指導死を二度と起こさない為に

福井県で、中学2年生の男子生徒が自殺した。担任と副担任の指導に行き過ぎた点があったと調査報告書は認めているし、校長もその事実を確認し謝罪した。こういう指導の行き過ぎによる『指導死』というのは、他にも例が多く、ゆうに100件近くに上ると言われている。これは、判明した件数だけであり、おそらくこの何倍もの数の指導死が存在するのではないだろうか。それだけ、不適切な指導が学校現場で行われているという証左であろう。

この行き過ぎた指導をした担任と副担任の実名と顔写真が、ネット上で拡散されている。正義漢ぶったネットウヨが、彼らを非難し中傷している。2度と教壇に立てないように、教師免許を剥奪しろという者や、殺人罪として立件しろと騒ぎ立てる輩もいる。このような事件が起きると、最近はネット上でリンチ(私刑)のようなことを繰り返す者たちが横行する。福岡県で起きた煽り運転死亡事故の加害者の親として間違えてネットで拡散し、えらい迷惑を受けてしまった人もいた。

許せないと思う気持ちも解るが、こういうネット上におけるリンチで対象者が自殺したら、自分たちが加害者にもなりえるということを認識しているのだろうか。実に情けなくて怖いネット社会である。問題なのは、担任と副担任、そしてその指導管理の責任を問われる校長と副校長の態度と行動である。その指導方法が悪いのであって、彼ら彼女らの全人格や人間全体までも否定するというのは、行き過ぎではないか思うのである。

そもそもこんな指導死が起きる本当の原因は、何であろうか。文科省の指導、教育庁や教育委員会の指導管理に問題があるという意見が多い。一方、教師の資質に問題があるという人もいれば、日教組に責任があるとする人もいる。学校における行き過ぎた競争原理の中で、起きてしまった不幸な事故だとする主張する人も少なくない。行き過ぎた競争原理とは、子どもどうしの競争と教師間の競争、両方に原因があるという意見だ。いろいろな原因が言われているが、原因を特定してその原因が改善されていない。だから、今回も同じ不幸な指導死が起きたのである。

こんなにも酷い指導死の事故が起きるのは、明治維新以降に導入された近代教育の欠陥によるものだと推測する。明治政府が近代教育を導入したのは、日本を近代国家にして、欧米の列強のように強い国家を作る為である。その為には、欧米のような近代教育を導入して、国家にとって都合のよい技能の高い若者を育成する為である。思想・哲学や価値観の教育は余計なものとして排除して、あくまでも能力至上主義の教育を目指し、競争原理を導入して優秀な人材育成に力を注いだのである。

近代教育は、さらに欧米で主流であった客観的合理主義を導入したのである。つまり、物事を各要素に細分化し、それを客観的合理性で分析して問題解決をする手法を身に付けさせたのである。つまり、何かの課題・問題を発見した際に、その問題の原因を特定するために、問題を各要素に分解し細分化し客観的に分析して解決策を見つけ出すという手法を教育したのである。この客観的合理主義・要素還元主義は、一見すると正しいように見えるが、大きな問題を孕んでいる。全体を洞察することを忘れさせたのである。つまり、木を観て森を観ずという価値観を育ててしまったのである。

この客観的合理主義は子どもたちに、物事をあくまでも客観的に観察し分析する習慣を身に付けさせてしまった。つまり、自分に関わる人間をまるでモノとして扱い、客観的に分析する癖を持ってしまうのだ。だから、実に冷たい目で相手を見る。人の行動を分析して、批判的に観るのである。いつも批判的態度を取るから、相手に共感できない。人間関係を損なうことが多い。特に、近代教育を沢山受けた高学歴な人間ほど、そして優秀な人間ほどこの批判的な態度を取りやすい。相手の気持ちが解らないのである。特に、相手の悲しい気持ちや辛い気持ちに共感できない。優秀な人ほど身勝手で自己中心的な人間が多いのは、これが原因である。

教員は、高学歴で優秀である。すべての教員がそうではないが、要素還元主義と客観的合理主義に毒されているケースが多い。客観的合理主義もある意味必要である。ただし、あまりにも客観的合理主義にシフトし過ぎるのが良くないのである。近代教育の欠陥に気付いた欧米は、統合主義や関係性の哲学を加えた教育制度に舵を切り直した。残念ながら、日本の政治家と文科省官僚はその間違いに気付かずに、さらなる能力至上主義と個人主義に陥ってしまっている。このような間違った教育制度こそが、『指導死』を起こしていると認識すべきであろう。近代教育制度を見直して、全体最適(統合主義)と関係性の哲学を加えた教育に改めたら、こんな不幸な指導死も防げるし、いじめや不登校の問題もすぐに解決できると確信している。全体最適と関係性の哲学であるシステム思考を、今すぐにでも学校教育に導入してほしいものである。

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