佐藤初女さんとオープンダイアローグ

2016年の2月に佐藤初女さんは、永遠の眠りにつかれてしまわれた。まだまだ彼女を必要としていた人は多かった筈だ。惜しい人をなくしてしまった。彼女をリスペクトして、イスキアの郷しらかわを立ち上げのであるが、まだまだこの施設が世間には知られていないし、いろんな面で佐藤初女さんには遠く及ばない。最近、オープンダイアローグという精神療法を学んでいるが、研究すればするほど佐藤初女さんの対話手法におそろしく似ていることが判明したのである。心が折れて森のイスキアを訪れた方々に佐藤初女さんが応対していた方法は、まさしくオープンダイアローグだったことに気付いて驚いている。

佐藤初女さんの「森のイスキア」は、1992年に弘前市の郊外に施設を移転した。元は弘前市内の自宅に「弘前イスキア」を設立したのだが、訪れる人も増えて手狭になったこともあり、岩木山が見える自然豊かな地に「森のイスキア」として移転した。心が傷つき、心が折れて、もう生きて行く気力も失ってしまわれた方、または身体疾患によるあまりの苦しみに、死んだほうがましだと思うような方々をお迎えして、心身ともに癒してさしあげていた。その手法は、特別な心理療法や精神療法を駆使していた訳でもない。様々な助言や指導をしたのでもない。ただ、黙って話を聴いていただけだという。

佐藤初女さんは、徹底して傾聴と共感を実践したのである。そして、温かくて真心がこもった食事でもてなしたのである。特に、佐藤初女さんのおむすびは食べた人を感動させて心を癒した。特筆すべきは、佐藤初女さんの優しい眼差しと思いやりの対話であろう。彼女は、心が折れてしまって話すことさえままならない状況でも、本人が話し出すまで黙って待っていたという。最初は、なかなか言葉を紡ぎ出すことが出来なかったのに、佐藤初女さんの温かい応対に徐々に心を開いて、少しずつ話し出すという。そして、彼女は助言する訳でもなく何らの介入もすることなく、ただ黙って聞いていただけである。

何等の指示や指導などもしなかったであろうが、佐藤初女さん自分自身の生い立ちや生きてきた経過などは話したと思われる。それはお互いの信頼を得ることにつながる自己開示でもあったと想像する。彼女の半生は、それこそ苦難困難のイバラの道を歩むようなものだった。女学生の時に、肺結核に罹患した。それから17年間もの間、喀血しながら病気に苦しんだ。その当時は難治性の病気で死を覚悟しなければならなかったであろう。ある時、この病気は薬や注射では治らないと悟り、食事で治すんだと、命をいただく食事を心がける。そして、見事に完治する。その実体験を話すことで、訪れた方々に食の大切を示したと思われる。

佐藤初女さんの傾聴と共感力は、それこそ半端ない。相手の話をけっして否定することなく、ただ黙ってうんうんと頷きながら聴くだけである。それも、相手の気持ちに成りきって、自分のことのように悲しみ苦しみ、時には涙を流す。こんなにも自分のことを理解してくれた人が今までいなかったから、一度で佐藤初女さんの虜になってしまう。さらに佐藤初女さんは、クライアントよりもけっして優位に立つことはなく、常に対等の立場であった。そして、クライアントに寄り添うという立場を守ったのである。

通常、医師やセラピストは患者よりも優位に立つ。そして、何らかの指示や指導をする。患者は、自分がセラピストから見下されているとは感じながらも、治療してくれるからその立場を容認してしまう。しかし、自分の気持ちを分かってくれない苛立ちを持つし、親身になってくれない治療者を信頼しないから、自ら変革することを止めてしまう。オープンダイアローグのセラピストは、佐藤初女さんと同じようにクライアントとその家族を見下すことなく、否定せず、介入せず、ただ傾聴と共感をするだけである。時折、質問をするものの、それも制御しようしての質問ではなく、クライアントの気持ちや本音を引き出すだけのためにする。

