僕らは奇跡でできている

一昨日から放映開始された『僕らは奇跡でできている』が実に面白い。関西テレビが作成したTVドラマであるが、とてもよく出来た物語である。午後9時からのゴールデンタイムの時間に民放テレビの初主演だそうだが、高橋一生という役者はどんな役をしても、奥行きの深い演技を見せてくれる。一生ファンにとってはたまらない魅力を感じることだろう。まだ初回なのでよく解らないが、明らかに主人公は発達障害かもしくは自閉症スペクトラムだと思われる。グッドドクターもそうだったが、フジ系列はなかなかやるものだ。

京都大学大学院卒業の主人公は、動物行動学の大学講師をしている。発達障害であるが故に、頓珍漢な会話や行動をして周りの人々を振り回す。歯に衣を着せぬ言動は、時には相手の痛いところをえぐり抜く。しかるに、その言動がやがて相手がしがみついている古くて低劣な価値観を壊して、新しくて高潔な価値観へといざなう。グッドドクターというTVドラマが描きたかったテーマと似通っている。もう一人発達障害であろう子どもが登場して、高橋一生演じる主人公と心を交わせる。お互いに成長する姿も見せてくれるだろう。

この『僕らは奇跡でできている』というドラマは、これからどんな展開を見せるか楽しみである。このドラマでイソップ童話の『ウサギとカメ』の物語を題材に取り上げていた。カメが寝ているウサギに、どうして声をかけずに追い越して先にゴールしたのか?と問うシーンが印象的だ。高橋一生はこんなふうに答える。カメは勝ち負けなんてどうでもよく、ただひたすら前に進むことが楽しいんだ。一方、ウサギは勝つことに執着していると。そして、榮倉奈々演じるヒロインに、「あなたはウサギだ」と言い放つ。榮倉奈々は、「自分はウサギではない」と反論するものの、自分の今までの行動に疑問を持つことになる。

発達障害や自閉症スペクトラムの方々が主人公として描かれるドラマは、これからも増えてくるに違いない。何故なら、現代の子どもたちの3割以上が発達障害だと言われているのである。当然、学校でも職場でも発達障害の方々との付き合いが出てくる。そのような発達障害の方々との交流において、自分たちよりも劣った存在として見下したりいじめたりするような社会であってはならない。ましてや、単に自分たちが支援すべき存在として、一方的にお世話するというような思いあがった気持ちで付き合うのも無礼である。

この『僕らは奇跡でできている』や『グッドドクター』などのTVドラマにより、彼らの素晴らしい能力や心の清らかさを素直に感じ取り、謙虚に自分の至らなさを気付かせてもらいたいものである。それが、彼らの『個性』を受容し、生かすことにもなろう。今まで多くの発達障害の方々と職場や地域で交流させてもらったが、多くの気付きや学びを彼らから受け取ってきた。そして、思いあがった自分や嫌らしい自分を叩きのめしてくれた。彼らがこの社会に存在している理由のひとつが、我々に大切な何かを教示してくれる為ではないだろうか。お互いに自己成長するには、違う個性を持った人との出会いが必要だ。

僕らは奇跡でできているというドラマの題名から類推するに、これから自然界における我々人間も含めた生き物が、この地球(宇宙)によって奇跡的に生かされているということもテーマになるのかとも思う。出来たら、最先端の物理学や分子生物学の観点からも、描いてほしいものだと期待している。特に、動物行動学という最先端の学問であれば、生物界におけるシステム論として描くのはどうだろうか。すべての生き物はシステムによって生かされているし、我々人間もシステムに基づいて生命が維持されている。当然、奇跡とも言えるような自己組織化やオートポイエーシスによって存在しているのである。

このドラマに原作はなく、橋部敦子さんのオリジナル脚本だという。どんな展開になるのか楽しみであるが、単なるラプストリーではなさそうである。この世界では人間も含めたすべての万物の存在そのものが奇跡であるし、すべてがある一定の法則によってその存在が認められている。そして、現代はその一定の法則に反するような生き方によって様々な問題が表れている。その法則の中の最も重要なものが、全体最適であり関係性である。障害者の人たちも含めた人類すべてが、幸福で豊かな社会を築くため、お互いに豊かな関係性を保ち支え合って生きることが肝要である。どこかの大統領や首相のように、自分たちだけの部分最適や個別最適を目指すことの愚かさも、このドラマで描いてほしいものである。僕たちは奇跡でできているというドラマから目を離せない。

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