと豆が可哀想である。そして何よりも焙煎した後の鮮度が問題である。焙煎した後、または曳いた後には急激にコーヒー豆の酸化が起きるから、出来たらフリーザーで保存したい。豆の曳き方だって、マシンで曳くと熱が出て酸化が早まるから、セラミック製の手回しコーヒーミルでゆっくり曳いて、粗びきに仕上げる。そして、最初は2分から3分くらいゆっくり蒸らしてから、熱い湯で少しずつゆっくり抽出する。心を込めてコーヒー豆に感謝の気持ちを伝えながら、美味しくなれと念じながら淹れる。そうすると、驚くほど豊潤で美味しい珈琲が出来上がるのである。珈琲はようやく個性化と味覚重視の時代になりつつある。

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