家では良い子を演じさせない子育て

若者が起こした凶悪事件の保護者にインタビューすると、こんな話を聞くことが多い。「こんな怖れ多い事件を起こすような悪い子じゃなかった。とても素直で良い子だったんですよ」と語る例が殆どである。また、家庭の周りに住んでいる住民も同じような感想を漏らす。特に同居する祖父母は、「本当に優しい孫で、こんな悪いことをするとは信じられない。何かの間違いじゃないのでしょうか」と孫を庇うことが多い。身内を過大に良い評価をしやすい傾向はあるとしても、どうしてこんなギャップが生まれるのか、不思議だと思う人が多いと思われる。

学校で他の児童生徒をいじめるなどの問題行動をする子どもが、家庭ではまったくの良い子で、従順で素直な子どもであるケースもまた多い。学校では、陰湿でしかも陰に隠れて表舞台に立たず、裏で指図する悪質ないじめの首謀者の子どもは、家庭では良い子を演じていることが多い。だから、その悪質ないじめがばれて親が学校に呼ばれて、その事実を告げられると、どうしても信じられないと親は主張するらしい。このように、学校での行動と家庭における言動のギャップが見られるのである。

子育てというのは、非常に難しい。これが正解だというマニュアルは存在しない。それぞれの子どもの性格や人格も違うし、親もそれぞれ違っているから、育つ環境は違っている。日々いろんなことが起きるし、その場面場面で子どもに対してどのような言動をしていいか迷うことがしばしばある。自分でも、子育ての様々な場面でどんなにか迷い、苦悩したか解らない。育児というのは、この世の中で一番難しいことである。そして価値がある。だから、子育ては親を成長させる糧ともなるのである。

少しは身の回りの片づけをしたらいいんじゃないかと、珍しく当時小学生高学年だった三男の息子に苦言を呈したことがある。その言葉に対して、息子はこんなことを言い放った。「あのね、僕は学校ではすごく良い子で通っているんだよ。それは、家庭で無理して良い子を演じないでいるからだよ。家にいる時は、誰からの支配も受けず、無理な生き方をせずにのんびりと過ごしているから、外では良い子でいることが出来るんだよ。だから、そんなことを言わないでほっといてよ」それを聞いて、私たち夫婦はお互いの目を見て、苦笑いをするだけで、何も言い返せなかった。

我々夫婦は、お互いに子育てについて話し合っていた。育児とはどうあるべきか、子育ての方針はこうしようああしようと意見交換をしていた。子どもたちがいる食卓でも、育児について話し合っていたのである。そして、息子が言い放ったこの言葉は、まさしく自分たちが常日頃言っていたことである。聞いていないと思っていたのに、息子はしっかりと心に刻んでいたのである。そして、それを実践していたのである。確かに、どの先生たちからはすごく良い子だと言われ続けてきたし、先生の手助けを自分から進んでしてくれて、学級をまとめるリーターシップが取れると子どもだと誉められていた。

その息子が高校から進学する際、国公立の大学に推薦してもらえる成績がありながら、親が期待する道は歩まないと宣言し、敢えて自分の信じた道を進みたいと東京の私立大学を選んだ。我々は子どもたちに、こういう進路を進んでほしいと、高校や大学を押し付けたことは一度もないし、就職も自分で選ぶのをそっと見守るだけだった。上の二人は、親の経済状態を考えて地方の国公立大学を選んでくれた。三男は兄二人とは違う道を選びたいと、親の期待を見事に裏切ってくれたのである。精神的に完全に自立していたのだと思われる。主体性と自発性を常に発揮して、様々な苦難も自分で乗り越えている。

子どもは親の所有物ではないし、子どもを支配しコントロールしないことを子育ての基本に据えてきた。しかし、けっして放任主義ではない。人に迷惑を掛ける行為や、自分さえ良ければいいというような行動は慎まなければならないということは伝えてきた。さらには、子どもたちの弱いものに対する慈悲の心を育んできた。勿論、人の生きる意味や目的という価値観の教育もしてきた。言葉だけでなく、親の正しい生き方の後ろ姿も見せてきたつもりである。家庭であまりにも良い子を演じさせてしまうと、子どもが安心していられる居場所がなくなってしまう。だから、良い子であることを無理強いしたことはない。このような子育てを、子どもたちもまた孫たちに実践してくれると信じている。

 

※イスキアの郷しらかわでは、子育てに関する様々な悩みや心配なことに関する無料相談を承っています。発達障害やパーソナリティ障害のお子さんを育てていらっしゃる保護者の相談にも対応させてもらいます。問い合わせフォームからご相談ください。さらには、これから子育ての研修会や相談会も開催して参ります。是非、合わせてご活用ください。

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