人間及び家族というひとつのシステムは、自己組織化する。しかも、オートポイエーシス(自己産出)という特性を持つ。つまり、自分の肉体や精神のネットワークを自ら図るし、家族という共同体は関係性をおのずと深めるのである。そして、自らがその問題解決を図ろうとするし、自らが全体最適のために変革し進化するのである。これが第三世代のシステム論である。オープンダイアローグはこの第三世代のシステム論に準拠している。だから、クライアントにもその家族にもインプットしないし、アウトプットも求めない。自らの自己組織化とオートポイエーシスを信頼して、任せるのである。だから、クライアントが自ら気付き変革するのである。まさに何も介入せず、何も求めない佐藤初女さんの態度と姿勢と同じだ。それ故に、佐藤初女さんは多くの悩める人々を救うことが出来たのである。

※イスキアの郷しらかわは、佐藤初女さんと同じようなおもてなしを心がけています。クライアントとオープンダイアローグという開かれた対話をしています。科学的に根拠のある対応をさせてもらっています。是非、問い合わせフォームからご質問ください。

“佐藤初女さんとオープンダイアローグ” への4件の返信

  1. 初めまして。読ませていただき、コメントせずにはいられないほどの共鳴と感動を感じました。
    青森県在住の福岡と申します。初女さんに憧れ、いつかは湯段の青空の下でオープンダイアローグをしたいと、研修中です。
    週末のみ 青森県黒石市で、聴き処まんどろ の名で ココロほぐしやオープンダイアローグを参考にした形の実践を行っています。
    舟木様のことも 初女さんの記事を読んでいてネットで良く拝見させていただいていました。
    いつかは、是非 お伺いさせて下さい。
    年末年始 お忙しい中と存じますが
    どうぞ御身体にお気を付けて 良いお年をお迎え下さい。
    読んでいただきありがとうございます。

    1. 福岡美樹さま、コメントありがとうございます。素晴らしい活動をされていらっしゃること、心強く思います。福岡さまのような方が、初女さんのように活動したいと準備を重ねていらっしゃいます。いつか、皆さんとネットワークを組んで一緒に何かの活動をしたいと、密かに思っています。その際は、是非にもご一緒しましょう。

      オープンダイアローグを何度か実践していますが、なかなか難しいというのが実感です。二人以上のセラピストやカウンセラーが必要ですし、適切にリフレクティングをすることが求められます。クライアントに助言したり指導したりするような気持ちがあると、相手は拒否してしまいます。当人が自ら気付き変わろうとするよう、どのようにして気持ちを引き出すかが問われます。つまり、当事者の自己組織化やオートポイエーシスを、どのようにサポートしていけは良いのか、常に悩んでいます。

      まだ、コロナが収束していませんから、休んでいますが、再開しましたら、是非いらしてください。情報交換をいたしましょう。いつか、八戸の「ゲストハウス繭子の宿」という処に行きたいと思っています。行くときはご連絡します。

      1. 舟木 様
        お返事いただき、ありがとうございます。
        とても嬉しく思います。
        色々なネットワーク作り 微力ながら是非参加したいです!
        オープンダイアローグ研修に参加したばかりで、右往左往しています。
        わからないことばかりですが、体験するたびにオープンダイアローグの奥深さと魅力にハマっています。
        八戸も是非! ネットで検索したら、行きたくてパタパタしておりました(笑)
        その時は、どうぞよろしくお願い致します。

        1. こちらこそ、よろしくお願いします。
          オープンダイアローグの講演を福祉施設の職員対象に何回か実施しています。もし講演のビデオ録画が欲しければ、お送りしますよ。連絡先や住所を、このコメント欄では個人情報が漏れてしまいますので、問い合わせフォームから返事をいただけますでしょうか。繭子の宿のオーナーの西塚繭子さんとは、電話でも話しています。初女さんのような温かくて癒される宿を目指しているようです。よろしくお願いします。

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