みんなの学校を創ろう

「みんなの学校」は、本来あるべき理想の教育を実践している場所だ。そんな確信をさせてくれる珠玉の映画であった。ふとした縁からこの映画が会津若松市で上映されることを知り、早速申し込んで事務局の方に何とか定員の中に入れてもらい、鑑賞させてもらった。予想していた内容ではあったが、その予想を上回る感動を与えてくる秀作だった。どんな名演技の俳優が演じたフィクションよりも、実在の人物がリアルに織りなすドラマは感激させてくれる。出演しているのは、大阪市立大空小学校に実在する児童と教職員たちなのだ。実に素晴らしい感動のドキュメンタリー映画である。

日本国憲法では、基本的人権の中で教育を受ける権利が保障されている。誰でも平等に教育を受ける機会が与えられている。ところが、障がいを持つ子どもたちは、普通学校の普通学級に行きたいと希望しても、何らかの理由で適えられないケースが殆どである。たとえ普通学級に入ることが出来たとしても、心無い同級生や教師の対応次第で学校に行けなくなることも少なくない。ところが、この大空小学校は障がいを持った子もそうでない子もすべて一緒に同じ学級で学ぶのである。

この学校の目標は、不登校を無くすことである。新任して2年目の講師が担任している子どもがある日登校しなくて、親の携帯と繋がらないケースが起きた。どうして良いか解らずおろおろするその先生に、木村泰子校長はこのように諭す。残された学級の授業は私でも出来るが、その子の対応をするのはあなたしかいないと。すぐにその新米担任は、自転車でその家庭に子どもを迎えに行った。不登校をさせない為に、教師たちは最大限の努力をするのである。先生たちは常に子どもの立場で考え行動する。だからこの学校は不登校ゼロなのである。

この大空学校では、発達障害、知的障害、自閉症スペクトラムなどの子どもたちが他の子どもたちと一緒に学んでいる。他の学校で不登校になった児童も、住所地を変更してまでして転校してくる。そして、子どもたちはお互いに支え合いながら共に学ぶ。先生たちもお互いに協力し合う。地域のボランティアの支えもある。この学校では、他の学校では既になくなってしまった豊かな『関係性』がしっかりと根付いている。先生どうしもチームを組んでお互いに助け合い支え合う。子どもどうしの関係性をしっかりと築いているから、いじめも不登校もないのである。

こんなエピソードが描かれている。くだんの新米担任の先生が、子どもを大声で怒鳴りつけていた。それを見ていた木村校長が、その教師を呼びつける。木村校長は部下の先生を頭ごなしに厳しく指導することはしない。子どもに対しての指導もそうだが、必ず質問をするのである。その先生にこう質問する。大声で子どもを指導していたが、あれは教育の一環として冷静に演技したのか、それとも怒りの感情で興奮したのかと問う。教師は怒りに任せてしたことだと正直に答える。もし、それで子どもがいたく傷ついて、窓から飛び降りたらどうするのか、そんなことも考えられず怒りを抑えられないなら教師不適格だからいますぐ辞めなさいと言い放つ。勿論、木村校長は反省して子どもに謝った先生を許すのである。

このように木村泰子校長は、常に子どもが中心の教育を志して行動している。故に先生への対応も厳しくなるが、愛情溢れる指導だから絶大な信頼を得ている。子どもたちもどうにもならなくなったら木村校長を頼ってくる。通常の学校長はマネージャー、つまり管理者である。しかし、木村校長はリーダーである。それも理想のチームリーダーだ。けっして高圧的でもないし独善的でもない。校長を加えたチームはいつも皆で相談しながら進むべき方向性を確認している。他の学校では、担任の学級運営に対して口を出さないのが暗黙のルールである。しかし、大空小学校では担任で手に負えなくなったら、他の先生たちに助けを求め、そして快く協力するし助け合う。

この学校では、絶対に守らなければならないルールがひとつだけある。それは『自分がされていやなことは人にしない 言わない』である。そのルールを破った子どもは校長室に行ってやり直しを約束するのである。大空学校では、このルールを子どもたちも教職員も常に守っている。だから、いじめやパワハラもないし、不登校もないのである。不登校が起きるひとつの要因は、子どもたちや教師による心無い言動が子どもの心を傷つけ、学校からそして教室から居場所を奪うからだ。このルールを徹底することで安心できる居場所が確保できるのだ。大空小学校は、快適な居場所をみんなが努力して作り上げているから不登校がないのである。

大空小学校では、障がいを持った子どもたちを、そうでない子どもが自ら進んで温かい心で支援する。そして、このような支援や助け合いをすることが、自分の喜びとなり自分自身を認め誉めることに繋がり、自己肯定感を育てることになる。そして、何よりも重要な価値観として、つながりや絆の大切さを学ぶことになる。さらに、人間の多様性を受け入れて、共生ということの大切さを実感するのである。みんなが大きな自己成長を遂げる。そして教師もまた同じように、深い自己啓発が生まれる。さらには障がいを持った子たちも、認められ評価され誉められて大きく育つ。まさしく大空小学校は教育の場でなく、『共育』の場なのである。大空小学校のような「みんなの学校」をもっとたくさん創れば、学校で起きている不登校、いじめ、指導死などの諸問題は起きる筈もない。すべての学校が「みんなの学校」になることを目指して、これからも活動していくことを心に誓った。

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