今から20年くらい前に、児童精神科医として臨床においても、または学術研究の分野においても、先駆的な活躍をされた人物がいらした。それは、当時国立小児病院の精神科の医長をされていた、崎尾英子さんという優秀なドクターである。彼女は、児童精神科医のスペシャリストでもあったが、カウンセラーとしても多大な実績を残されていらした。カウンセラーとして実際に対面して、かなりの時間を要しての相談でさえなかなか効果あげるのは難しいのに、彼女は電話で僅か10分程度の相談で、保護者のあらゆる疑問に答えるだけでなく、的確な助言と深い安心感を与えていたのである。
崎尾英子先生は、NHKラジオで不登校の子どもたちの保護者への電話相談をしていらした。レギュラー回答者として、週一回の出演をされていたのである。当時、劇的に増加していた不登校児に対する質問が多く、非常に難しい質問をされる保護者が多かったと記憶している。質問をする人は、女性が圧倒的に多くて、母親か祖母であるケースが殆どだった。そして、そのプチカウンセリングであるが、崎尾先生はあたかも保護者がどう答えるのかを予想しているかのように、的確でしかも温かみ溢れる質問を保護者にしていた。勿論、けっして威圧的な態度ではなく、限りなく優しくである。そして、けっして答は与えるのでなく、その質問に答える形で保護者が気づいたり学んでいたりしたのである。
カウンセリングの基本とは、傾聴と共感だと言われている。そして、本人が気付いたり学びをしたりするように、質問をするだけで指示や指導をするべきではないというのが定説である。とは言いながら、限られた時間の中でカウンセリングをすると、明確な答を出すようにとついつい誘導してしまう傾向になる。ところが崎尾先生は、一度もそういう場面がなかったのである。たかだか平均すると10分程度の時間に、不思議なように保護者が自ら進んで変化するのである。自分が進化すべきだということを気付き、自主的に変わっていくのである。
崎尾先生も自著の中で記されているが、電話相談の保護者も含めて相談者を自己否定に導いてはならないとおっしゃっている。それは、不登校児も保護者もすべてそうである。そして、不登校児の教育に携わる人間に対しても同じだと主張されている。人間的にも未熟で、しかも自己確立のしていない人間は、他人に対して寛容になれない。だから、自我人格と自己人格の統合を経ていない人間は、いくらカウンセリングの技術が優れていたとしても、カウンセラーとしての実務をしてはならないと思う。ところが、専門の大学を出て大学院で臨床心理士の資格を得たとしても、残念ながら自己確立をしている人は多くない。
崎尾英子先生のような素晴らしいカウンセラーとは、滅多に出会えないだろう。先生の電話相談を聞くのが楽しみだった。それこそ、先生に心酔し切ってしまい、著作はすべて購入して愛読書にした。スティーブン・ギリガンの著した「愛という勇気」という専門学術書(崎尾先生訳)まで購入して読んだ。先生の著書には、珠玉のような素晴らしい教えの数々が書かれていた。それらの教示は、多くの気付きと学びを与えてくれた。今の自分があるのは、崎尾先生のお陰だと言っても過言ではない。先生は国立小児病院を退職された後、クリニックを開院して院長として活躍され、2002年にご逝去されてしまったとのこと。惜しい方を亡くしてしまったものである。
崎尾先生のようなカウンセリングを、世の中の精神科医と臨床心理士たちが実施したとしたら、多くの不登校児とその保護者を救ったことであろう。崎尾先生のような臨床医や臨床心理士、そして精神保健福祉士がこれから多数輩出することを願っている。残念ながら崎尾先生の指導を直接受けることは叶わない。一度会いたかったと思っているが、残念なことである。これから崎尾先生のご遺志を継いで、不登校や引きこもりの若者を支援していきたい。勝手ながら、崎尾先生を心の師匠だと思っている。崎尾先生の貴重な教えを守って、少しでも師匠に近づきたいと願っている。
はじめまして。
