夫婦の対話がなくなる時

夫婦の会話がないという話をよく聞く。勿論、必要最小限の会話はするらしい。例えば、「飯」とか「風呂」とかの短く味気ない単語の羅列である。それ以外は、「今日の夕飯は要らない」とか「昼は外で食べる」といった手合いものである。こういう会話は、『対話』とは呼べそうもない。どちらかというと『独白』というようなものであろう。気持ちとか心は通っていそうもない。対話はダイアローグというが、独白はモノローグともいう。夫婦のダイアローグがもはや失われてしまっている家庭が非常に多い。

何故、夫婦間に対話(ダイアローグ)が失われてしまっているかというと、お互いに仕事を持っていて、妻は家事や育児に追いまくられる生活をしているという事情もあるという。夫は仕事で早朝から深夜まで働き尽くめ、家事育児には参加せず、たまの休日は一人で遊びに出かけるか家でゴロゴロしている始末。妻だけが一人で家事育児をさせられる、いわゆる「ワンオペ」の状況になっていて、妻のストレスと不満は頂点に達している。そんな状況の中で、どうして穏やかな対話が出来ようか。愚痴や不平の言葉しか出ないし、それを聞き流すしかないというモノローグ(独白)の世界に陥るのは当然である。

これは働き盛りの若い夫婦の例であるが、熟年や老年の世帯でもやはりモノローグの世界に陥っているケースが少なくない。妻が夫と一緒の空間に存在することを嫌っている。稀にその逆のケースもあるが、殆どの夫婦は妻が夫を避けている。夫と同じ趣味や運動を避ける妻が多い。同じスポーツをしていても一緒にプレーすることを避けたがるのである。夫婦ともにゴルフをするのにも関わらず、妻が夫とは一緒にラウンドしたくないという。さらには、女子会の旅行なら喜んでどこにも行くが、夫婦だけの旅は絶対にしたくないという妻が圧倒的に多い。そして、そう思っている妻の心情を、理解さえしていない。

どうしてこんな夫婦になってしまったのであろうか。夫は、妻子のために身を粉にして働いてきた。ようやく定年を迎え、子供たちも巣立っていき二人きりの生活になった。これからは夫婦で共通の趣味を持ち、温泉旅行を楽しみながら余生を送ろうと思っていたのに、妻がそれに応えてくれないのだ。例え一緒に旅行に行ったとしても、会話が続かないし、楽しそうな笑顔さえ見せてくれない。不機嫌な顔をずっと見せつけられたら、対話しようとする気持ちにもなれないだろう。どうしてダイアローグにならず、モノローグになってしまうのだろうか。夫には、その原因がまったく見当もつかないのである。

このような働き盛りの若い夫婦でも熟年夫婦でも、対話がなくなってしまった原因は、どちらか一方にある訳ではない。夫にも妻にもありそうだ。そして、夫婦ともに相手に原因があると思い込んでいるのである。だから始末に負えないし、対話の喪失が改善することはない。どちらか一方が重篤な疾病に罹ったり、介護の必要な状況に追い込まれたりしない限り、夫婦の対話は生まれないであろう。実に悲しい現実である。夫婦の対話がないというのは、共通言語がないということである。話が通じないのは当然である。

このように対話を失ってしまった夫婦は、何故そうなってしまったのかの本当の原因を知らないでいる。対話がなくなる真の原因は、夫や妻のどちらかに非があるからではない。夫婦の『関係性』が損なわれているからである。勿論、この関係性が希薄化もしくは劣悪化するそもそもの原因はある。どちらかというと、夫側にそのきっかけを作った責任はあるかもしれない。何故かというと、客観的合理性の近代教育を受けたお陰で、学業優秀な男性ほどこの影響を受けたからである。身勝手で自己中心的で、相手の気持ちに共感できない人間に成り下がってしまったのである。妻の気持ちに成りきって話を聞かないから、妻は話すことを止めてしまったし、対話しようとしなくなったのである。

こうした相手に共感しないただのモノローグ的会話になってしまい、夫婦の関係性は最悪のものなってしまい、お互いを支え合うという家族というコミュニティが崩壊することになる。当然、子どもにも悪い影響を与えてしまい、不登校、ひきこもり、家庭内暴力などの問題行動を引き起こす要因ともなる。家族という関係性は破綻して、機能不全家族になってしまう。対話が夫婦間になくなったことを端緒にして、こういう機能不全家族が始まると言っても過言ではない。だからこそ、夫婦はお互いの関係性に注目して、お互いの共通言語を紡ぎ出す努力を続けなければならないのである。それも、傾聴と共感がキーワードである。相手の悲しみや苦しみを、我がことのように感じられる感性と想像力が求められる。夫婦の関係性をどのように再構築すれば良いのか、真剣に考え直してみてはどうだろうか。

 

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