ハゲタカと日本人企業家の価値観

ハゲタカというTVドラマがNHKで初めて放映されたのが2007年だから、今から10年以上も前である。その時は、外国資本が日本の企業を食い物にするという物語だと勘違いして、視聴を避けていた。ところが、TV朝日でハゲタカを再ドラマ化してくれたお陰で、その誤解を解くことができた。ハゲタカというドラマは、外資による単なる企業買収や会社乗っ取りを描いた訳ではなかったのである。外資系企業の横暴さを描いたのではなくて、日本企業経営者のあまりにも低劣な価値観を暴き出した人間ドラマだったのである。

失われた30年と呼ばれている日本経済の低迷が、まだ解決する見込みもなく深刻さを増している。さらに後10年続くだろうと予測するエコノミストが多い。その原因は、経済政策の失敗にあるとされていて、アベノミクスが日本経済の立て直しをしてくれると期待する国民が大多数だった。しかしながら、円安と株価上昇などにより金融経済はある程度持ち直したが、実体経済は残念ながら低迷したままである。ましてや、起きるとされていたトリクルダウンはいまだに起きていないし、消費低迷が続いている。

ましてや経済政策の失敗とも言えるような社会問題が顕在化している。酷い経済格差が生じていて、貧困家庭が激増している。経済格差があまりにも大きいが故に、教育格差が生まれて、貧困が固定化してしまっている。このような状況に追い込まれているのは、政府による経済政策や福祉政策の失敗だけが原因ではない。経済界における企業経営にこそ問題があると言えよう。そのことをハゲタカという経済小説が、明らかにしようとしたのである。失われた30年は、日本の経済人が企業経営に失敗したから起きたと主張している。

ハゲタカという小説(TVドラマ)が描きたかったのは、外国資本が日本の経済を支配しようとする衝撃的な現実なのではなくて、そのような状況に追い込んでしまった日本の企業家たちの怠慢と卑劣さであった。外資系のファンドが日本の企業の買収や乗っ取りをするケースにおいて、その対象となってしまうのは経営的に行き詰まっているからである。そうなってしまった原因は、企業経営における失敗である。日本の企業経営が悪化したのは、グローバル化やコモデティ化による経済環境の変化によるとされているが、実はそれだけではないのである。

日本の経済は、輸出によって支えられていると思い込んでいる人が殆どであろう。だから、アベノミクスは輸出産業に向けた支援策である。円安支援、異常とも言える金融緩和による株価上昇支援をして、景況を起こそうとした。しかし、実際に実質経済は好転しないし、国民は好況を実感していない。消費支出が伸びないから、インフレターゲットは達成していない。日本経済は、輸出産業が支えているというのは幻想である。国内における需要の高まりがないと日本経済は活性化しないのだ。国内需要によって日本経済は支えられているという現実を認識して、実質経済を活性化しないと本当の好況はやって来ない。

国内需要を高めるには、正規雇用を増加させて実質賃金を向上させるしかない。企業経営者が今までやってきたのは、国際競争力を高める為に必要不可欠だとして、不正規雇用を増やし賃金を抑えてきたのである。そして、社内留保を増やし株価を上げることだけに奮闘してきた。社員は使い捨てにして、便利な派遣社員を利用してきた。それもすべては自分の地位や立場を守ろうとした経営者の低い価値観によるものである。自分たちの役員報酬を増やすことしか考えず、その為には製品偽装や違法行為を平気で行うような企業経営者の姿勢があった。ハゲタカファンドの鷲津は、そのような最低の経営者たちに鉄槌を加えたのである。善良な経営者や勤勉な社員を守ろうとしたのである。

グローバル化やコモデティ化などの経済環境の変化が、日本経済を駄目にしたのではない。日本人経営者の経営哲学があまりにも低劣で、あまりにも自分たちの利益を優先した企業経営をしたからである。ハゲタカというドラマは、その真実を知らせたかったのである。ハゲタカファンドの鷲津社長は、そういう意味では素晴らしい経営哲学を持った経営者である。そして、もっとも日本人らしい価値観を持つ企業家であり、日本という国を愛していた。だからこそ、TOBという荒療治を実行したのであろう。日本の卑劣な経営者たちに請われるままに、非正規雇用を増やすという間違った労働政策を推し進めた政治家にも、日本経済を低迷させた責任を自覚してもらわなければならない。

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