NPOで人材育成が出来ない訳

NPO法人は、経営としての自立は出来ないものの、人材を育てるという役割を果たしてくれていると、肯定的に見ている人は少なくない。確かに、ある意味人材育成という点ではある程度の貢献をしているように思える。県からの委託事業において、東日本震災後に緊急雇用委託事業として多大な金額が福島県を始め、宮城県、岩手県などでばらまかれた。その緊急雇用委託事業として多くの人材を雇用できて、NPO法人が人材育成に力を注いだのも事実である。

しかし、緊急雇用委託事業で育成した人材が、どれほど一般企業に厚遇で採用されただろうか。または、NPO法人で学んだことが、どれほど民間企業で生かされたのであろうか。NPO法人で、18年間に渡り実際にいろんな人材の育成に携わってきての感想であるが、満足な成長や進化を遂げた職員は残念ながら居なかった。勿論、私は非常勤の理事・役員であるし、指導専門の事務局も居たので、あまり出しゃばることを控えていたせいもあるが、満足な指導が出来なかった。それじゃ、専任の理事がしっかりと指導教育をしたのかというと、残念ながら満足の行く成長は出来なかったと言わざるを得ない。

確かに、ごく一部の人材について言えば、素晴らしい自己成長を遂げたと言えるかもしれない。しかし、それは例外中の例外であって、日々の事務的な業務に追われるのが常であり、民間企業にとっても必要不可欠な人材として成長できたケースは殆どない。何故、そんな結果になったかというと、NPO法人において人材を立派に指導育成するような常勤理事や事務局が存在しないからである。ごく稀に自己成長できたケースは、自ら学ぼうと決意し自分で勉学に励んだ人だけである。内部の人材育成によって見事に自己成長を遂げたと言える例は、殆どないと言っても過言でない。

NPO法人は人材不足である。勿論、事務員としてある程度使える人材はいる。しかし、自分で発案して企画し、デザイン思考に基づいて計画立案し、各行政機関や民間企業と調整しながら営業活動をして、事業管理をすると共に微調整しながら完遂し、すべてをマネジメントできる人材は皆無である。ましてや、リーダーシップを取りながら完璧なコーチング技法や心理学的な育成手法を駆使して、優秀な人材を育成できる常勤理事や事務局長はいない。NPOの常勤で働く人材は、残念ながら民間企業でも活躍できるような人材がいないのである。

民間企業において、それこそ将来にトップに立てるような優秀な人材は、間違ってもNPO法人に転職するようなことはあり得ない。どちらかというと、民間企業で役に立たないというか、他の役職員と良好な関係性が保てないような社員がNPO法人に転身するケースが多い。非常勤のNPO役員であれば、民間企業で活躍している人材が兼務する例もあるが、常勤の役職員ではあり得ないのである。1千万円前後の年収を棒に振って、NPO法人に年間300万円以下の年収で転職するなんて、考えられないのである。

人材が成長する為には、優秀な『師』が必要であろう。その師とは、圧倒的に優秀な能力や経験も必要であるが、関わる人すべてがリスペクトしてしまうような人間力が求められる。こういう人材が、民間企業には多く存在するが、残念ながらNPO法人の常勤役職員には居ない。NPO法人の役職員の理念は、立派であるのは間違いない。しかし、その理念は、経済的しかも精神的な自立に基づいたものでないと、所詮付け焼刃的なものでしかない。言葉だけの理念は、人々をけっして感動させないし、社会の意識改革を果たすことは出来ない。行動や実績を伴わないと、人々は信頼しないのである。

民間企業にだけ優秀な『師』が存在する理由は、次の通りである。民間の営利企業において存続と発展をし続ける為には、役職員はそれこそ一丸となって不退転の決意で努力する。民間企業は多くのステークホルダーを背負っているから、その利益を損なうようなことをしてはならないと、真剣に我が身を削ってでも精進せざるを得ない。残念ながら、NPO法人の経営にはそれほどの真剣さは感じられない。人材は切磋琢磨されないと成長しないのである。民間企業の役職員に、優秀な人材と『師』が育つのは当然である。NPO法人でも優秀な人材を育てる為には、ビジネスとしても成功するような自立経営が必要不可欠であろう。

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