「万引き家族」が示す家族のあり方

「万引き家族」という映画が、カンヌ映画祭で最優秀のパルムドール賞を受賞したのは至極当然であると思った。なかなか鑑賞する機会がなかったが、ようやく昨日観る機会を得たのだが、実に素晴らしい映画だった。是枝監督は、家族の本来のあり方について観る者に考えさせる映画を作り、世に問い続けている。今回の万引き家族という映画も、家族について深く考えさせられる映画だった。万引きというセンセーショナルな題材を扱うが故に、賛否両論があるようだが、間違いなく世界に誇る傑作だと確信した。

福山雅治が演じた血縁のない親子愛の映画「そして父になる」、そして、三姉妹家族とそこに加わる血のつながらない妹との交流を描いた「海街diary」と、家族のあり方を是枝監督は描き続けている。何故も、こんなにも是枝監督は『家族』を描き続けているのであろうか。それは想像するに、現代の家族というコミュニティが家族本来の機能を失っていて、機能不全家族に陥ってしまっているからに他ならない。そして、その悲しい実態を巧妙に伏線として描きながら、血のつながらない家族の深い絆を描いて、あるべき家族像を示そうとしているのではないだろうか。

この映画は単なる貧困を描いている訳ではない。確かに底辺の生活者を描いてはいるものの、生活苦のために万引きをしている悲惨な家族がいるなんてことを社会に訴えたい訳でもないし、政治の無策を糾弾しているのでもない。そんなふうに感想を述べている映画評価もあるが、まったくの勘違いである。まるっきり想像力の働かない人たちである。是枝監督は貧困家庭を題材にしているが、万引きをするしかないほど貧しいが故に『絆』が強まっている家族を描き、経済的に豊かでありながら関係性の貧しい家族をそれぞれに対比させているのである。

この主人公たちの家族は、血縁がまるっきりない関係である。しかし、血が繋がっていないからこそ、深い絆で結ばれている。伏線として、実際には血が繋がっていると思われる三家族が描かれている。ある風俗店で働く若い女性の育った家庭は、裕福であるがその家族の関係性は希薄化していて、その若い女性は愛の感じられない家庭を捨ててしまっている。その風俗店にやって来る若い男性は発音障害を持っているが、明らかに愛着障害と想像させるから、機能不全家庭に育ったのであろう。ある虐待を受けている少女の家庭は、母親もまた夫から暴力を受けていて、家庭内暴力の機能不全家族である。

是枝監督は、現代の家族というコミュニティがあまりにも機能不全に陥っていて、その原因が関係性の希薄化にあると認識していると思われる。何故関係性が劣悪化しているかというと、血縁があるからこそ家族どうしが、お互いの生き方に介入し過ぎているからではないだろうか。こうなってほしいという気持ちが強すぎて、相手を支配しようとしている。一人の人間としての尊厳を認めないから、関係性が悪化しているのである。夫婦間や親子間で、暴力で相手を支配する愚かさを描いている。関係性がなくなってしまっている機能不全家族と、お互いの生き方に介入しない絆の深い家族の姿を対比させている。

貧しいが故に万引きする家族の関係性は、とても豊かであり温かい。血が繋がらないせいなのか、家族に何も求めない。けっして相手を支配しようとしないし制御しようともしない。愛を求めず、無償の愛を与えるだけである。だからこそ、相手を愛しく思い合い、けっして離れようとしない。そして、家族の秘密を共有して他言しないと誓い合うのである。さらには、血のつながらない家族を守るために自己犠牲も厭わない姿は、感動を呼び込むのである。ここに理想の愛が溢れる家族の姿があるのだ。

この家族の関係性を豊かにしているものは何かというと、共通言語であろう。この理想の家族はお互いの話を傾聴し、気持ちを理解しようと努力している。お互いに心を開いた本音での対話が繰り広げられる。だからこそ、家族どうしが解りあえるし、お互いの信頼関係が生まれるのである。是枝監督が描き出しているこの家族の豊かな関係性を示す名シーンがある。花火大会の花火を家族全員が軒下から見上げるシーンである。実際に花火が見えないのにも関わらず、皆が同じ方向を見上げている。その笑顔が素晴らしい。家族というのは、本来こういうものなんだろうなとほのぼのとさせられる。機能不全家族を癒すのは、共通言語による開かれた対話であり共有体験であると、観る人に気付かせてくれる素晴らしい映画である。

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