うたスキというカラオケ同好会というようなサイトというかSNSで、フレンドさんのひとりが歌以外の用件で悩んで活動休止するっていう書き込みがありまして、それで崎尾先生を久しぶりに検索してこのサイトにたどり着きました。
彼女の場合、多数のフレさんからの書き込みで勇気づけられたためか、翌日、復帰するというコメントがありましたので、とりあえずはそれでいいかなと思っておりますが、崎尾先生のこと、子供と教育電話相談のことを書いていただいていることがうれしくて、コメントさせて頂きました。
自分は一介の水処理技術者で、精神や研修や教育を生業とはしておりませんが、大変興味深く本サイトを見させて頂きました。
もっと書きたいことはあるのですが、長くなりますので、このへんで。ありがとうございました。
PS.お試しコース等研修メニュー大変興味深いのですが、伺うのに物理的な距離が遠いのが残念です。
北島さま、コメントありがとうございます。
SNSのお友達の方、ご心配ですね。
とりあえずは他のフレンドさんの励ましで
お元気になられたとのこ、良かったです。
ただ、一時的には良くなっても、根本的な
ものが解決していなければ、何度も気分を
落ち込ませるかもしれません。
北島さまが付いていれば、きっと大丈夫です。
崎尾先生のお弟子さんのようですから、
そのお友達に寄り添うことが出来る筈です。
崎尾先生が今でもご存命でいらっしゃれば、
日本の児童精神科医学会も変化していたと
確信しています。志なかばで亡くなられたのは
日本の精神医学界にとっては大きな損失です。
あんな素晴らしい見識と「心」を持った
素晴らしい先生は出てこないでしょう。
遠い処にお住まいとのことで、是非とも
お目にかかりたいと思っていますのに、残念です。
何かの機会に近くにいらしたり、こちらが参りました
時には、是非ともお会いして、崎尾先生のことを
話し合いたいと存じます。
私は、一度も崎尾先生にはお目にかかって
いませんが、先生のラジオ出演はなるべく聞いて
いました。また、著作も読みふけりました。
翻訳した「愛という勇気」も愛読書です。
あんな素晴らしい先生がなくなってしまったことが
本当に残念です。お弟子さんたちが活躍されることを
密かに祈っています。
はじめまして。
私も崎尾先生の子供と教育電話相談を欠かさず聞いていました。
しばらく先生の声が聞かれず、心配になり1ファンとして先生の本の出版社に電話して先生のことを尋ね、そのときに亡くなられたことを知り愕然としました。
毎回わかりやすく的確な回答に感動し、いつか先生にお目にかかりたい、お話を直にお聞きしたいと思っていました。
私、今は精神障害者施設の支援員していて、昨日勉強のために先生の「こころを聞く カウンセリング入門を引っ張り出してきました。
何となく先生のお名前で検索したら先生のお話がYou Tubeに上げられていたり、こちらのページを見つけられて、とても嬉しかったのです。
急にいなくなられて、お会いしたこともないのにとても寂しく残念で、心の行き場がなくなっていましたので、先生を忘れられない方がいらっしゃることを知りました。
これからも先生の本で勉強させて頂こうと思います。
ありがとうございました(^O^)
山本さま、こんにちは、温かいコメントありがとうございます。
崎尾英子先生のファンは想像以上に多くて、今でも慕っている方は多いみたいです。先生の著されたご本は殆ど読了しましたが、あんなにも昔に適切な洞察をされていたことに驚いていますし、先生のご高説は今でも通じるような理論であり続けています。もし、機会があればスティーブン・ギリガン著崎尾英子訳「愛という勇気」を読んでみてください。自己間関係理論が説かれていますが、今の社会の病魔の原因が明らかにされています。
先生のNHKラジオにおける相談は秀逸で、いつかあんなカウンセリングをしたいものだとずっと憧れていました。今は、イスキアの郷しらかわという施設で、家族カウンセリングの真似事をさせてもらっていますが、崎尾先生のカウンセリングと比較するとまだまだなあと思ってしまいます。
私にとって、永遠の『師』だと思っています。