視線恐怖症を克服する

他人の視線に対して異常に反応してしまい、恐怖に感じるメンタルの障害がある。対人恐怖症の一種であると定義されていて、それは視線恐怖症と便宜的に呼んでいる。正式な病名ではないらしい。日本人に特に多いという。『恥』の文化が浸透している日本人は、他人の目を気にする傾向にある。自分を見る目が、とても気になるのが日本人である。恥ずかしい装いや言動を避けたいという思いが強い。恥をかくという行為が万死にも値するという武士道の考え方が一般人にも浸透したのではないかと見られている。

さて、最近の青少年の間にこの視線恐怖症が広がっているという。10数年前にも視線恐怖症の若者がたまに見られたが、ここ数年にはとても多くの若者がこの症状に苦しんでいると言われている。他人が自分を見て笑っているとか、自分を侮蔑しているとか、自分の顔や姿がおかしいと噂し合っているということを主張するケースが増えている。したがって、多人数が出入りするコンビニやレストラン、スーパーマーケットに行くことを極端に嫌う。さらには、職場や学校でもそのような視線を感じ始めると、辞職や退学をせざるを得なくなるのである。不登校やひきこもりになるきっかけにもなっている。

この視線恐怖症という症状が何故起きてしまうのかというと、やはり成長期における様々な経験が影響しているのではないかと考えられている。養育者から育てられる際に、こんなことをすると周りの人から、恥ずかしいとか、批判されてしまうとか、何度も言われて他人の目を気にすることを強化され過ぎたせいかもしれない。または、何度も人前で恥をかく体験や、常に馬鹿にされて軽蔑されるような体験をしたということによる影響があるかもしれない。いずれにしても、あまりにも自己否定感情が強化されてしまったことによる影響が大きいと思われる。

この視線恐怖症を始めとした対人恐怖症に対する医療的治療は、困難を極める。投薬治療によって症状がある程度軽減されるケースもあるが、完全に恐怖感を払拭するのは難しい。カウンセリングや心理療法も、大きな効果を上げる例は極めて少ない。認知行動療法がある程度の効果があると言われているものの、効果は限定的であり、やはり完治は難しいと言われている。何故こんなにも治療が難しいのかというと、対人恐怖症を患う人は、自分の心の中に特定の『物語』を創り上げてしまい、この物語から脱却できないからである。脳科学的にいうと、頑固なメンタルモデルを創り上げているから、聞く耳をもたないのである。

この強固な『物語』は、心理学用語でドミナントストーリーとも呼ぶ。こういうことをした時には、必ずこんな結果になってしまい、極めて辛い悲しい思いをしてしまうというストーリーを自身の無意識下に創り上げ、そのストーリーに支配されてしまうのだ。だから、身内や他人からその考え方はどんなに間違いだと説得されても、頑固な物語に支配されてしまうのである。一度、そのドミナントストーリーを破壊して、完全に捨て去らなければならないが、聞く耳を持たないから、どんなに説得されても効果がないのである。

ただ一つ効果を上げられる治療方法がある。それはナラティブアプローチという方法である。他の治療は、視線恐怖症の症状が勘違いだとかあり得ないことだと納得させようとするのだが、ナラティブアプローチはまずその困った症状を、逆にまるごと肯定するのである。クライアントが感じる視線に対する恐怖の思いを一切否定せずに、まずはその感情に共感するのである。そうすると、自分の辛くて苦しい思いを共有してもらったという安心感から治療者に信頼を寄せるのである。そして、何度もその恐怖感にいたる思いを話してもらい共感してもらうことで、その考え方に対して自らが冷静な判断や分析が出来るようになるのである。

視線恐怖症の症状を解ってもらうことで、これらの症状に至った経過や原因を自分で振り返ることが出来る。そうすると、辛い症状が脳の誤作動であるのかもしれないと思い当たることが出来るのである。そして、間違った物語であるドミナントストーリーを捨て去ることが可能になり、新たな正しい物語であるオルタナティブストーリーが作られることになる。これがナラティブアプローチと呼ばれる心理学的治療法である。この治療方法は、コミュニケーション能力が卓越していて、人間性が高くて粘り強く我慢強く、人間的魅力がある治療者でないと成功しない。しかも、温かい物語を紡ぐ優秀なストーリーテラーでなければならない。だから、この治療方法は誰でも出来る訳ではない。この治療方法は、他のメンタル障害にも効果がある。しかし、残念ながらこの治療法を巧みに扱える治療者が極めて少ないのが現状である。

※イスキアの郷しらかわでは、このナラティブアプローチを駆使できる精神保健福祉士の専門家を紹介することができます。なお、このナラティブアプローチという心理療法について詳しく知りたいという方には、解りやすいように説明いたします。ご子息がこの視線恐怖症で悩んでいらっしゃる保護者へのご説明をさせて頂く用意があります。まずは問い合わせフォームから相談してみてください。

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