可愛い子には旅をさせよ

『可愛い子には旅をさせよ』という諺は、我が子の自立を促すには子どもに独り旅行をさせるのが良いという意味であると思われる。それが転じて、あまりにも子どもに対して過干渉だったり、支配したり、コントロールしたりすると、自立を阻害してしまうから注意しなさいということも教えてくれている。親というのは、我が子に対して心配するあまり、危険性の少ない安全な道を歩ませたがる。先回りしたり同行したりして、子どもの危険を取り除くことをしてしまう。それが子どもの成長を遅らせてしまうことに繋がるのに、親心というのは困ったものである。親離れ子離れできない親子が多い。

現代では、若い女性の一人旅も多くなったが、危ない輩もいることからリスクもある。ましてや、中学生や高校生ならなおさら危ない。したがって、中高生の我が子を一人旅させるのは躊躇してしまうことだろう。可愛い子には旅をさせよと言っても、あまりにも危険な現代では二の足を踏むのは当然だ。そういう場合、昔は我が子をこのように自立をさせる方法があった。会津地方で古く行われていた方法である。『飯豊山参り』と呼ばれていたと記憶しているが、13歳~15歳の子どもたちを飯豊山に登山させていた行事があったのである。

武士は12歳~15歳に元服という、成人として認める儀式をする。町民には、元服という儀式はなかった。この元服に替わるものとして、飯豊山参りをしていたのではないかと思われる。数え年13歳~15歳になった子どもを近くの神社に1週間お籠りをさせて、身も心も浄める。そして先達と呼ばれる経験豊かな大人が先導して、飯豊山にお参りする。飯豊山は霊峰であり、しかもアプローチがとんでもなく長い。さらに、登山口から飯豊山本山の山頂まで、大人でも8時間くらい要する。当時は車もなくて、長いアプローチも歩いて行ったので、おそらく行き還り10日間ほど要したと思われる。

飯豊山は毎年のように沢山の登山者を迎えているが、今でも上級者でしか登れない。長い時間を要するということもあるが、かなり標高差がありきつい登りもあるし、危険な箇所がいくつもあるからだ。今でも滑落して亡くなる人も少なくない。当時は、登山道だって今のように整備されていないから、飯豊山参りで滑落して亡くなった子どもたちも相当いたらしい。大人の先達の指導に従わず勝手な行動をしてしまう子どもは、危険な目に遭ったであろう。子どもたちにとって、飯豊山参りはかなり厳しい一大イベントであったろうし、相当なプレッシャーがあったに違いない。

私が小さい頃になくなってしまった行事なので、自分は経験していない。ただ、幼児期にこんなことを言われて育った。『嘘をついたり人を傷つけたりするような悪いことをすると、飯豊山参りで神様が怒って落っこちて死ぬぞ』と脅されて育てられた。当然、滑落死することもあったと聞いていたから、神様が見ているぞと言われれば、誰が見ていなくても良い子であらねばならないと心に誓ったものである。小さい頃は、神様とか仏様という存在は絶対的なものであり、胡麻化しの効かないものだと信じていた。今はこのような教えがないというのは、子どもの健全育成にとって大きなマイナスであろう。

飯豊山参りをすることで、子どもたちは身体的にも精神的にも大きく成長して名実ともに『大人』になった。これだけ危険で厳しい行事を成し遂げたという達成感と、神様に自分の生き方が認められたという自己肯定感が、精神的な自己成長をさせたのであろう。忍耐力やどんな厳しい試練にも負けない精神力が養われたに違いない。飯豊山参りを成し遂げた若者たちは、人間を超越した『神』という存在を信じたであろうから、自分を偽るような生き方をしなかったと思われる。死に直面した経験は、命の大切さを知り、他人を傷つけるようなことはしなかった。飯豊山参りをした子どもたちは、立派な大人になったのである。

今は、このような飯豊山参りという風習がなくなったというのが、とても残念である。現代の若者が自立できていないというのは、このような自立支援プログラムがなくなってしまった影響もあろう。このような飯豊山参りほどのハードな行事ではなくても、子どもに厳しい登山をさせることで、自立を促すことに繋がるように思える。特に、親が同行せずに、先達のような他人に預けて、厳しい登山をさせることが子どもの自立支援になると確信する。我が子を心配過ぎて、常に自分の目が届かないと不安な親は、他人に預けて子どもに登山をさせてみてはどうだろうか。思い切って可愛い子には旅をさせてみようではないか。

 

※イスキアの郷しらかわでは、登山による子どもの自立支援をしています。飯豊山の登山案内もしますが、日帰りでの登山は勿論のこと、1泊程度の日本アルプスや東北の名山の登山ガイドもいたします。子どもさんだけを預けてもらってもいいですし、心配ならば最初だけは保護者が同行しても構いません。登りながら子どもさんたちにいろんな人間教育(生きる智慧)もさせてもらいます。問い合わせフォームからご相談ください。

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