自己組織化を育む教育

自己組織化というのはシステム論を形成する重要な理論のひとつであり、簡単に言うと自律化と言い換えることもできよう。ノーベル賞を受賞した物理学者のイリヤプリゴジンが提唱した理論である。熱力学を応用した物理学の基礎理論であり、物体を形成する構成要素それぞれには自己組織化する性質があるという主張である。転じて、人体を構成する要素である細胞にも自己組織化する性質があるし、人間そのものにも本来自己組織化する性質を有していると考えられている。

この自己組織化する性質を、便宜的に自己組織性と呼ぶことにする。この自己組織性は自律性とも言い換えると前段で記したが、これは人間が生来有している主体性・自発性・自主性・責任性などと言えるものである。細胞の自己組織性については、最新の医学研究でも驚くような研究成果がもたらされている。人体というネットワークシステムは、細胞そのものが過不足なく全体最適を目指して活動していると共に、細胞によって組織化された骨格組織、筋肉組織、臓器組織などがやはり自己組織性をおおいに発揮していることが判明したのである。

この事実はどういうことを意味するかというと、人間という生物は生来自己組織性を持っていて、全体最適のためにそれぞれが豊かな関係性を発揮しながら活動する宿命を持って生まれているということである。全体最適というのは、自分だけの幸福や豊かさを求める個別最適ではなく、家族全体、地域全体、企業全体、国家全体、世界全体、宇宙全体の最適化のために貢献することを指している。言い換えると、人間とはみんなの幸福や豊かさ実現のために存在が許されているという意味である。したがって、自分だけの幸福や豊かさを追求するというのは、人間本来の生き方に反するということを示している。

したがって、あまりにも個別最適を求める生き方をすると不都合が起きるのである。例えば、自己中で身勝手な生き方をすると家族の中で孤立するとか、会社内で誰からも相手にされないとか、地域で評価されず見放されるようなことが起きる。さらには、主体性や自発性を失い、責任性も放棄するような生き方をするようになり、家族からも同僚や上司からも信頼を失ってしまう。自ら関係性を断ち切ってしまい、その影響で自己組織性も発揮できなくなるのである。本人だけでなく、周りの人々も身体の病気にしたりメンタルの病気にもなったりしてしまう危険が高まる。

人間という生き物は、本来自己組織性を持つ。この自己組織性を発揮するには、良好な関係性(ネットワーク)という条件が必要である。この自己組織性と関係性の大切さを認識して伸ばしてあげる教育をしないと、大人になってから不幸になる。したがって、幼児のときからこの自己組織性をしっかりと成長させる育て方が求められる。どんな育て方かというと、行き過ぎた『介入』をしないという姿勢である。なるべく本人が自ら気付き学び成長するのを待つという態度が大切である。そして関係性を感じられるように、愛情をたっぷりと注ぎ続けることである。

子育てほど難しいことはない。だからこそ、子育ては尊いことであるし自分を成長させてくれるミッションである。とかく、親というのは我が子の幸福を願うものである。ケガをしないようにとか病気にならないようにとか、細心の注意を払いながら育てる。それ故に、ついつい細かく事前に指示をしてしまうし、先回りをしてしまう。言いたいことやりたいことをついつい予測して助けてしまう。知能が高くて教養のある親ほど、こういう子育てをする傾向にある。こういう子育てが、実は自己組織性の成長を妨げてしまうのである。子どもが自ら考えて行動するという自己組織性を発揮することを阻害してしまうのである。

子どもが思春期になり反抗期を迎えたときに、あまりにも親に歯向かい反発する態度をした時に、ついつい父親は権力で子どもの反抗を抑え込む傾向がある。これも、子どもの自己組織性の進化を妨げてしまうことになる。学校においても、教師があまりにも子どもの自主性や主体性を無視して、すべて指示通りに行動させてしまうと、やはり自己組織性の成長を阻止してしまう。日本の学校教育というのは、この自己組織性を育てる教育をしていないと言える。中学校や高校の部活でも、自己組織化を妨げるような指導をしがちである。不登校やひきこもりが増加しているのは、自己組織化を認めない教育現場があるからではないかと考える。子どもたちの主体性・自主性・自発性を育んでいく教育をしないと、正常な自己組織性を発揮できなくさせてしまい、不幸にしてしまうことを認識すべであろう。

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