メンタル不調の特効薬はないのか

不登校やひきこもり、そして休職をするひとつの要因にメンタル不調がある。そして、そのメンタル不調が改善しなければ、不登校やひきこもりからの脱却も難しいし、休職からの職場復帰の可能性も低くなる。勿論、完全にメンタル不調を完治させなければ復帰出来ない訳ではないが、完治しなければメンタル不調の再発も多いから、何度も休職を繰り返してしまう。そして、このメンタル不調を治癒させるのは、非常に難しい。メンタル不調を治す特効薬がないからである。

メンタル不調をある程度軽減する薬はある。また、カウンセリング、マインドフルネス療法、認知行動利療法、家族療法、ナラティブセラピーなど、各種の心理療法や精神療法によって症状を軽減することは可能であろう。実際に、様々な心理療法や薬物治療によって症状が和らいで社会復帰するケースが少なくない。しかし、どうやってもメンタル不調が改善しないケースがあるし、休職を繰り返す職員もいるし、不登校やひきこもりに何度も陥る生徒や学生も少なくない。メンタル不調を治す特効薬は存在しないのである。

メンタル不調が改善しないのは、学校や職場の環境が変わらないという事情もある。ある程度症状が改善して学校や職場で出始めても、本人にとってはまた同じ辛い環境に置かれてしまえば、メンタル不調を再発するケースが少なくない。職場や職種を変えたり会社を変えたりしても、不思議と同じような苦しい環境に遭遇することが多いし、同じような嫌な上司に巡り合ってしまう。学校を転校や転学したとしても、また嫌な学友や教師と出会うことが多いのも事実である。学校と職場は、とこに行っても心が傷ついてしまう生きづらい場所である。社会全体が生きづらいのだから、どこに行っても同じ境遇になるのは当然である。

ということは、各種の心理療法や薬物治療を受けたとしても完治するケースが非常に少ないし、社会復帰することが困難であるということである。そして、このメンタル不調と生きづらいと感じる心を改善する完璧な方程式は存在しないということであろう。ましてや、メンタル不調に陥った人の生まれ育った養育環境も様々であるし、考え方や認知傾向もそれぞれ違っている。親の価値観も違うし、本人が獲得した価値観、またはメンタルモデルも相違点がある。さらにやっかいなのは、固定されたメンタルモデルは余程のことがないと変えられないのである。だから、メンタル不調は治りにくいのである。

メンタル不調を治す特効薬や方程式があったとしたら、こんなにも患者が多くない筈である。そして、年々増えて行くこともあるまい。うつ病に劇的に効くと言われて登場したSSRIは、逆にうつ病患者を何倍にも増やすという不思議な現象を引き起こしている。統合失調症の患者は、次第に強い薬を処方され続けて、最後は大量の薬漬けにされるケースが非常に多い。減薬・断薬に積極的に取り組んでいる精神科医はほんの一握りだけである。日本の精神医療というのは、実に貧弱だと言えよう。

メンタル不調を治す特効薬もないし、これぞという精神療法や心理療法がない中で、一筋の光明が見えてきたのである。それは、フィンランド発の治療法でオープンダイアローグという精神療法である。今までの精神療法や心理療法では、メンタル不調の原因やきっかけに注目して、その原因をつぶす対策の治療方針を立てて、治癒を目指して努力してきた。ところが、このオープンダイアローグは完治を目指さないのである。メンタル不調の原因を突き詰めたり、病理を明らかにしたりしないのである。薬剤投与も極力しないし、入院治療も積極的にしない。それなのにメンタル不調が完治するし、再発も極めて少ないというのだから驚くばかりである。

