富山の交番襲撃事件に思うこと

富山市の交番が襲撃されて、警察官が刺されて殉職し、奪われた拳銃で警備員が射殺されたという痛ましい事件が起きた。亡くなられた方々のご冥福を慎んで祈りたい。それにしても、残忍な事件が相次いで起きている。ついこの前は、新幹線内で悲惨な殺傷事件が起きた。共通しているのは、不登校からひきこもりの経過をした青年で、家庭内暴力があったらしいとのことである。くれぐれも言っておきたいが、ひきこもりで家庭内暴力を奮う若者がすべて危険だとは、絶対に思わないでほしい。そんな色眼鏡で見ることだけはしないようにと、強く言っておきたい。

彼らが悪くないとは言わないが、特別に凶悪な人間だとは思ってほしくない。マスメディアは、このような凶悪事件が起きる度に、いかに彼らが異常だったかのような報道をする。そして、自分たちは正常だと言わんばかりに批判するし、彼らの親に対しても攻撃的な報道が行われる。果たして、そんな報道だけで良いのだろうかと、凶悪事件の報道に接する度に思ってしまう。こんな凶悪事件が起きると、犯人からの攻撃からどのように守るかという再発対策だけを取り上げる。本来は、こういう悲惨な事件を起こさないような社会を創造するために、コミュニティケアについて議論すべきだろうと思う。

凶悪事件を起こした家庭では、家族というコミュニティが機能していなかったと見られている。おそらく親子関係は希薄化、もしくは劣悪なものになっていたように言われている。さらには、親どうしの夫婦関係にも問題があったとも想像できる。そうなってしまった原因は、彼ら家族だけに責任がある訳ではないと思える。社会全体や地域全体のコミュニティに問題があったように思えて仕方ない。コミュニティ(生活共同体)は、それを構成する人のお互いの関係性によって成り立っている。その個人に問題があるのではなくて、その関係性にこそ問題の根源があると見るべきだろう。

不登校とひきこもり、または生きづらさを抱える社会人とその家族を支援していて感じるのは、その当事者だけでなく、そこに生きている社会というコミュニティ、学校や職場、または家族の関係性にこそ問題の本質が隠れているという実感を持つことが多い。つまり、関係性が希薄だったり劣悪だったりした時に、いろんな問題が起きているのである。ということは、この関係性を改善することが出来れば、諸問題が解決する方向に向かうと確信している。言い換えると、問題の責任は本人とその家族だけでなく、社会を構成している我々にも責任があるという訳である。

新幹線殺傷事件や交番襲撃事件の犯人たちは、この社会に相当な生きづらさを抱えていたに違いない。そして、この生きづらい社会に適応するのが困難であり、相当悩んで苦しんでいたに違いない。そんな彼らを助けてあげることが出来なかった我々に責任がないとは言い切れないと思われる。甘ったれたことを言うな、みんな生きづらさを抱えても頑張っているんだという方もいるに違いない。確かにその通りである。それでもみんなその生きづらさを抱えながらも懸命に仕事したり学業に精を出したりしているのだ。だから、人のせいにしてはならないというのも正論なのである。

だとしても、こういう生きづらさを抱えて、犯罪行為を起こしてしまうまで、社会に対する怒りを増幅させる前に、誰かが救えなかったのかという思いがある。子どもがひきこもりであり家庭内暴力で悩んでいる家庭のご両親から相談を受けることが多い。そういうケースの場合、家族の関係性に問題を抱えていることが多く、特に父親が子どもに対して嫌悪感を持つことが多い。あまりにも父親が子どもの生き方を認めたがらず、子どもの言い分に耳を傾けないケースが多いのである。確かに育てにくい子どもだということがあるが、あるがままに子どもを敬愛して信頼する気持ちが少なく、良い子でなければ愛さないと頑固な態度を取ることが多い。

そして、父親の子どもに対する見方を、そのまま母親が認めて、同じように対応していることが多い。こういう場合、今までどのように治療していたかというと、家族療法という形で、家族に対するカウンセリングを実施するケースが多かった。ところが、こういう問題の家庭において、父親は聞く耳を持たないし、そもそも家族カウンセリングを拒否することが多い。いくら周りの人が助けの手を差し伸べても、その助けを受け入れることは少ない。このような場合、オープンダイアローグこそが有効だと確信している。否定せず、介入せず、あるがままを認めて受け入れる「開かれた対話」であるなら、両親も自ら変化するに違いない。このようなコミュニティケア的支援を、社会がして行く責任を負っているのだと強く思っている。

 

※イスキアの郷しらかわでは、オープンダイアローグの研修会を開いています。また、求めがあれば、社会的コミュニティケアを支援いたします。お子さんのひきこもりや家庭内暴力でお困りの方は、お問い合わせください

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