年末大掃除で人間を磨く

年末には大抵の家庭では大掃除をする。普段はあまり実施しない部分まで念入りにすることが多い。ガラス掃除を年末に行う人もいるだろうし、フローリング床のワックス掛けをする人もいるかもしれない。お風呂の壁・天井のカビ取り洗浄をしたり、台所の換気扇やレンジ台の念入り掃除をしたりするのも、年末の大掃除メニューであろう。我が家でも、普段手抜きの掃除なのものだから、大掃除にまとめてやることが多い。今年の年末は、仕事を辞めて時間があるので、フローリング床を洗浄してワックス掛けを実施した。さらに二日かけて窓ガラスの洗浄も完了した。

掃除をすることで、それも徹底してきれいにする行動を続けると、身体が温まってくる。と同時に、心も何となく温まるような気がする。そして、掃除により住環境が美しくなると、やり遂げたという達成感を得ると共に、清々しい気分になる。掃除を始めるまでは、いろんな理由を付けては先延ばしをしたがる自分がいる。ましてや、掃除はやってもやらなくても生死には関りがない。だから、どうしても優先順位を後回しにすることが少なくない。普段から徹底して掃除をしていれば、年末の大掃除はしなくてもよいのであるが、殆どの人は年末大掃除をする。

掃除は、環境だけでなく実施する人の心を磨くとも言われている。こんな逸話があるので紹介したい。明治大学野球部にその人ありと言われる島岡監督という、名采配で東京6大学15度の優勝を誇った人物がいた。選手の育成にかけては右に出る人なく、星野仙一、高田繁、秋山登、辻佳紀、広岡克己、香取義隆などの名選手を排出した。島岡監督は野球の技術指導よりも選手の人間形成に力を注いだ。合宿所に一緒に寝泊まりして、選手の生活態度にも非常に厳しかった。合宿所のトイレ清掃は、野球部の1年生が担当するのが他の学校では通例である。しかし、島岡監督は敢えて4年生にトイレ掃除をさせていたのである。

ある日、島岡監督は合宿所のトイレを見て、4年生の星野仙一を呼び出した。そして、星野に今日トイレ掃除をしたのは誰だと聞いた。私ですと答える星野に向かって、こう言ったらしい。「そうか、それなら今すぐこの便器を舐めてみろ」と毅然とした態度で指示した。星野仙一は、いつもきれいに掃除しろとは言われていて、自分では徹底して掃除したつもりでいたが、流石に舐めるまでのレベルまでは掃除しなかったのである。「出来ません」と答えた星野仙一に対して、島岡監督はこう言って諭したという。「いいか星野、トイレ清掃をすることにお前は心血を注いでないだろう。掃除だから手抜きをするという心が、野球に対してもその手抜きの気持ちが出るんだ」それから、星野は何事に対しても全力を注いだという。星野仙一の全力投球は、島岡監督が作ったと言える。

島岡監督は、野球で結果を残すには、技能を指導するより、何よりも人間的成長を重視した。そして、その人間形成の為には、徹底した掃除をさせることが重要であり、それも人の嫌がるトイレ清掃こそが大切だと説いた。島岡監督が4年生にトイレ掃除をさせたのは、企業に就職した際に、必ず仕事に生かせる資質を磨くことになると確信していたからであろう。なにしろ面倒見の良かった島岡監督は、著名選手でなかった4年生が就職する際、自分で会社訪問をして売り込んだと言われている。だから、選手たちと島岡監督の信頼関係は厚く、選手から尊敬されていた。

年末清掃をしながら、こんな島岡監督と星野仙一のエピソードを思い出していた。全国的に強いと言われている高校部活の監督はおしなべて、人間形成に力を入れている。そして、トイレを初めとして掃除を徹底してさせている高校が多い。お寺における修行僧は、徹底して東司と呼ばれる便所の掃除をさせられる。それが僧侶としての人間力成長に欠かせないからである。子どもの健全育成にも、掃除が一番効果的である。それも人の嫌がるトイレの清掃をすることで、人間が磨かれるのである。さて、今日はこれから便器を磨くことにしよう。

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