このオープンダイアローグという手法は、「開かれた対話」と訳されていて、ただ対話を徹底的に繰り返すだけである。それも参加者全員が心を開いて、傾聴し共感するだけである。患者と家族などの関係者と複数のセラピストや医師がミーティングを、発症の24時間以内から連日に渡り10日以上も行う。統合失調症は精神疾患の中でも非常に治療が難しく、薬物治療が必須であり、予後もけっしてよくない。入院期間も長期になる難治性の疾患だ。それがこのオープンダイアローグによって完治して再発しない患者が続出している。このオープンダイアローグは、PTSD、パニック障害、うつ病、双極性障害などのメンタル疾患にも有効であり、ひきこもりにも有効だと言うのだ。こんな夢のような治療法が日本でも広がれば、精神医療に革命が起きるに違いない。大きな期待を抱いている。

 

※イスキアの郷しらかわでは、オープンダイアローグの研修会を開催しています。個人レクチャーもいたします。実際にこのオープンダイアローグの研修を受けた、ひきこもりでDVをする娘さんの対応でお困りのご両親が、問題行動をするお子さんの本心がよく解るようになったとびっくりされていました。研修を受けただけで、自分の言動を自ら変革しようと決意されたのです。ひきこもりや不登校のお子さんを持つ保護者の方にお薦めです。

“メンタル不調の特効薬はないのか” への2件の返信

  1. こんにちは。いつも、舟木さんの投稿を拝読しています。
    うちの三男も、引きこもって数年になります。いろいろな方が支援の声をかけて下さるのですが、彼は外に出たがりません。辛うじて、私や夫の手伝いをするために外出します。
    見た目や物腰は全く普通の若者です。
    首に縄をかける訳にもいかないので、彼のやる気を待って今日まで来ました。本人もこのままではダメだと色々考えてはいるようです。
    今回のお話にあった研修は、私が参加出来ますか?息子を連れ出すことは難しいと思いますし、私の対応にも、問題があるのか?正直わからなくなっています。
    急ぎませんが、彼の若い貴重な時をどうしたら充実していけるか考えています。とりとめがなくて申し訳ありません。

    1. 三澤千可子さま、今回のオープンダイアローグの研修は、要請があればいつでも開催します。会津で何人か集めてもらえたらレクチャーに参りますし、こちらにいらっしゃれば個人レクチャーもいたします。昨日の研修では、驚くような化学反応が起きました。当事者は参加しませんでしたが、保護者の方が気付いたことがたくさんあり、ひきこもりの娘さんへの対応がまったく違うものになると思われます。今までは、何とか娘さんを変えよう変えようとしたのが、自分たちこそ変えなければならないのだと自ら気付いたようです。私もびっくりした変化でした。家族療法は保護者を変えようとするから変わらないのです。オープンダイアローグであれば、対話を続けるだけで保護者と当事者が自ら気付き変わるのです。

      息子さんが外に出たくないし、医療やカウンセリングを受けたがらないのは当然です。ほとんどのひきこもりの若者は、診断を受けるのが不安ですし、治療を拒否したがります。病気でないのですから当たり前です。メンタルの障害があるはずだと思い込みたがる保護者に反発しています。そこから間違っています。精神医療の専門家は、クライアントと家族に介入したがります。何か原因があると思いたがるし、家族に原因になる病理があるはずだと考え、それを無理にでも見つけたがります。これでは、本人も家族も変化しようとはしません。否定を前提とした対応に拒否するのは人間なら誰でも同じです。

      オープンダイアローグは、すべて当事者に委ねます。どのように変化・進化するのかは、クライアントが決めるのです。支援者はただ質問するだけです。それも否定せず指示もせず介入もせずが基本です。できれば、セラピストは2名以上が望ましいのです。特に、このオープンダイアローグは資格が不要です。もうひとりこの知識と技能を獲得した人が必要です。相当な基礎知識と対話能力が必要ですから、普通のセラピストでは無理かもしれません。なんとか探し出してみます。

      セラピストが二人が必要でも、しばらくの間は私ひとりで対応します。息子さんとお母さん、そして旦那様がいらっしゃるときに、ご自宅にお邪魔してもかまいません。実父の方がいらっしゃれば一番良いのですが、それは無理でしょうからね。まずは、オープンダイアローグの研修をお母さんが受けていただくことにしましょう。

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