児童虐待をなくす為に

昨年度1年間児童相談所で扱った児童虐待の件数が、12万件を突破して過去最高になったというニュースが流れた。これは、昨年度から軽微な心理的DVも加えられたということで、件数が増えたのも当然だと見られるが、それにしても全国的に児童虐待が増えているのは間違いない。こんなにも多いという現実を知らない人も多かったに違いないが、これは実は氷山の一角に過ぎない。この数は児童相談所に寄せられて扱った件数だけであり、地域の人々や親類知人にも知られず、家庭内で陰湿に行われている児童虐待は、これだけではないだろう。その数も入れれば、おそらくは30万件を越える児童虐待が起きていると推測される。

 

どうしてこんなにも児童虐待が増えているのかと分析されているが、子育ての難しさやその苦労によるもの、さらに母親一人に育児の負担がかかり過ぎるという実態が影響しているらしい。または、配偶者によるDVが家庭内で日常化していて、そのことによる子どもへの心理的圧迫が虐待として捉えられているとも報道されている。そして残念なことに、児童相談所にそのような相談や通告が行なわれていても、完全な解決策が見いだせないという現状がある。緊急避難的に、児童相談所に子どもを預かって救助しても、その後の保護者に対する指導援助が効果を上げて、児童虐待がなくなるケースは少ないという。

 

児童相談員のマンパワー不足、児童虐待の行為者に対する相談機能や指導機能が不十分だという指摘もあろうが、児童虐待をする者への支援と指導は難しいものがある。何故なら、当事者だけの問題だけではなく、その配偶者は勿論、同居している恋人、家族の問題もあるし、自分自身の幼児期における育児環境が色濃く反映しているからでもある。自分が幼児期に暴力を受けて育って、自分が親になったときに、同じように暴力を奮ってしまうケースは非常に多い。暴力の連鎖である。さらに、夫婦間の敬愛関係や恋人との恋愛関係が破綻していると、児童虐待に繋がりやすいということも言われている。

 

児童虐待のそもそもの原因は何かというと、経済的な理由や将来に対する不安、家庭環境の悪化、虐待者本人の無自覚無認識、配偶者の問題、子どもの発達障害など様々な要因が上げられるが、それは真の原因ではない。児童虐待が起きる本当の原因は、家族というコミュニティにおける関係性の希薄化と劣悪化にある。親子の関係性、夫婦の関係性、兄弟との関係性、さらには地域コミュニティの関係性も悪化していると、児童虐待が起きやすい。つまり、様々な要因とされているものは単なるきっかけや背景としてのものであり、本当の原因は関係性にあると推測される。

 

家族、地域、企業、組織、国家すべての共同体がその連帯機能を低下、もしくは破綻させてしまっていると言われている。自分さえ良ければいい、自分だけの幸福や豊かさをあまりにも追求する価値観が蔓延してしまい、家族、同僚・部下・上司、隣人と地域住民、国民、お互いの関係性を重要視する価値観が欠落しているとも言われている。だから、医療、介護、福祉、地方の衰退、震災復興の遅延、などの問題が起きていると言っても過言ではない。まさに、その根底、または縮図というような家族に問題があり、児童虐待が発生していると言えよう。それは家族だけの問題ではないし、このような社会を築き上げてしまった我々国民全体に責任があるに違いない。

 

それでは、この児童虐待の根本的問題を含めて、崩壊したコミュニティをどのようにしたら再生できるのであろうか。悪化してしまった関係性をどのように再構築して行ったらいいのか悩ましいところでもある。その為には、どうしてこんなにもコミュニティの関係性が悪くなったのかという歴史にも、注目する必要があろう。関係性が悪化してしまい、コミュニティが崩壊への道を歩み始めたのは、明治維新の近代教育導入からであろう。江戸時代までは、自分たちの利益や幸福を第一義的に求めるのではなく、市民全体の幸福や福祉を求める価値観を持っていたのである。それが富国強兵を実現するために、欧米の個人利益を容認する近代教育を取り入れたのである。

 

欧米の個人の自由や幸福を追求する近代教育の価値観は、コミュニティの劣悪化を招く弊害が現れて、その後見直されて全体最適を求める価値観も必要だと方針変更がなされた。ところが、日本の教育にはその情報がもたらされず、依然として個別最適を求める価値観が依然として残ったのである。その原則を重視するあまり、お互いの関係性をないがしろにしてきたのである。ということならば、そもそもの近代教育の価値観教育を見直し、自分だけの利益幸福を追求するのではなく、全体最適追及の価値観を学校教育や家庭教育で教えなければならない。そうすれば、関係性の重要性を再確認し、家族というコミュニティの再生が図られるに違いない。その結果、児童虐待もなくなると確信している。

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