スペシャリストからセネラリストへ

明治維新以降に近代教育を日本が取り入れてからというもの、各分野におけるスペシャリストを養成する機運が高まった。それは分業制や専門性を要求される産業やアカデミーにおいて、必然的に起きたことでもある。例えば、生産工場においては企画、デザイン、部品調達、旋盤、研磨、検査などのスペシャリストが養成された。効率とコスト削減、そして品質向上の為には、それぞれの専門家を養成することが、企業にとって一番好都合だったのであろう。

また、アカデミーの世界でも一部門に秀でた専門家が続々と輩出した。各研究部門において、専門の研究に専念することで、大きな学術的成果がもたらされた。医学界と医療分野はその傾向が顕著であった。最初はせいぜい内科・外科・精神科などの診療科目しかなかったのに、今は同じ外科でも、脳外科・上部消化管外科・心臓血管外科・乳腺外科・移植外科など実に多岐多彩に渡って、細分化されている。その中でもさらに肝臓専門・胃専門・膵臓専門などスペシャリストがいる。

それぞれ医療界のスペシャリストとして、優秀な頭脳と技能、そして経験を身に付けたドクターは、どのような患者さんの難しい診断・治療も可能になったかというと、実はそうではないことを医療界は認識することになった。医療のスペシャリストがそれぞれの分野において診断できない場合は違う分野の医療スペシャリストと連携して確定診断を行うことになる。しかし、残念なことに医療のスペシャリストどうしの連携だけでは、確定診断が難しい症例が極端に増加してしまったのである。故に、必然的に総合診療科が出来るとか、または統合医療という分野が発生して、診断と治療を行うようになったのである。言わば医療のゼネラリストである。

工場の生産現場や販売・営業部門においても、同じようなことが起き始めたのである。各工程や各部門において、スペシャリストが最善の生産工程を実施しているにも関わらず、不良品や返品が出てしまっているのだ。さらには、スペシャリストがそれぞれの専門性の発揮をしているにも関わらず、デザインの陳腐化やヒット商品が出ないという事態が起きているのである。これだけ優秀なスペシャリストを集めているのに、まったく成果が上がらないらしいのである。そこで生まれたのが、すべての部門に精通して管理できるゼネラリストと呼べるようなチームリーダーが必要になったのである。

どうしてスペシャリストだけでなくゼネラリストが社会全般に必要になったかというと、それは人間社会の仕組みや存在そのものが、『システム』だと気付いてきたからである。人間そのものもまた、システムである。60兆個もある細胞がそれぞれ自己組織性を持っていることが判明した。つまり、細胞ひとつひとつがあたかも意思を持っているかのように、人間全体の最適化を目指して活動しているのである。そして、細胞たちはネットワークを組んでいて、それぞれが協力しあいながら、しかも自己犠牲を顧みず全体に貢献しているのである。

これは、細胞だけでなく人体の各臓器や各組織が同じようにネットワークを持っていて、全体最適の為に協力し合っていることが、最先端の医学で判明したのである。つまり、人体は脳が各臓器や各細胞に指令を送っているのではなく、それぞれが主体性と自発性を持って活動していることが解明されたのである。完全なシステムである人体が、どこかの各細胞や各臓器が誤作動を起こせば、それが人間全体に及ぶということである。精神的に大きいストレスやプレッシャーがシステムにエラーを起こし、各臓器に及んで疾病などを起こすということが解ったのである。だから、人間全体を診る総合診療科や統合医療が必要になり、ゼネラリストが求められたと言えよう。

企業や工場、学校、家庭も『システム』である。その構成要素である各部門や人間が、ネットワーク(関係性)を豊かにして、全体最適を目指していればエラーである問題は起きない。スペシャリストだけでなくゼネラリストがシステム内に存在して、各部門や人間のネットワークを上手く調整して、全体最適に向かうようにマネジメントしていけば、システムは機能する。各部門や各人間も、主体性や自発性、そして責任性を持てる。そうすれば、システムは上手く回っていくから問題は起きないのである。これからの時代は、社会全般において、スペシャリストだけでなくゼネラリストが必要となってくると確信している。

 

※イスキアの郷しらかわでは、ゼネラリストのチームリーダー養成講座の研修を承っています。これからのチームリーダーは、チーム全体を俯瞰して、主体性・自発性・自主性・責任性を自ら発揮するチーム員を育てる技量・人間性が必要です。医療機関でも、このようなゼネラリストの管理者(看護師・医師・事務員・パラメディカル)が必須です。どのような研修なのか、是非問い合わせください。

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