何故、殺人と自殺はしてはならないのか

相模原の施設で障害を持たれた方々の殺傷事件が起きた時、世の中の人々は戦慄した。しかも、この犯人はまったく事件を起こしたことを今でも反省することなく、自分の行為を正当化しているのである。重度の知的障害を持たれた方々は、この世に不要な存在だから抹殺してもいいという、とんでもない論理に毒されている。優生思想という間違った考え方に凝り固まっているのが、実に情けない。それにしても、平気で人を殺すという行為をすることが理解できない。この事件が起きた時に、あまりにもセンセーショナルな事件が故に、人が人を殺すという行為に対する分析と洞察がなされなかったのが残念である。何故、人を殺してはいけないのかという観点から分析し報道しているマスコミはなかったように記憶している。

若者も含めて一般の人々に「何故、人を殺してはいけないのか」という質問をして、明確に答えられる人は殆どいないことだろう。勿論、法律違反で犯罪になるからという理由というのは当たり前のことで、法的な意味での問いではない。形而上学や形而下学的に考察して、何故人を殺してはいけないのかを明確に答えてほしいのだが、誰にも解る言葉でその理由を語れる人はごく少数であろう。人を殺してはいけない理由を、単なる精神論で述べたとしても、誰も納得しないだろう。やはり、科学的にその理由を明確に述べてこそ、多くの人々を納得させるに違いない。社会科学的に、人間科学的に、そして最先端の自然科学的に述べてほしいし、それを皆が納得出来てその価値観を持って生きられたら、あんな悲惨な凶悪事件は二度と起きないであろう。

この人間社会全体は、人間というひとりひとりの構成要素で成り立っている。つまり人間である『部分』が寄り集まって人間社会という『全体』が形作られているのである。そして、その人間は一人として同じ人間は存在しない。ひとりひとりの遺伝子DNAは勿論のこと、姿かたちも性格も考え方も違っている。いわゆる多様性を持っているのである。多様性があるからこそ、私たち人間すべての一人ひとりに存在価値があるのである。人間それぞれ違いがあるからこそ、自分と他人の違いを認識できで真実の自分を知ることが出来るし、違った価値観や人格があるからこそ、お互いの出会いの中からその違いを学んで自己成長を遂げることができるのである。自己成長をさせてくれる為に出会う他人を殺してこの世から抹消することは、自分の自己進化や成長を妨げることにもなるのである。

また、人間社会全体の中に、部分である一人ひとりの人間がすべて含まれるのは勿論だが、カール・グスタフ・ユングの説いた心理学においては、そのひとりの人間の中に全体が含まれていると説かれている。さらに、ひとりの人間の中の自己人格の中に、世界すべての人間の自己人格が含まれているとも説明している。そして、この理論は単なる観念論ではなくて、事実であることが様々な検証によって明らかにされつつある。ということは、他人を傷つけたり殺めたりするということは、自分を傷つけ殺すということにもなるのである。つまり、他人を殺すことは自分を殺すことになるので、絶対にしてはならないのである。

このように、自分にとって出会う他人という存在は、自己成長や自己進化を遂げさせてくれる貴重な存在だから、けっして抹消してはならないし、自分自身を否定することにもなるから、出会う他人を殺してはならないのである。仏教においては、このことを自他一如(じたいちにょ)という言葉で言い表している。縁起律(えんぎりつ)=関係性によって存在するこの宇宙全体は、人間だけでなくすべての存在そのものが尊いものなのである。例え草木一本とて、そのひとつでも無くしてしまうということは、自分の存在をも否定することになるのである。驚くことにこの真実が、最先端の宇宙物理学、量子力学、脳科学、細胞学、分子生物学、などによって明らかにされようとしているのである。人を殺してはならないというパラダイムが、自然科学によっても証明されつつあるのである。

 

この大切なパラダイムは、もっと重要なことも示唆している。人を殺すことは自分をも否定し殺すことになるということは、逆に言うと自分を殺すということは他人を殺すということと同じだということである。自分はこの世の中を構成する一員であり、関係性によって存在し全体を構成するのになくてはならない貴重な存在なのである。自分を抹消してしまうと、他の人が幸福で心豊かに生きるのを阻害してしまうばかりか、社会全体の進化や成長をも停滞させてしまうのである。自殺してしまうということは、自分ばかりでなく多くの人々をも不幸してしまうことなのである。人間には、すべて生まれてきた意味があり、それぞれの存在価値がある。だからこそ、他人を傷つけたり殺したりしてはならないし、自分を自分の手で抹殺してはならないのである。

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