コーチングの効果がない理由

コーチングというと、もっとも効果が上がる指導教育法として定着しているが、実際に導入した企業では、思ったほどの効果がないという課題に遭遇している。コーチングという手法が開発されて提唱されたのは、そんなに古くない。米国で1992年から始まり、日本に紹介されたのは1997年頃だと言われている。当初、それまでのティーチング型の指導教育の効果が芳しくなかったことから、急速に普及した。そして、ある程度の教育効果が認められたことから、多くの企業において採用すると共に、コーチングのセミナーが各地で開催されるに至っている。

コーチングとは、受講者への傾聴と共感を基本にして、さらには適切な質問をすることで受講者の自らの気付きや学びを啓発する指導手法である。なんのことはない、カウンセリングの方法を指導教育に転用しただけである。このコーチングをする際に大事な事は、受講者をけっして否定しないという点である。寛容と受容を基本として、受講者の欠点やマイナス面を指摘して、それを否定することを避けるのを原則とする。こうして、これは効果があるに違いないと認知され、コーチングはもてはやされたのである。ところが、特定の社員や職員には効果がある程度あるものの、大半の者にはまったく効果が上がらないという現実に突き当ったのである。

何故コーチングが大半の者に対して効果が上がらないのかというと、コーチングをする側の問題と受講者側の問題の両方が存在する。まずコーチングを受ける側の問題としてあげられるのは、メンタルモデルが固定化してしまっているということである。別の言葉で言い換えると、指導される人に低劣なドミナントストーリーが存在していて、他の考え方を受け容れることが出来なくなっているのである。養老猛さんが主張した『バカの壁』である。この低劣なメンタルモデルが脳に固着してしまうと、正しい考え方を聞いてもすべて素通りさせてしまうから、指導教育の効果がまったくないのである。

コーチングする側にも問題がある。コーチングの指導技能のレベルが低いということもあるが、それ以上にコーチングする人の自己マスタリーが確立されていないという問題がある。効果を発揮するコーチングをする人は、真の自己確立、つまりはアイデンテティーの確立がされていないと、コーチングの受講者の心を開くことが出来ない。そうでないと相手を否定しまうからである。コーチングをしながら、相手を自分の思うままに支配し制御したがるのである。そうなると相手は、心を閉ざし自分の低劣なメンタルモデルに固執して、一切耳を貸さなくなるのである。

コーチングをする際に留意しなければならないのは、傾聴と共感である。さらに、まずは受講者の悪い点や至らない点をまるごと受容し寛容の態度で接することである。つまり、一切否定しないで、まずは相手のマイナスの自己に寄り添うのである。言い換えると、相手の低劣なドミナントストーリーに共感する必要があるのだ。一般的なコーチはこれが出来ないのである。さらに、コーチがする質問の仕方が稚拙なのである。あくまでも指導するのではなく、本人が自ら気付けるように適切な質問をするだけである。あくまでも、本人が自分の悪い点を発見して、自ら変化したいと思うような質問をするだけなのである。この技術が不足しているのだ。

このようにコーチングする人のレベルが何故低いのかというと、根本的に言えば自分自身もまた低劣なメンタルモデルしか持っていないからである。自分中心で、自己利益だけを求めがちで、損得での判断で行動し、自分の名誉や地位に固執し、相手を尊厳する気持ちがないのだ。そんな人間を誰が信頼し、自分を解放するのか、あり得ないことである。こんなコーチングをする人だけだから、効果が上がらないのであろう。コーチングをする人は、全体最適と関係性を重視するような高潔な価値観を持つ必要があると思われる。つまり、システム思考を身に付けなければ、コーチングの効果が上がらないと言えよう。

 

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