一人でも真の味方がいれば

不登校・ひきこもりの青少年が増えている。学校も含めたこの社会があまりにも『不寛容社会』であるが故に、学校や職場などに居場所が見つからず、不登校やひきこもりという選択をするしかなかったと思われる。そんな不登校とひきこもりの状態にある青少年は、何とかこの状況から抜け出したいと、懸命にもがき苦しむ。しかし、焦れば焦るほどメンタルや肉体は傷つくし、自己否定感は益々強くなる。だから、不登校・ひきこもりの状態を抜け出せないのである。

保護者、学校関係者、職場の人たちは、何とか救い出したいと努力をするが、一度不登校やひきこもりの状態になってしまうと、どんな方法を駆使したとしても救い出せないのが実情である。メンタルの障害を何とかしなければと、医療や福祉、または精神保健の専門家に助けを求めるが、一時的な症状の緩和は認められるものの、残念ながら完全復帰は難しい。深刻なのは、本人が治療や復帰に対して消極的であるという点と、一度復帰したとしても再度不登校やひきこもりの状態に陥ってしまい、益々症状が強化されてしまうことである。

不登校とひきこもりの青少年に共通しているのは、非常に強い孤独感である。つまり、自分はひとりぼっちだという感覚に陥っているのだ。親もいるし、先生もいるし、上司や同僚もいるし、精神保健の専門家や医師も味方だと言っているものの、自分の本当の味方だとは当人が認識していないのである。ここに、実は社会復帰できない理由があると思われる。「私はあなたの味方ですよ」と温かく言葉掛けをしているのだが、その言葉が実は当人の心には響いていないことが多い。自分の真の理解者は、誰もいないんだと思い込んでいるのである。

何故、彼らはそんな孤独感を抱えてしまっているのであろうか。親も、先生も、上司や同僚も、精神保健の先生たちも、みんなが心配している。それぞれが、当人の味方になりたいと思っているのは間違いない。しかし、当の本人は味方と認識していないのである。それは、味方になり支援しようと思っている人たちが、その当事者であり利害関係者であるからである。当人を何とか完治させて、社会復帰させようという強い意思を持っていることが、ありありと本人に解ってしまっているが故に、皮肉にも『真の味方』になり得ていないのである。

悩み苦しみ、自分を否定して、自らを責め抜いてしまっている人間に、今の考え方や生き方が間違っていると、益々否定するようなことを知らず知らずのうちに言ってしまっているのである。言葉に出さずとも、あなたの生き方には同意できないという行動、つまりは不機嫌な態度や悲しい表情、無言の圧力を与え続けているのである。どんなに優しい言葉や態度であっても、本人の行動を否定するような意思が見え隠れしていたとしたら、当人はその人間を心から信頼することはないし、心を開くことはあり得ない。だから、味方とはなり得ないと言える。

まず大切なのは、悩み苦しんでいて、自分自身を情けなく思っている当人に対して、まるごと否定せずに受け止めることである。ひとつひとつの行動も、発する言葉も、考えも、性格も、人間性も、一切否定せずにすべてに共感することである。彼らの悲しみ苦しみ悩みをまるごと受け容れて、同じ感情を共有することが肝要であろう。例え、その認識や考え方が間違っていたとしても、間違いだと指摘せず、まずは共感することが必要なのである。そうすれば、彼らの心の奥底までも入り込むことが出来て、真の味方として認知してくれるのである。

そのうえで、否定していると思われないように優しく質問をしてあげるのである。それは、共に学び気付きたいという態度で、けっして相手に何かを気付かせようとする態度を取ってはならない。そうすれば、彼らは自分のこだわりや固定観念に対して、初めて疑念を抱くことが出来て、ニュートラルな考え方にシフトできるようになる。そして、新たな正しい物語を自分の心の中に築き始めることができるのである。その新たな物語を再構築するのを、そっと寄り添い支援するだけでいい。これが彼らの認知を再構築できる唯一の方法である。誰か一人でも、彼らの真の味方になりえることが出来たとしたら、苦しい生き方から抜け出せること可能になる。真の理解者が一人でもいれば、彼らは勇気を持って自立に向かって歩み始められるのである。

※「イスキアの郷しらかわ」での相談業務は、真の味方(理解者)になれる『ナラティブアプローチ』の手法を取っています。私たちは、利害関係者でもありませんし当事者ではないので、クライアントに対して支配的でもないしコントロール的でもありません。保護者に対しても、本人に対しても何も否定せずまるごと受け止めて共感をする態度で相談を受けています。相談料も研修料も頂いていませんから、あくまでもボランティアなので、相手に何も求めませんし、相手の尊厳を認めます。支援とは、本来はこのようにありたいものです。

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